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サブさぶれ
2026-05-09 17:25:24
14364文字
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原作軸③
原作軸のSS・短編置き場③です。
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ハッピーメリークリスマス!
【Side A】
ミルホッグ級の鋭い目でスマホの画面を見る。手を動かす。分かんなくなって、動画を十秒戻す。慎重を期して再生速度を少しだけ下げる。どうなってんの、と何度も頭を捻ったシーンをじっくり観察する。くるりと一回転した針は、直前に作られた輪っかの中にするりと入っていった。
——
私だって、同じことしてるのに。なのに、どうして〝コレ〟はこんなに歪なんだろう。
黄色いふわふわの毛糸とサワロ先生に借りた編み針と、不親切な『初心者向け! 最高に簡単なマフラーの編み方』の動画を見比べながら、私は小さく鼻を啜った。
離れて暮らす大切な人にクリスマスプレゼントを贈りたいと思いついたのは十一月の末のこと。何をあげたら一番喜んでくれるかなって悩んだ期間、一週間。きっとどんな物でも喜んでくれるって分かってたから、余計にどうしたらいいのか困ってしまった。うぬぼれかもだけど、君って私に関することだと何でも「わやー」ってほわほわに笑って受け入れちゃうよね。
……
嬉しいけど、もう少し自分を出して欲しい。ワガママになってほしい。自分のことも、大切にしてほしい。
だから、私だって君の助けになりたいんだよって伝えられる物にしようと決めた。ついでに「いつもそばにいるよ」って主張したかったから、身につけられる物を贈ろうと決めた。手っ取り早くて安心安全なのは既製品。だけど、どうせなら世界に一つだけの物を渡したい、身につけてもらいたい。そんなこんなで候補を狭めていって、恋人に渡すはじめてのクリスマスプレゼントは手作りマフラーに落ち着いた。
生まれてこの方編み物したことなんてなかったから、真っ先に手芸の達人・シュウメイ殿に弟子入りした。厳しいレッスンを超えてお墨付きをもらった後、特訓を見守ってくれていたサワロ先生から「ワガハイの私物でよければ」と初心者向けの編み物道具を貸してもらった。二人ともすごく優しく笑って「きっと喜んでくれる。頑張って」と背中を押してくれた。実際、練習用で作ったマフラーはコライドンもウェーニバルもオーガポンもママも喜んでくれて、自分でも最高に上手!って胸を張れるほどの出来だった。なのに。
「どうしてスグリの分だけ上手くいかないのー!」
君が喜んでくれる顔を浮かべる度、「あったかいな」って頬を赤らめる姿を妄想する度、編み目がグチャッと変になっちゃうの。ガオガエンより温かくて、オオタチよりもふわふわで、君がくれたカジッチュより甘くて優しくて愛おしい物に仕上げたいのに、気持ちの分だけ下手っぴになっちゃうの。
高速カイリュー便を使ったとしても、クリスマスに間に合わせるなら最低四日は必要だ。つまり、タイムリミットはあと五日。失敗作はこれで八つ目、残ってる毛糸玉はあと三つ。
「絶対間に合わないよぉ
……
」
迫るタイムリミットを前に、私はこれまでの人生の中で一番絶望していた。にじむ視界に、疲れて震える手が映る。最後の仕上げにと思って買ったりんごのブローチが、テーブルの上で虚しく輝いていた。
◆
【Side S】
コダックさながら頭を捻る。空いたスペースに案を書き、やっぱり違うとぐちゃぐちゃに塗りつぶし、ため息を吐き
——
悩み始めて早一時間。まっさらだったA4用紙はいつの間にか、いろんな大きさのモンジャラ牧場になっていた。
「あんた、まだ悩んでんの?」
呆れの色を隠さないねーちゃんの声が容赦なく降ってくる。頭を思いっきり後ろに倒して上を見る。ねーちゃんは心底馬鹿にしてますって目をしていた。
