tonami
2026-04-16 00:36:21
7511文字
Public 50音
 

50音/た行

50音短文詰め④



て/現パロ。15×5。ラミ視点。



「手抜いただろ、いま」
 むう、と拗ねた表情で下から睨みつけられ、兄はだらしなく相好を崩した。
「すまん、あまりにゾロ屋が可愛くて」
「かわいくない! ローはいっつもそうやってごまかす!」
 ぷんすこ! と擬音がつかんばかりに頬を膨らませてゾロはそっぽを向く。それでも自分の膝の間から動こうとしないから兄の表情がますます溶ける。出かければ必ずナンパに遭い、スカウトの名刺を押しつけられ、すれ違う女性達の視線を一身に受ける人間とは思えない。SNSにでも写真を流してやれば兄に憧れる女の子達を一斉に掃討できそうだ。
「なあ、ゾロ屋。悪かった。許してくれ」
 小さな体を抱えたまま、後ろから覆いかぶさるように顔を覗き込む。ゾロの顎をすくって仰向かせ、親指がふにふにと下唇を撫でる。感触を楽しんでいるところ悪いけれどさすがにまずい。
「兄様、それはアウトだからね」
 見かねて声をかけると小さく舌打ちが聞こえた。両親がいるところじゃ絶対にやらないくせに。少し前まではラミにも見せなかったけれど、最近兄は本性を隠さない。ゾロを囲い込むために味方につけようとしてるらしい。そんなことしなくても最初から兄寄りなのだから気にしなくていいのに。よっぽどのことをやらかさない限りは。ちなみにまだ十歳の子供に手を出すのはよっぽどのことだ。
 膨れたままのほっぺたにキスをひとつ。猫みたいにこしょこしょ下顎をくすぐる指からむずがるようにゾロは抜け出して、き、とほぼ真上にある顔を睨んだ。
「もう一回勝負しろ!」
「ああ、望むところだ」
「次も手抜いたら許さないからな!」
「わかった」
 そう頷きはしたが、次もきっと兄は全力は出さないだろう。さすがに小学生相手に本気になるほど大人気なくはない。けれどさっきよりはあからさまな手の抜き方はしない。それで負けてもゾロは悔しがりはするが癇癪を起こす子供じゃないし、同年代と比べて遥かに物分かりがいい。むしろ同じ年齢だった時のラミのほうがぐずって兄を困らせていたように思う。
 妹だから兄も優しくしてくれているけれど、兄は本来子供という存在を好まない。たった一人の例外が隣に住むロロノアさん家のゾロくんだ。三歳の時に引っ越してきたゾロは、瞬く間に兄のお気に入りになった。ゾロも可愛がってくれる隣家のお兄ちゃんによく懐いた。学校から帰ったあとだけじゃなく休日も何かと理由をつけて一緒にいる二人に両親は兄弟みたいだと微笑ましく思っているみたいだけれど。
 つくづくラミは思う。ゾロが女の子じゃなくてよかった。もし女の子だったらとっとと既成事実を作ってスムーズに結婚まで持っていっていただろう。いまでも似たようなものではあるけれど。
 蕩けきった目で膝の間にいる子供を見つめる兄の顔をちらりと見やって、ラミはため息をつく。
 いつの間にか終了していた対戦画面は、兄の勝利を告げていた。



結局兄の一人勝ち