保科
2026-05-21 18:58:45
13650文字
Public 超かぐや姫!
 

ふぁにーゔぁんぷ!

かぐいろ Twitterに投げてた『月の姫は真祖では?』という連想ゲームの吸血鬼かぐやと彩葉の本編IFです 出会い〜ヤチヨカップ中位までの散文のまとめになります
表題は借りましたが特に型月要素なし、DECO*27のヴァンパイアがイメソンです

6/5とか 6/9とか なんか追記してる
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かぐやのクラスはバーサーカー!……え?ムーンキャンサー?



にちじょう



「いーろーは。おいし?おいし?」
「いや、まあ、……超うまいけど……
「よっしゃっしゃ〜!」
よく煮込まれたポトフは、一口大に切られた具材が柔らかに噛み切れる。染み込んだコンソメの旨味も最高だ。スープもいくらでも飲み干せる。気を抜くと行儀よく無言で食べ進めてしまう私を引き留めるのは、目の前、ガッツポーズを決めながらるんるんとこちらを見てくる居候――かぐやのせいだ。
居候。シェフ。宇宙人――吸血鬼。かのかぐや姫は血を吸う化け物でした、なんて、どんな超訳の物語にもない記述だろう。
あの日、七色に輝く電柱から拾い上げた赤子がみるみる育って明かした正体は、経緯を含め私を混乱の極致に追い詰め――最終的に、思考を放棄した。もうなんだっていいや。
血を抜かれた酒寄彩葉は疲れていた。本当に疲れていて、そして、猿真似からはじまり人真似を超え、いまや超絶技巧のシェフから与えられる飯がもう連日美味すぎたのだ。考える力を尽く奪われた。
そうしてなんだかんだと、かぐやがこのアパートに居着いて3週間が経過していた。ツクヨミでかのヤチヨに宣戦布告をしたために、ライバーとしても忙しい今の彼女は、どこをとっても向かうところ敵なしと言った具合で本当に――輝かしい。言わないけど。
だって。夜通し騒がれたり勝手にカネを使われたり謎の置物を部屋に置かれたりとさんざっぱら迷惑をかけられている身の上だ、トントンならまだしも、褒めるとか、ご褒美とか、別に――
―――
満腹由来の気だるさに背中から床に倒れ込む。天井の蛍光灯が眩しくて、目を細めて――何も見えないふりをした。
――かぐや」
「ん?」
「かぐやは、食べないの」
「食べたよ?お代わりしたよ、ポトフ」
「じゃなくて」
そう、ではなくて。――思い返す。

『食事もさぁ、まあ2種類?あるわけよ』
来たばかりの頃。私よりはるかにちびだったかぐや――あの頃はまだ、名前もなかった――は、突然喉元に噛みつかれ貧血で朦朧とへたり込む私に、ウンウン唸りながら説明した。
『さっき彩葉がくれたオムライスとか。あーいうものも、食事。でも、私にとってあれは、なんだろう……エンタメ?的な。おいしくて楽しいけど、まー、そんなに元気になれない。ちょっとはなるけど』
で、と。もうひとつ。指が2本――だめだ視界が霞んで3本に見える。
『生き物の、血。それも、ヒトのヤツ――一番、おいしくて、楽しくて、元気になる。……んだけどなぁ。もー、彩葉の血ってばダメダメ。一口ごとにデバフだよデバフ』
『勝手に、吸って、勝手に、文句、言うな……!』
振り絞った怨嗟もどこ吹く風。あ、そっか!と彼女は手を鳴らす。
『私が彩葉、元気にして美味しくすればいいんだ!そしたら元気な彩葉も満足な私もハッピーエンドだ!』
『は?』
『うっしゃー、ハッピーエンドに連れてく!彩葉も一緒に!』
――いやなんだそれ、と言う前に、私は即、気を失ったわけだけど。

