蒼翠
2026-05-24 04:19:52
20586文字
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Take off 🌿🎈全年齢版(Rカット)

こちらはRシーンをカットした全年齢版となります。そのため話の流れがやや分かりにくい箇所がありますがご了承下さい。
完全版🔞(Pixiv)→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28158952

榊類
⚠️ 榊類、過去司類、類成年済、捏造過多
類が榊の演出助手についている世界線(捏造)。海外の新作舞台のために長期滞在している二人。ある夜、類が榊に誘われる。榊は単に欲の処理のため、類は過去に司と付き合っていた思い出を消すために了承し始まる二人の話。D&dイベントの劇中劇をモチーフとした会話あり。司は出てきません。
SNSにて「交渉」というタイトルで投稿していた短編から続きを書いた話です。

Take off > 離陸する、出発する、始める、取りかかる、うまく行き始める、軌道に乗る、取り去る、外す、脱ぐ、(化粧を)落とす、救い出す、切り離す、連れ去る、熱中する 他


 部屋のドアを閉めた途端、静寂が訪れた。
 衝動が、急に形を成して纏わりつく。神代の艶めかしい表情から目を離せない。躊躇いなく距離を詰めてきた男が、甘える仕草で胸元に額を寄せ身体を預けてくる。
……榊さん」
 そうだった。こいつ、演技経験者だった。
 自分で自分を演出、しかも俺の好みに合わせて調整してやがる。
「神代、あんまり煽ると、」
「類」
 え。
「名前で呼んで下さい」
「る…………っん!」
 がぶ、と食い付く勢いのキスで塞がれる。バーでのキスはほんの挨拶か。勝手に割り込んで擦り付けられる舌は、俺を誘おうという魂胆が見え見えで不合格。わざと逃げると不満そうに喉を鳴らすのが可愛らしくて、しばらく揶揄ったあと軽く噛んでやった。
「っつ! ひど、」
 文句を言う舌ごと絡めて押し返し、こうやるんだよと手本代わりに口内を蹂躙する。それなりに自負があったのかもしれないけど、あいにく人生経験はこっちが上なもんでね。
 力が抜け始めた様子に、キスをしたまま手首を掴んでベッドへと誘導する。
ベッドの縁に膝裏が当たったところで肩を押すと、呆気なく背からシーツに沈み込んだ。
「っは、ぁ、こんな激しい、の、榊さんの」
「新鮮? 口にだけはしなかったからねぇ」
……今まで、沢山、相手がいたんですか」
 何、嫉妬? 可愛らしいなぁ。
「それなりに歳くってるからね」
「なら僕だけで上回って下さい」
「えぇ無茶言う……っ、わかった、わかったから」
 不貞腐れて首裏を引き寄せる神代をいなし、また唇を貪る。勘がいい。すぐにペースを合わせてきた。薄い舌が器用に擦りつけられて、これは中々に気持ちいい。
「かみ……類、準備頼める?」
 俺の瞳を見て頷く姿に、熱が上がる。本当の意味でこいつを抱くのだと実感する。俺も取り繕うのをやめて、自分を曝け出す覚悟でこいつに触れると決めた。


 
「良い眺め」
 ベッドに乗り上げ僕にキスしようとする榊さんを、片手で押して止める。
「っまだ、まだダメです」
「なんで」
……肝心な言葉を聞けてないです」
 きょとん、と眼を丸くした表情が随分若く見えて噴き出してしまう。まさか素で気付いて無かったとか? てっきり策略だと思っていたのに。意外と迂闊なのかな。
「肝心な言葉って……
「僕らは、これからどういう関係になるんですか」
「どうって、そりゃ付き合……あっ」
 僕らはずっと順番が滅茶苦茶だ。本当は、一番最初に欲しい言葉。
 少しだけ体勢を整える。順序も純愛もあったもんじゃ無いけれど。

「か…………類。」
「はい」
 大人しく見つめる。僕らの腕の距離分しかない空間に、高濃度の甘さと緊張が漂っている。

「好きだよ」

 ド直球で思わず笑ってしまう。
「そんなので大丈夫ですか?」
 くすくすと肩を揺らすと、不本意そうに顔を顰められた。
「ダメ出しあるの!?」
「そりゃ」
 どうしよう、楽しい。情けない顔をした世界的演出家が、駆け出し助手のやり直し要求に頭を悩ませている。なかなかお目にかかれないレアシーンだ。

「あー」

 リテイク。

「好きだよ」
「ええ!?」

 まさかの、全く同じ台詞。微妙な顔をする僕に、榊さんが弁解する。ちょっとだけ顔が赤い。
「だって仕方ないでしょ! 浮かぶのがそれなの! こんな時に要らない演出つける方が野暮ってもんでしょうが」
 あ、無理。我慢できない。
「ふ、ふふ……あはは!」
「笑うな!!」
 いつも澄ましたこの人の、こんな顔が見れただけで大満足だ。僕の、僕だけの特権。
 だから、お返し。

「僕も、好きです」

 真っ直ぐに目を見て。この人が露わにした感情をひとつも落としたくないから。

「僕は、貴方を、愛おしい……と思います」
 両手を伸ばし、頬を包み込む。無精髭が掌にザラザラと触れる。
「ふぅん……愛おしい、か——怪物が発する台詞にしては、ちょっと甘過ぎるんじゃない?」
「そうですね」
 よく覚えているなぁ、と思う。懸命に練り上げた僕の内面を、僕は既に見られている。だったらあとは、今の想いを素直に伝えるだけでいい。

 榊さんの胸に指先を添えて囁く。
……愛してます」
 はぁ、とため息が降ってきた。
「今夜は素の顔でいこうと思ってんのよ、だからあんまり煽らないで」
 影が落ちてくる。

