tonami
2026-04-16 00:36:21
7511文字
Public 50音
 

50音/た行

50音短文詰め④



と/原作軸



 咄嗟に掴んだ手首の細さに思わず息を呑んだ。男らしく無骨な手。筋肉に覆われた体躯は腕ももちろん例外ではない。けれど手首に至っては、ローの指がぐるりと一周し、親指と中指が触れ合ってもなお余剰があった。
 ――こいつってこんなに細かったか……
 困惑を露わに手首を掴んだまま、空いた片手で腕を辿っていく。二の腕に近づくにつれてどんどん太くなって、肩に至っては片手で剣を振るい、時には竜巻さえ起こすほどの技を放つために相応に分厚い。
 けれど、とローは両手で肩を掴む。体格の良さで誤魔化されていたが肩幅はローよりも狭い。その上に伸びる首も刀を咥えるために太くなってはいるが、そこに乗る頭部は片手で半面は余裕で隠してしまえる程度には小さい。
 では腰は、としゃがみこんで触れてみるも、長着を留める帯が邪魔だった。躊躇なく取り払い、さらに中に着けていた腹巻もずり上げる。目の前に現れた形の良い臍にやけに気分が高揚した。やはり重なってしまった両の指先はそのままに、くぱ、親指で広げてみる。酒ばかり呑んでいるわりに中は綺麗なものだ。鼻を近づけても臭いもない。むしろ風呂に入ってきたのか、息を吸い込むと船で使っている石鹸の香りが鼻腔を満たした。それがさらに興奮を煽る。
 腹に鼻先を押し当てたまま両手を下へ。普段長着に覆われた臀部は、実際掴むとすっぽりとローの手に収まってしまった。そのわりに丸くまろい尻肉は少し力を入れただけで指が沈む。きちんと鍛え上げられた上質な筋肉は柔らかいだけでなく、ほどよい弾力で押し返してくる。そのままもちもちと感触を楽しむこと数分。とうとうローは脚部へ到達する。
 ぴったり体のラインに沿ったものを好むローとは違い、ゾロの服は上も下も一見して正確な線がわからない。ボトム越しに予想して伸ばした手は思っていた位置よりも内側で止まった。え、細っそ。思ったことがそのまま脳を通さず口に出てしまったことには気づかない。ラインに流されるまま辿り着いた足首など、手首より若干太いだけでそう変わらなかった。片手で掴めてしまう。イカれてるのかと疑ってしまうほど呆れた鍛え方をしているにもかかわらず、筋肉だってしっかりついているにもかかわらず、ゾロの体はどこもかしこも細さを残している。
 思えば、二年前に見かけたゾロは確かに線の細さが目立った。あれが魔獣とまで呼ばれる海賊狩りなのかと驚いたものだ。もともと東は小柄な人間が多い。ゾロも例外ではなく、骨格が生まれつき細いのだろう。いくら鍛えたとしても生来の骨格は特殊な事情でもない限り変えられない。ゾロは能力者でもなんでもない、ただの人間だ。その人間がここまで鍛え上げるのにどれだけ苦心したか、能力者だらけの海を渡るためにどれだけ自分を痛めつけてきたのか、ローにとっては途方もなさすぎて想像がつかない。
 ただ、みずからを過信することなく野望に向かってひたすら鍛え続けるまっすぐな精神性が、その性根で作りあげられた体が、いとおしいと、思う。
 せっかくなら直接触れたくて、できればその内側も見たい。立ったままでは不便だからベッドに誘おうと顔を上げる。そうしてゾロの顔を目にした瞬間、考えていたことがすべて吹き飛んだ。
 真っ赤な顔。潤んだように見えるひとつきりの目。羞恥を抑えるべく噛み締められた唇。それらを腕でなんとか隠そうとしているがローの目にはすべて映っていた。
「っンの……変態……!!」
 詰る声はこころなしか震えて、けれど嫌悪感はない。そもそもいままで逃げもしなければ、いっさいの抵抗すらなかったのは。ローの暴挙に文句も言わず、耐えるだけだったのは。
 ――ぷつんと、脳の片隅で何かが切れた音がした。
 それからのことは理性を飛ばしたくせに鮮明に覚えている。無抵抗なのをいいことにゾロの全身に隈なく触れ、スキャンし、舐め、吸い、あまつさえかぶりついた。至るところに鬱血と歯形を残し、やがて欲望のまま内側に手を伸ばした時には、ゾロはぐったりとベッドに体を沈めていた。
 荒く上下する腹筋をなぞる。薄く色づいたそこにはもちろん、臍を囲むように歯形がついている。それを辿って円を描く。ひくんと震える腹筋にもうひとつ赤を増やしつつ、ゾロ屋、と名前を呼ぶ。
「中も触りたい。いいか」
 もはや確認だった。ゾロは沈み込んだまま、すでに指一本動かすことすらしんどいだろうに、それでもゆっくりと、肯いた。
 どうしてゾロに触れようと思ったのかなんて、いまとなってはもうただの言い訳でしかなかった。だってゾロを引き留めたのは、つまり、そういうことだった。



余すところなどひとつもない