有言実行とばかりに、それからというもの、かぐやは本当に私の健康管理を徹底し始めた――時に暴れ時に泣き時に駄々をこね時におねだりと、まあ、なんか手段は一切選ばれなかったけれど。
いやいや仕方なく、本当に仕方なく、かぐやと二人三脚で積み上げたこの3週間は、しかし――私からこの言葉を引き出すのには、十分な献身だった。
――吸わないの、今日は」
机に阻まれて見えないかぐやの雰囲気が、一瞬、ゆらついた気がした。
言葉なく、のそり、と立ち上がった少女が逆光の中を歩いてくる。すっかりでかくなった背を丸め、私の仰向けの体の隣に座り込んだ。ツクヨミ内を真似た金髪が、まるでカーテンのように垂れ下がる。
………。いいの?
だって、昨日ももらったよ?」
「まあ、ちょっとくらいなら。
……要らないなら別に――
「いる」
食い気味に重ねられる。目が合う。スマコンとも違う、朧な赤色の瞳が、私を捉える。――獲物を、捉える。走った背筋の痺れは気の所為だ、平常心は揺らがない。いつも通りの忠告を繰り返す。
……いーい。見えるところはダメだよ」
「ん!もち分かってる首めっちゃ怒られたもん。
袖、めくってよし?」
「どーぞお好きに」
寝転んだまま、左腕のTシャツの袖を引き上げられ、二の腕がむき出しになる――そこに未だ残っている鬱血したカサブタは、10を超えた頃から数えてない。
―――
じ、と、私に覆いかぶさったまま、かぐやが固まった。違う――待っている。他でもない私の許可を。毎回これだ、犬か、と突っ込みたくなって、でもこいつはうさぎで鬼だ。属性過多め、ため息を一つ。――引き返せない言葉を口にする。
「かぐや。
――いいよ」
――いただきます」
ポトフを食べるのと同じように、律儀に食前の挨拶をして。口元に伸びる牙を、私の皮膚へとずるりと
差し込んだ――じぐり、肌を突き破る痛みの後、すぐにそれは遠ざり、ゆるやかに、体の中から抜かれるような虚脱感だけが襲いかかる。献血ってこんなんなのかなあ、と、ぼんやりする頭で考えながら、時間をやり過ごす。
数秒――数十秒ほど、だろうか。「……。ごちそうさまでした」
ぽつり、かぐやが呟いた。ああ、もういいんだ、と、離れる――抜かれる感覚に、何故か物足りないような心地に陥る。私を労るように、かぐやがティッシュで傷口から溢れる血を拭う。それから備え付けの消毒液で手早く処置をすると、その上から絆創膏を貼って、圧迫するように押さえてくれる――すっかり手慣れた一連だ。
「彩葉、大丈夫?つらくない?」
「別に、何ともないよ、これ位。――で、どうだったの」
瞬間。ずっといたわるような、気まずげな顔が――ぱぁ、と花開くように輝いた。
「めーーーっちゃうまいっ!」
「あ、そう……
「っぱ睡眠と栄養だね、大事すぎ!彩葉の血ね、生臭さが減ってコクとのど越しがもうだいぶ良くなった!味も塩味が強くなくてさぁ」
「いやあんたのレビュー何一つわからんから私」
どう考えても生臭いだろ、血は。私の静止なんてまるで聞かず、浮かれた調子で喋り倒すかぐやに、私は良かった、と思った。良かった――何が、かは。考えない。

『ねえ、かぐやはさ』
『ん?』
『私以外の人の血は吸わないの?』
――んー、興味ないなあ。かぐやは、彩葉のがいいから』
『は?ゲロまずいのに?』
『だからかぐや自ら改善頑張ってんじゃ〜ん。てかそれ言ったらさ、――なんで彩葉は、かぐやに血、くれるの?』
…………献血って大事な社会貢献でしょ』
『なんつーボランティア精神だよ!?』

――数日前、ついぞ明確な答えを返せなかった問答を思い出す。考えない。
考えたくない。
考えてしまったら。
「彩葉、――ありがとっ」
に、美しい姫の口元が、まるでつややかな口紅のように赤いのが目に毒で。私はすっと床に目を逸らす。
「はいはい」
――かぐやのため、なんて、考えたら。