「アオイは何だって喜んでくれるから大丈夫だって、さっきから言ってんでしょ?」
「だから余計に悩むんだって言ってんべ! ねーちゃんのバカ、分からず屋!」
咄嗟に出た声は、バトルで指示を出すときみたいな大音量になってしまった。直前に迫った長期休みに浮かれてざわめいていた空間がシンと静まる。部室にいたみんなが俺たちを振り返る。沈黙と視線の冷たさが容赦なく突き刺さってくる。気まずくなった俺は背中をギュッと丸め、紙で顔を隠し、小さく硬く縮こまった。頭ん中はなおも、アオイのことばかり巡っていた。
大好きなきみは、俺が抱えてるのと同じくらいの「好き」を俺に向けてくれる。そして嫌いな物なんてないんじゃないかって疑っちゃいたくなるほど〝好き〟なものが多いらしい。その上、とんでもないくらいに優しい。だから、どんな物だって「やったー!」って喜んでくれるって、ねーちゃんに言われなくても分かってた。分かってるけど、それでもやっぱり心からの「やったー!」を引き出したくて、あわよくばテラスタルよりピカピカの笑顔を独占したくて、新しい構成組むとき以上に悩みまくってた。
友達も多いアオイはきっと、月並みなプレゼントは見慣れてるだろう。奇をてらいすぎて気を使わせたら意味ないし、冗談めかした物なんて論外だ。どうしよう、どうしよう。どうしたら。
「どうしたの? また姉弟ケンカ?」
考えてたのと同じ言葉が外から聞こえてきたのにビックリして顔を上げる。テーブルで四天王会議をしていたアカマツがこっちに近づいてくるところだった。アカマツに続いてネリネ、タロ、ついでって感じでカキツバタまで来た。
「別にぃ。喧嘩なんかじゃないわよ。スグがうじうじ悩んでるから発破かけてやっただけ」
「ならよかった。二人は笑顔が一番似合う」
俺たちを見比べてネリネが優しく笑った。また心配かけちまったんだと気付いて申し訳なくなる。さすがのねーちゃんも同じ「ごめんなさい」って顔してるだろうな。こそっと様子をうかがうと、ねーちゃんはしれっとした顔のまんまだった。それどころか、パチンと手を叩いて愉快そうに笑いだした。
「ちょうどよかった。ねぇ、あんた達。クリスマスプレゼントにもらって嬉しい物って何?」
ねーちゃんの突然の質問に四人が一瞬固まる。最初に口を開いたのはアカマツだった。
「オレは新しい激辛調味料かなー。でも前に来たハイダイさんの愛用深鍋もほしいかも!」
「
……
想いのこもったプレゼントも恐悦至極。しかし、絵に残したくなるような風景を共有する方が嬉しい、かと」
「あ、それステキですねー! ロマンチックかつ可愛い場所で二人だけの思い出を重ねる
……
。最高のプレゼントです!」
「そんでドデカい宝石ついた指輪でもドーンと渡しゃ、キョーダイもコロリだろうねぃ」
「あれ? サンタさんに頼みたい物の話でしょ? なんでアオイが出てくるの?」
アカマツがフライパンで口元を隠しながらカキツバタに訊ねる。ネリネとタロはどこか楽しそうな笑みを浮かべて「さあ、何でだろう?」と肩をすくめ、カキツバタはねーちゃんのヘビ睨みをかわして自分の席へと戻っていった。俺は
……
ねーちゃんの質問の意図と、三人がそれを承知で答えてたってのにようやく気が付いて、じわじわ体温が上がり始めてた。
ひとしきり睨み終えたねーちゃんが俺を振り返る。
——
腹立つくらいに得意げな表情して。
「男連中の案は当然却下だけど、ネリネとタロの話は役に立ったでしょ。絶対大丈夫なんだから、自信持ちなさい」
そう言って、なぜか俺にデコピンかましてきた。お節介はここまで、とでも言いたかったんだろう。ねーちゃんは俺が何か言うよりも早く、ネリネたちの後を追いかけていった。ぽわぽわ熱いまんまの顔と、どんどん大きくなる心臓の音を持て余してる俺だけが、部室の片隅に取り残された。悩んでるのバレバレだった恥ずかしくて、情けなくて、でも応援してもらえたのは嬉しくて、何だか不思議な気分だ。
