蒼翠
2026-05-24 04:19:52
20586文字
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Take off 🌿🎈全年齢版(Rカット)

こちらはRシーンをカットした全年齢版となります。そのため話の流れがやや分かりにくい箇所がありますがご了承下さい。
完全版🔞(Pixiv)→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28158952

榊類
⚠️ 榊類、過去司類、類成年済、捏造過多
類が榊の演出助手についている世界線(捏造)。海外の新作舞台のために長期滞在している二人。ある夜、類が榊に誘われる。榊は単に欲の処理のため、類は過去に司と付き合っていた思い出を消すために了承し始まる二人の話。D&dイベントの劇中劇をモチーフとした会話あり。司は出てきません。
SNSにて「交渉」というタイトルで投稿していた短編から続きを書いた話です。

Take off > 離陸する、出発する、始める、取りかかる、うまく行き始める、軌道に乗る、取り去る、外す、脱ぐ、(化粧を)落とす、救い出す、切り離す、連れ去る、熱中する 他


 その日から、榊と類の関係は続いている。

 演出家と助手としての、仕事上の距離感は以前と何ら変わらない。過密なスケジュールも要求される難度も質も、これまで同様に容赦ない。
 類は懸命にそれらをこなし、榊はそれを見て更に過酷な指示を出す。優秀なチームで構成されるこの案件——この地での新作舞台は着実に仕上がっていく。

 昼は演出をこなし、夜は不定期に関係を持つ。
 最初こそ榊からばかりだった誘いが、いつしか類からも持ちかけられるようになった。
 そしてその頻度は明らかに増している。
 榊は最初、それを単純な欲の発散だと思っていた。
 だが回数を重ねるごとに、違和感が募る。
 これは、違う。
 類は優しく扱おうとすると嫌がって不満を言う。甘やかそうとすると表情が崩れる。一瞬ひどく苦しそうに歪み、すぐに隠される。
 例えるなら、自傷、ヤケ、自暴自棄。しかもだんだん酷くなっている気がする。

 ある夜、榊は見かねて問いかけた。
「君は……俺で、何をしているの。何がしたいの」
 シーツに突っ伏す類の乱れた髪を、指で梳く。汗ばんだ額に貼り付く紫の髪を掻き分け、潤んだ月色を榊は捉える。
 月色の瞳はぼんやりと榊を見つめ返し、ついと伏せられた。
……榊さんは、気持ちいいので」
 そう言うと類は腕を持ち上げ、隣に添う榊の首に絡みついた。
 榊からはもう、表情が見えない。
 きっと追及しても言わないだろう。榊が始めた関係である以上、これ以上の踏み込みは気が引ける。

 榊は結局、気づかないふりを続けている。



「お、良かった空いてる」
 通い慣れたバーのカウンター席が、すっかり二人の定位置になっている。
 今夜は、珍しく神代から「飲みに行きませんか」と誘われた。きっと相談事だろうという推測は、開始早々外れることとなる。

 普段よりハイペースでグラスを空ける神代は、酔いの回りが早かった。やんわり制止しても、目を離した隙に新たなカクテルに口を付けている。何杯目の時か、見かねて手からグラスを取り上げた。あー、という文句を無視して一気に飲み干したのは、甘みの少ない柑橘系のカクテル。普段の自分が絶対頼まない系統の味。甘過ぎなくて良かった。
 不満も露わにまだ飲むと言い張る酔っ払いを、苦労しながらカウンターから引き剥がしホテルへ連れ帰った。

 身長180超えの男が二人。エレベーターで肩を貸しながら、重さに顔を顰める。少しは自分で立とうとしなよ。
「大丈夫? 気分は?」
「最悪です。……それよりお酒下さい」
「全然ダメだね、この酔い代くんは。一旦俺の部屋で休んで行きな」
 自室に担ぎ入れ、ベッドサイドに座らせる。酔っ払いの介抱なんて長らくしていない。冷蔵庫から冷えた水を一本手に取り、キャップを開けながら戻る。相変わらず項垂れて動かない男の手を掴み、指を開いてボトルを握らせた。
「ほら、一口でもいいから飲んで」
「いらないです」
「我儘言わないの。無理やり飲ませるよ」
「できるものならどうぞ」
 ほんと、何なんだ。初めて見る厄介な姿に途方に暮れる。
 明日は久々の休息日で、それを見越しての深酒だったのかもしれない。俯く神代の手から、口に運ばれる気配のないペットボトルを取り上げる。覗き込んで顔色を確認する。とりあえず深刻な酔いではなさそうだ。

 その至近距離。突然、神代が顔を上げた。
「さかきさん」
「っわ、何」
「しましょう」
 呆気に取られ、反応が遅れる。
「する……って、えっ? は? 君、準備、出来ないでしょその状態で」
「準備できたらいいんですね」
「いやダメだよ、危ないから」
 いつになく我儘で、他人の言うことを聞かない。外面の『神代』が隠し持っている一面を、ひとつずつ取り出してわざと俺にぶつけているような。
 かと思うと我儘から一転、急に萎らしい顔をする。
「明日休みだから、いっぱいできると、思ったのに」
「っ……、そんな直球な」
「いいです、じゃあ自分で処理します」
 立ち上がり、フラフラと浴室へ向かう男を慌てて止める。足止めされた途端、今度はその場で服を脱ぎ始めた。
「わっ、こら、人の話を」
「これでもう廊下には出られないです。さあ! このまま寝るか、シャワー浴びて寝るかの二択です。抱く相手には、清潔にして欲しいですよね」
 だから何なんだよ! 酔っていても知恵だけは回るときた。観念した俺は、シャワーを使わせることに同意し、扉の前で待機することにした。