「愛してるよ」

 僕らの間の距離が消える。
 触れた唇は静かに重なり、深さを増していく。



「ね、もう優しく抱いても良いんだよね?」
「は……はい……
「良かった。心配してたんだよ、最初」
「心配……?」
「てっきり、売りでもやってたのかと思って」
「!?」
 何で! 驚いて榊さんの肩を押す。
「いや、だって、やたら慣れてたし、俺だとわかるように声掛けて欲しがるし」
 ああ、あー、確かに誤解を招きかねないことばかり要求していたかも知れない。
「一回じゃ満足しないし……手荒に扱って欲しがるし」
「ぅ……
「本当は、乱暴なの苦手だったんでしょ?」
 バレていた。
……時々強張っていたからね。他の誰かを浮かべてしまうのも、それを避けたがっているのも、何となくわかってたよ」
「ごめんなさい……
「謝らなくていいよ。もともと、誘ったのは俺だもん。だから、そっちから声を掛けてきた時は驚いた」

「いつから、気づいてたんですか」
「最初から。演出家舐めるんじゃないよ」


「俺さー、綺麗なもの好きなんだよね。声も見た目も、神代はね、俺の好みなんだよ」


 榊さんは甘く優しく意地悪に僕を追い詰めていく。

 恋しくて見つめても、快感に瞼を閉じても、同じ相手が目の前にいる。下の名で呼ばれても、別の記憶に気が逸れることもない。
 それがとてつもなく僕の救いであることに、僕自身が驚いている。安心感に包まれながら、たぎる熱の逃げ場を求めてキスを強請った。脳も体内も沸騰しそうだ。この熱を吸ってほしい、大人の余裕で冷ましてほしい。
 なのに、これまでの埋め合わせかと思うほど、榊さんは愛の言葉を浴びせかけてくる。
 綺麗、好きだよ、可愛い。——類。
……っ、もう……言いすぎ、です……
 恥ずかしい。冷ますどころか熱を煽る榊さんに、耐えきれず顔を背けると彼は笑った。
「言わせてよ。なんかさぁ、初めて抱く気分なんだもん」
 
 僕がリードしたり合わせたりしていたのが嘘みたいに、今は榊さんに身を委ねている。そのままの僕を受け入れて丸ごと飲み込んで塗り潰してくれるから、虜にされた僕はなすすべがない。

 もう溶けてしまいそうだ。榊さんは言葉と全身で、僕をドロドロに甘やかす。優しい声音と裏腹に攻めは容赦ない。

「君の姿も声も綺麗だからさぁ、いくらでも見たいんだよねぇ」
 
 肩で息をしながら、榊さんの胸元に額を押し付けた。
 あまりにも丁寧で、甘くて、執拗で、手を緩めてくれない。もうくたくただ。
……榊さん」
 声が掠れてきている。余力を絞って額を擦り付けた。
「ん?」
……そろそろ、榊さんも……
 お願い、と続けた声が情けない。
「限界?」
 小さく頷くと、くくく、と嬉しそうに喉で笑う音が聞こえる。酷いなあ。でももう抗議する体力すら残っていない。 
 榊さんが僕の髪を撫でた。
「わかったよ、今夜はここまでね」
 声の色香に背筋が震える。

 僕を強く抱き締めた榊さんが、耳元で名を呼んだ。



 そのあともしばらく、榊さんは僕を離さなかった。肩口へ顔を埋め、時間をかけて呼吸を整えている。ちょっと重い。
「榊さん」
「んん……?」
 優しく抱かれることが、こんなに消耗するなんて思わなかった。
……毎回これは保たないんで……これまでみたいに、もう少し手荒くてもいいですよ」
「乱暴なの苦手だったんじゃないの?」
「甘すぎると塩味も恋しくなるんです」
 なるほどねぇ、なんて呑気な呟きが聞こえる。当事者のくせにそんな他人事みたいに。
「はは、じゃ、たまには強引にさせて貰おうかな」
 榊さんは機嫌よくそう言って、キスをくれた。
「加減はして下さいよ」
「俺に新しい扉開けさせたのはそっちだからね」
「過剰演出は要りませんからね」

 目を合わせ、二人で笑った。



 榊が天井を見上げたまま口を開く。
「今作これだけ注目浴びちゃったからさー、帰国したらメディア取材だらけになりそうなんだよねぇ。やだなー、面倒」
「良いことじゃないですか。でも……じゃあ、なかなか会えませんね」
 寂しさが滲む類の声に、榊が瞬きする。そっか、と小声で呟いて何やら思案し——

「呼ぶよ。家に。鍵も渡すね」
「えっ」

 がばっと身を起こした類が眼を丸くして榊を見つめる。境界線がハッキリしたこの人は、そういうのは嫌がると、自分の部屋に他人を入れない人だと思っていたから。
 それが、こんなに早く。
 嬉しい。
 勢いよく榊に覆い被さって抱きついた。
「言いましたよ!? だったら、絶版で手に入らない映像とか、資料とか、そうだ榊さんの過去の作品とかも一緒に観たり」
……っ、おい、重いよ!」
「嬉しい! 約束ですよ!」
 重いと文句を言いつつ、榊の手が自然と類の髪へ伸びる。指先に絡むやわらかな感触。何度も触れてきたはずなのに、特別愛おしい手触りを確かめる。

 ——映像、ねぇ。

「家に呼ぶ理由、わかってるんでしょ」
……っ」
 赤く染まった耳を軽く喰む。急に大人しくなったのが答え。黙って体重を預けてきた類を抱きしめ、瞼を閉じた。