モンジャラ畑になってた紙を折りたたみ、バックルをぐるぐる回し、鞄をお腹の前に持ってくる。そして、奥底にしまい込んでいた封筒を慎重に取り出した。
「こんなんで、本当に喜んでくれんのかな」
一枚だけのパルデア発イッシュ行きのチケット。何日も前に書いた、二回目のお誘いの手紙。ねーちゃん達に背中を押してもらってなお、こんなのできみが本当に喜んでくれるのか不安でたまらない。こんな、会いたいって俺の気持ち最優先なプレゼントなんかじゃ
……
。
「
……
でっけぇ宝石がついた指輪って、いくらくらいすんだべ」
ぼやきながら、ばーちゃんに預けっぱなしのお年玉通帳の残高を思い出そうとした。
◆
【当日】
『アオイへ』
静かで丁寧で、なのにところどころ勢いのよい字が並んでいる。キラキラパウダーが散りばめられた特別な紙も素敵だけど、何より素敵なのは綴られていたまっすぐな気持ちだった。
『アオイへ お元気ですか。俺は元気です。だけど、アオイの留学が終わってから一度も会えてないので寂しくも思ってます。毎日、会いたいな、またお話したいなって考えてます。もちろん今度は絶対勝つぞってのも思ってるから、そこは安心してください。
話が逸れたけど、クリスマスプレゼントの第一弾としてチケットを送ります。今度は一枚だけ。アオイさえよければ、二人っきりでクリスマスのお祝いをしませんか。
急なお誘いでごめんなさい。でも何の予定もなかったら、どうか俺に時間をください。素敵なクリスマスの思い出をプレゼントさせてください。頑張って用意して待ってます。 スグリ』
読み返すたびに胸がキュンと高鳴る。会いたいって、お話ししたいって、でも絶対負けないぞって気持ちまで同じだったと知れて、それだけで満たされてしまう。手紙の最後、大好きな人の名前の上に「ありがとう」の気持ちを乗せた唇を寄せる。シワにならないよう注意しながら抱き締める。そして
——
気合いを入れ直した。
スグリがくれた最高に素敵で、最高に幸せなクリスマスプレゼントに応えなければ。
アオイは膝の上に転がしたままだった糸と針を再度持ち上げた。イッシュに着くまであと三時間。それまでに、想いの丈を仕上げなければならなかったから。
ブルーベリー学園に着く頃にはすっかり陽が傾いていた。目の前に広がる海は巨大な炎ポケモンが沈んでいってるんじゃないかと錯覚するほど赤く燃え、背後には濃紺が迫ってきている。時間帯のせいなのか、細く伸びるエントランスブリッジは静まり返り、行き交う人もたむろしている生徒も誰一人としていない。空中のどこかを揺蕩うゴーストポケモンのかすかな気配と鋭い海風ばかりアオイの真横を通り過ぎていった。理由もなく不安な気持ちに駆られ、連絡船の上で包んだばかりのプレゼントをギュッと抱き締める。気持ちが解けたのは、門の前に立つ愛おしいすみれ色が見えた瞬間だった。
「スグリ!」
名前を叫ぶ。走りだす。弾かれたようにスグリが振り返った。
「アオイ!」
右腕を高く上げてスグリがこちらに馳せてくる。満開に咲いた笑顔がぐんぐん近付いて、距離が縮まる毎に不安が喜びに塗り替えられていく。届くまであと数歩のところで両腕を開く。同じことを考えたのだろう、スグリは見事にアオイの身体を受け止めた。優しい声が凍えた身体を包み込む。
「ごめん。俺、また迎えさ行けなかった。すれ違うかもって考えたら下手に動くの怖くて
……
」
「ううん、待っててくれてありがとう。嬉しかったよ」
ほんの少しだけ背伸びして、頬と頬とをくっつけあう。スグリの肌は海上を渡ってきたアオイと変わらない、むしろそれより冷えていて、彼がこの寂しい場所でずっと待ち続けていたのだと教えてくれた。溢れる想いを表すように、顔を右向きに動かす。ふにふにのほっぺと同じくらい柔らかい部分を押し付ける。「わやっ!」と驚きの声が上がった直後、冷たかった頬がほんのり温かくなった。誰もいなくて正解だったかも、とアオイは口付けながら照れ笑いした。