 「冷たっ、おま、髪濡れて、待てって痛っ」
 神代が俺に抱きついている。
 浴室から出るなり、タオルドライしただけの髪から雫を滴らせた神代が、支えようと立ち上がった俺を腕の中に捕まえた。その体勢で首筋に唇を降らせ、それに飽き足らず、あちこちに甘噛みを繰り返している。
「お、いっ、やめろ落ち着け酔っ払い」
「ん……ちゃんと準備、できました、よ」
「本当にするの!? だとしても、俺もシャワーを、痛いっ!」
 視認できる赤さで歯形が残る。
「いやだ待てないです。このまま……あっそうか、じゃあ僕も一緒に浴室に」
「ダメ! っ、はあぁぁ、わかったよ、すぐ出てくるから。君は大人しくベッド行ってなさい」
 口を尖らせるデカい駄々っ子を押しやり、服を脱ぐ。神代の腕が伸びてきて、シャツの裾を掴む。

「やめろ! 捲るなっ!!」



 半分に減ったボトルの水、横たわる体。眠ってしまったのかと思うほど静かな姿に声をかける。
 「さあカミシロくん、仮面を脱ごうか」
 さっきとは別人のような凪いだ表情の彼はゆったりと向きを変えた。ちゃんと起きていた。

「どうしたの、今日は」

 返事はない。無言で絡み付く腕に任せ、覆い被さり首筋に舌を這わせる。
 騒々しかった反動のように、かつてなく静かな行為が進んでいく。
 途中で体調が急変しないか、いつも以上に慎重に神代の様子を伺いながら手を唇を這わせていた。だからこそ気付いたことがある。
 お前、やっぱり何かあっただろ。



 行為に溺れている途中。
 ふと、月色の瞳が見えた。
 焦点の合わない目で、どこか遠くを見ている。

 俺に抱かれながら、神代はぽつりと溢した。


……つかさくん」


 ……つかさ? 司……天馬?


 部屋の空気が止まった。
 思わず手を止めていた。神代も気付いたらしい。身体が強張り、茫然とした声が漏れた。
…………
 見る見る表情が変わっていく。見開かれる瞳と俺に結ばれる焦点、それから、震える唇と———— シーツから離れた両手が顔を覆い隠した。
……っ、違…………
 声が一転し、嗚咽に置き換わっていく。抑えていたものが一気に噴き出したかのような姿。

 ——そういうことか。
 身体を離し、泣き崩れる神代を前に思案する。今かけられる言葉なんか限られている。

「大丈夫」
 脇腹を掌で軽く叩く。それから。
……わかってたよ」
 呻き声を上げながら神代は横を向き、身を丸める。これは少しかかりそうだ。
 抱かれながら、誰かを意識している事には気付いていた。それが誰なのか、どれくらいの感情なのかまでは分からなかったけれど。
 天馬——神代が共に活動していた男か。二人揃って見たのはTCTでのワークショップの時、この子が高校生の頃。同じ劇団という以上の繋がりがあったのだろう。普段冷静な男が、こんなにも感情を露わにするくらいだ。無茶な飲み方をしていたのも、ひょっとしたら彼が原因なんだろうか。

 ティッシュを箱ごと目の前に置いて、自分も背側に横になる。
…………すみません……
「いいよ。それよりも、水飲みなよ」
 飲みかけのペットボトルもティッシュの横に転がす。
「ただでさえ酔ってんのに、それ以上水分減らしてどうすんの」
 掛け布団を引っ張り上げ、腰までかけてやる。ティッシュを引き出す音がする。

 仕方ない、今日はここまで。
 後始末をして、浴室へと向かった。



 その夜、神代は自室に帰らなかった。というより、帰れなかったと言う方が近い。泣き疲れと酒のせいで、そのまま眠ってしまったからだ。身体を流し戻った時には、既に寝息を立てていた。
 顔色を見たついでにベッドに腰を下ろし、しばらくその無防備な寝顔を眺めていた。

 助手として見せるソツのなさとは、まるで別人だ。こうして見れば、年相応のまだ若い男。何を抱えて俺の側で学んでいるのか。

 何を思いながら、俺に抱かれているのか。

 今夜のことを覚えていなければいい。だがおそらく、コイツはそこまで酔ってはいない。明日もまた胸の内は一切見せず、何事もなかったかのように淡々と仕事をこなすのだろう。

 帰国まで、ひと月を切った。
 その間、このメンタルで乗り切れるのか。

 酒場での様子、依存の如く抱かれようとする姿、行為中の要求、そして今日の崩壊。

 放っておけない。
 ただ純粋に、そう思った。



 翌朝、目が覚めると既に神代の姿はなく、代わりにシンプルな詫びのメッセージがアプリに届いていた。枕元の水がボトルごと無くなっていることに安堵し、再び布団に潜り込む。
 今日は本番までに与えられた最後の貴重な休日だ。あんなことがなければ、今朝はアイツと一緒に近くのカフェにでも出掛けたんだろうか……とぼんやり考えたところで呆けた。
 俺は、時間があれば寝ていたい人間ではなかったか。そもそも何事もなければ神代は自室に戻っていただろう。
 どうした榊。自分の思考回路に呆気に取られる。居心地の悪さを感じて、寝返りを打ち目を瞑った。