Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
mishiadd
2026-05-04 13:10:25
11447文字
Public
Clear cache
いおりひとり旅・日本紀行:宮本伊織の歴史ミステリー・吾嬬はや
【現パロ】記憶はないけど『倭建命』に縁がある一般大学生の宮本伊織さんがヤマトタケルゆかりの地を一人旅するGWノルマ【その他】
次作『いおりひとり旅・日本紀行:光芒射す』:
https://privatter.me/page/6a098213a9ba4
1
2
3
4
一、
特段の理由らしき理由もなかったが、物心ついた頃からなにかと伊織には『倭建命』という神格に縁があった。
どこかの土産だと言って友人から貰ったお守りがたまたまヤマトタケルのものであったり、深い意味はなく軽い観光のつもりで訪ねていった小さな神社の主祭神がたまたまヤマトタケルであったり、あるいは友人に誘われて行った旅行先がたまたまヤマトタケル伝説のある土地であったり
――
人生の折々、その端々で、ひょっこり顔を出しては軽い挨拶をして去っていく。決して押し付けがましいというわけではないが、忘れそうになった頃に再び顔を出すので忘れることもできない、遠くもなく近くもなく、別段信心深いというわけでもない伊織にとっても妙な距離感を保った神格であった。
大学二年のゴールデンウイークであった。比較的長く休暇を取って帰省するのだと同期達が話し合う中で、はて自分はどうしたものかと学食の安い豚丼を食べながら伊織は首を傾げていた。帰省しようにも養父は他界していて、義妹が養子に入った屋敷からは遊びに来るよう呼ばれていたが長期休暇に長居をして迷惑を掛けたくなかった。
そんなことを話すと、同期のひとりが「じゃあどこか旅行にでも行ったら」と言った。
「ゴールデンウイークだし、どこも混雑してる上に値段は全部跳ね上がってるかもしれないけどさ。そうだね、そういうの避けて、山奥の静かな温泉にでもひとりで行ってみたら」
良い案だと思った。その場で、特に深く考えずにスマホで宿を探し
――
ゴールデンウイークも間近に迫っていたので、空室のある行先自体が既に限られていた
――
『温泉がある』というただ一点のみを確認し、空室のあった比較的安い宿を予約した。それからようやく宿の最寄り駅を確認する。伊織のいる東京からは県境を二回程越えた先にあった。往復の新幹線をすっかり予約し終えた頃になって、昼食を食べ終えた別の同期が伊織に尋ねた。
「いや、決断早くね? どこにしたん」
「これ以上待っても宿がなくなるだけで詮無いからな。G県のT村というらしい」
「『
村
』。またなかなか通なところを」
「T村。
……
ああ、あった、地元の観光協会のホームページ出てきたよ。へえ、『ヤマトタケル』伝説があるんだって」
「へえ」ともうひとりの同期が気のない返事をする中、ぴくりと伊織の片眉が上がる。久しぶりに聞く名だった。だが、
そろそろ
だったという気もする。
――
伊織が忘れかけた頃に、まるでスマホのリマインダーのようにおのずと目の前に現れる名だった。
「『最愛の妻を海で失ったヤマトタケルが、妻を想って嘆き悲しんだ場所』だって。
……
ヤマトタケルってお嫁さんが海で死んじゃったの?」
「『海』? G県って海なし県だろ? なんで海?」
そもそもヤマトタケル自体に馴染みのない同期たちが怪訝そうにする中、「ああ」と伊織が表情に出さぬまま得心する。元々伝奇や伝説には興味のある性質で、これに限らず
――
主に三国志など
――
好んで読んではいたが、自分の人生においてあまりにも頻出する『ヤマトタケル』の生涯に関しては、軽くではあるが一通り把握していた。
ヤマトタケルとオトタチバナヒメの逸話について軽く説明してやると、同期ふたりも納得したように「へえ」と頷いた。それから言った。
「つまり、『海で最愛の妻を失ったヤマトタケルが、山で雲海を見て、妻を失った海を思い出して嘆いた』場所ってことか」
「雲海かあ
……
このT村って標高かなり高いみたいだし、運がよければ伊織も見られるかもね」
そう言われて、ふと思う。
――
今まで、自分の前に気ままに立ち顕れるに任せていたが、行き先が
そうである
と決まった以上、たまにはこちらから「知ろう」としても良いのではないか。
「うん。
……
どうせ温泉に浸かる以外には予定もない一人旅だ。
……
『ヤマトタケル』が嘆いたとされるこのU峠へ、行ってみようと思うよ」
「
……
結構遠いみたいだけど」
観光協会のホームページに記されたアクセス情報を確認していた同期がやや呆れたような顔をする。車での移動が前提となっている地域のようで、東京で貧乏大学生をやっていて、車の運転も免許合宿でハンドルを握ったきりになっている伊織には、徒歩という移動手段しか残されていない。
山道を一時間以上、との記載にもけろりとした顔をしている伊織に、「まあ、本人がいいならいいか」と溜息をついた同期が、「それだけ頑張るんなら見られるといいけどね、雲海」と呆れたように言った。
1
2
3
4
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内