お互いの冬の匂いがすっかり消えた頃、背中に回っていたスグリの腕がそっと離れ、代わりに右手を掬われた。
「え、えっと
……
。そろそろ移動しよっか」
「うん!」
はにかむ人に元気いっぱい笑いかけ、グローブに覆われていない手をキュッと握り返しす。スグリはアオイの片腕にだっこされている包みを一度だけ見て、即座に目を逸らしてくれた。やわらかだった表情がにわかに強張り、落ち着いたはずの頬に赤みが戻る。それでも彼がプレゼントに言及することはなかった。きっとアオイのタイミングを尊重してくれたのだろう。アオイは勝手にそう解釈することにした。その方が幸せだったし、多分間違いではなかったから。
コートのど真ん中を突っ切りエレベーターへと向かう。エントランスロビーはブリッジと同じく人っ子ひとり、バチュルの一匹でさえいなかった。
「なんか、全然人いないね」
「長期休暇入ったから。ほとんどの生徒は自分の家さ帰ってんだ。残ってんのは研究者志望の人と、勉強とかもうちょっとけっぱりたい人だけ。そうじゃなくても
……
」
エレベーターのボタンを押しながらスグリが繋いでいた手を離した。
「クリスマスだから。みんな、家族とか大切な人と一緒にいんだべ」
今の俺たちみたいに。満月色の瞳は確かにそう囁いていた。離れた手が再び握られる。今度はさっきよりも深く、指と指を混ぜる繋ぎ方だった。アオイが恥ずかしいだとか嬉しいだとか訴えるよりも先に、エレベーターが到着した。扉が開く。スグリは「行こ」と微笑んでから大きく一歩踏み出した。行こう、と言われたが、どこへ行くかは聞かされていない。
——
これは、もしかして。淡い期待と少しばかりの怖れや緊張が胸の中で踊りだす。アオイはスグリの肩にこめかみを寄せ〝いいよ〟のサインを送った。
しかし、辿り着いたのは男子寮のある階ではなくエレベーターの終着点・テラリウムドームだった。ポカンと呆けるアオイをよそに、スグリがモンスターボールを放った。飛び出てきたのはカイリューだった。
「休暇中はタクシーもおやすみなんだ。こっからはカイリューでいこ」
促されるままカイリューに跨る。スグリもアオイを後ろから抱き締める形で飛び乗った。事前に目的地を教えられていたのだろうか、カイリューは翼を広げ地面を蹴ると、迷うことなくまっすぐ飛び始めた。穏やかなサバンナエリアを通り過ぎ、白く輝くセンタースクエアを超え、雪がちらつくポーラエリアに入る。そのまま雪山の頂上付近にある休憩所に向かっていった。ベンチしかない簡素な場所はデリバードやユキカブリ、サンタ帽をかぶったピカチュウなどの愛らしいオーナメントとキラキラのモールで彩られていた。スグリが特別に飾り付けてくれたのだと、瞬時に理解できた。
「着いたよ。そこさ、座って」
指し示されたベンチにはふかふかのブランケットが敷かれ、りんごを模したクッションが二つ並べられていた。青りんごのクッションを手に取り腰掛ける。スグリは役目を果たしたカイリューを閉まってもなお座ろうとしなかった。
「俺、アオイにいっぱい喜んでほしくて、ねーちゃんや四天王のみんなにも相談乗ってもらってクリスマスプレゼント用意したんだ」
立ったままスグリが言う。キューブの淡い灯りに照らされた彼のかんばせは、バトル直前のような真剣な色を帯びていた。
「見てて」
ぎこちなく口角を上げてからスグリが前に向き直った。ボールを投げる。次に出てきたのは甘くて幸せな香りを放つポケモン
——
カミツオロチだった。
「カミツオロチ! 練習通りいくべ! 空さ向かって、全力のきまぐレーザー!」
鋭い号令に合わせてオロチュたちが顔を出す。そして、思い思いの方向に金色の光線を放った。
「わあ
……
」
星空の中を舞っていた雪が蜜の色に輝く。冬にふさわしいロマンチックな光景だった。だがスグリのプレゼントはそれで終わりじゃなかった。金の帯がフッと消えた直後。今度は赤や橙、水色、紫
……
七色の粒がそこかしこで瞬きだす。きまぐレーザーに驚いたメテノたちの殻が破れて起きた現象だと気付いたのは、天然のイルミネーションが落ち着きだした頃だった。
「
……
どう、かな?」
幻想的な風景を作り出した人がおずおず振り返る。アオイは立ち上がり、拍手しながら彼の隣に立った。
「すごくキレイ
……
! 学校でこんなキレイな風景見れるなんて思わなかった。ありがとう!」
「喜んでもらえたならよかった」
アオイの言葉を受けたスグリがホッと胸を撫で下ろす。だが、彼の表情はアオイの大好きなおっとり笑顔ではなく、どこか悩ましげな影を感じるものだった。朧げだった七色の光が完全に消え、暗くて静寂な雪夜に戻っていく。アオイは咄嗟に空気を変えなくちゃと思った。
「
……
そうだ! 私もクリスマスプレゼント持ってきたの」
たった今思い出したんだと表すために手を叩き、そそくさベンチに戻る。少しくたびれてしまったリボンを直してやりつつ、いつも通りな笑顔を作る。大丈夫、いける。心の中で自分を励ましてから、近づいてくる足音に向き直った。
「はい、これ。メリークリスマス!」
包みを手渡す。とっくに気付いていたはずなのに、スグリは短く歓声を上げてくれた。険しさがにじんでいた顔がほんわか和らぐ。
「ありがとう! 開けていい?」
アオイが頷くのを確認してからスグリがリボンを解いた。丸い目が包みの中を覗き、見開く。ゆっくり手が入っていく様も痛いくらいに強く跳ねる心臓を押さえながら見守った。厳かな速度で黄色いもこもこが引き上げられる。
「これって
……
マフラー? やった、黄色だー」
「初めて作ったからところどころおかしいし、途中ママに手伝ってもらったんだけど」
結局一人じゃうまくできなかったアオイは、ママに泣きついて四分の一ほど編んでもらった。どうしても崩れてしまった場所は星型のアップリケを縫い付ければいいと言ったのもママだった。
——
クールな無地に仕上げるはずだったのにほつれが多すぎて黄色い天の川のようになってしまって、申し訳なく感じた。それでも、スグリはパッと明るく笑ってくれた。
「え! これ、アオイが作ったの!?」
「うん
……
。初心者だから、全然下手っぴだけど」
「そんなことない! 店さ売ってんのだと思った! 編み物もできるなんて、アオイって本当すげぇなぁ
……
」
スグリはアオイが飛行機の中で必死につけた黒とオレンジの星々を一つずつうっとり眺め、優しく撫でてから自分の首に巻きつけた。
「わあぁ
……
。あったかい。ふわふわで、あと何かいい匂いする。あ、ここ! 星でねくてりんごついてる! ふふ、アオイ、センスいいな」
「そうかな」
「そうだよ! ありがとうな。今度からポーラ探索するときは必ずつけてく!」
スグリの満足そうな顔がマフラーに埋まる。ずっと見たいと願っていた、大好きな人の最高の笑顔。なのに
……
。
「なした?」
小首を傾げてスグリが訊ねてくる。晴れやかになったばかりの表情を曇らせてしまって申し訳なく思ったが、聞かれたのだから仕方がない。アオイはこっそり息を吐いてから、モヤモヤする胸の内を明かした。
「ママとか友達とか、先生にも手伝ってもらって、ありがたいな、嬉しいなって思ってるんだけど、」
感謝の気持ちは本物だ。困ったときに助けてくれる人がいてくれる嬉しさだって。だけれども。
「
……
スグリにあげるんなら、私百パーセントのものがよかった。全部私だよってのを、スグリに受け取って欲しかった」
メガトン級に面倒でワガママで情けない独占欲だと自覚はしている。けども、スグリがマフラーを身につけたときに思い出すのは自分だけがよかった。アオイの手だけでスグリを温め、喜ばせたかった。
せっかく素敵な夜だったのに嫉妬深さと心の狭さを曝け出してしまった。恥ずかしさに耐えきれずベンチにへたり込む。グズグズ崩れる顔を隠したくてクッションに顔を押し付ける。大好きな人への初めてのプレゼントなのにちっとも上手くいかなかった。アオイは自分に対してひどくがっかりしていた。
少しの沈黙の後、すぐ隣で空気が動いた気配がした。隙間からチラリと覗くと穏やかな笑みを堪えたスグリが隣に腰掛けたところだった。
「アオイの気持ち、分かるよ」
「え?」
「俺も、本当はさ。誰かの助け借りるとかでねくて最初から全部俺だけで考えて用意して、アオイに喜んでほしかった。笑顔にしたかった。みんなさ助けてもらって本当に嬉しかったけど
……
悔しかった。だからアオイが喜んでくれて嬉しかったのに、心からやったーって思えなかったんだ」
スグリがアオイの真似をしてりんごクッションに顔を押し付ける。埋もれながら「指輪はお金足んねかったしさぁ」とごちた意味はよく分からなかったが、「悔しかった」と吐露された気持ちは深く共感できた。同時に、なんだか妙におかしく思えた。
「私たち、二人とも納得したプレゼントじゃなかったんだね」
「ふふ。んだな」
どちらも、もらったプレゼントは今年一番の幸せってくらいに顔を綻ばせてたのに、渡したプレゼントは今年一番悔しい思いを抱えてたなんて。どこまでもなかよしな自分たちがおかしくて顔を見合わせ笑みを交わす。悔しがるほど深く想ってくれていたのがこそばゆくて愛おしくて、それから少し、安心した。
腰を浮かせて一歩近付く。彼も同じ分距離を縮めてくれる。ぴったり寄り添い、隙間を抜けようとする雪風を完全に堰き止めて数分。スグリが「あのさ」と声をかけてきた。
「俺、来年は全部自分で用意する。うまくできねかったとしても、完璧に俺だけのプレゼントをアオイに受け取ってほしい」
真剣な眼差しに貫かれた心臓から温かな感情が湧き上がる。それはあっという間に指先まで広がっていった。ふわふわ浮いてるようなくすぐったい感覚さえ同じなのか確かめたくて、太ももの上の手に触れてみる。感覚までは分からなかったが、ほのかにゆるんだ目元から、彼が今何を考えているのかは伝わってきた。だからアオイも、その通りだよ、と微笑み返した。
「私も。今度こそ私だけのプレゼントを、スグリに渡したい」
「それじゃ」
「うん」
くるんと返された手を強く握る。握り返される。スグリはそれでも足りなかったのか、腰の後ろをやわく抱かれた。行動の大胆さの割におそるおそるかけられた指の優しさにまたくすぐったさを覚え、同じ動きを返す。大丈夫、嬉しいよと、伝えたかったから。
「来年も、一緒にいようね」
「うん。約束。来年も、その先も、俺だけのプレゼント、渡させてな」
温かな色に染まる頬に、美しい弧を描く唇に、やわく揺れる瞳に、愛おしさが募っていく。世界一輝くアオイの満月には、彼と同じ顔をした自分が映っていた。
大好きな人の笑顔と一生忘れられない素敵な景色と気持ちと、来年に向けた小さな約束。スグリがくれたたくさんのプレゼントのおかげで、アオイのクリスマスは今までで一番幸せな日になった。
次は今日よりもっと幸せな一日を贈れたらいいな。そう願いながら、前より少し広くなった肩に頬を寄せた。
「ところでさ」
スグリの声に顔を上げる。彼はさっきよりももっと真剣な面差しをしていた。
「さっき、休暇入ったからあんま人いないっつったべ? だから、その
……
。誰がどこさいるとか気にする人もいないっつーか、いつもよりもっと自由っつーか
……
」
腰に回っていた指に力が込められる。ほんの数ミリだけ、だけど確実に距離が縮まる。吐き出された二人分の白い息が一つに混ざっていく。
未だつるんとしたままの喉が大きく上下に揺れ、ゆっくり唇が開かれた。
「今日、この後なんだけど」
きらめく満月の双眸の中に、狂おしく弾ける火花が見えた。鎮まっていた期待が再び胸に灯る。今度はもっと、はっきりとした輪郭を帯びて。
アオイはスグリの丸くて熱い頬に手を添えた。それからうっとり目を閉じて
——
。
このあとは、二人だけのひみつ。
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