tonami
2026-04-16 00:36:21
7511文字
Public 50音
 

50音/た行

50音短文詰め④



た/原作軸。⚔️←🕒



「たらしこまれちまって、東の魔獣様がよ」
「あ? なんのことだ」
「わかってんだろ。トラ男のことだよ」
 それ、と紙巻きをふかしながらサンジは顎をしゃくる。ゾロの首筋に向けられたそれに、ああ、と得心がいった。
「別にたらしこまれた覚えはねェよ」
「へェ、体まで許しておいてなァ。あのお前が?」
 嘲るような語調にゾロは眉をひそめる。いつもの喧嘩でもサンジはゾロを馬鹿にすることはあっても、嘲笑うようなことはなかった。よほどゾロが他船の船長と懇ろの関係になったのが気に入らないらしい。これまでのことを考えると、それも致し方ないことではあるけれども。
「お前、おれのこと好きだもんな」
…………まじでてめェにバレたことが信じられねェが、そうだよ。そうだから気に食わねェつってんだ」
「もっと早く告白してりゃ勝機あったかもしれねェのに」
「嘘つけ。ンな気、一ミリもなかったろうが」
「よくわかってんじゃねェか」
 声とともにゾロの腰を大きな手のひらが抱いた。ち、と忌々しげにサンジが舌打ちする。それを鼻で笑いながら、トラ男、と恋人に呼びかけられて、金色の目が柔く細まった。
「用事ってのはもういいのか」
「ああ、有用な情報を得られた。少し早いが、酒場にでも行くか」
「行く!」
 ぱっと顔を輝かせ、ゾロは頷く。恋人ながら単純だとは思うが、普段二番手として気を張っている男が見せる歳相応の一面が可愛らしい。愛しさのままローは秀でた額に唇を落とす。見せつけるような仕草にサンジはうんざりと表情を歪めた。奪う気はないとはいえ、好きな男が恋敵といちゃついているのを積極的に見たくはない。その手の嗜好はごめんだ。好きにやってろ、と踵を返したサンジを低い声が呼び止める。
「一つ訂正しておく、黒足屋」
 嫌な予感がした。したが、それでも一応足を止めて聞いてやる辺り、サンジも人が好い。
「ゾロ屋がおれにたらしこまれたんじゃなくて、おれがゾロ屋に落ちたんだ。そこは履き違えんな」
……惚気なんざ聞きたかねェよ」
「好いた男が籠絡されたんじゃなくて安心しただろ。いまさら関係ねェだろうがな」
「ッてめェ、」
 気色ばんで振り向くも、すでに二人の姿は消えていた。代わりに小石が二つ、彼らがいた場所に落ちていた。
 苛立ちのまま、甲板に落とした紙巻きを踏み潰す。これしきのことでは頑丈なサニーは焦げ跡すらつかない。無様に中身をぶちまけただけの紙巻きが己のように思えて、ぎり、と唇を噛み締めた。
「くそ……っ!!」
 小石を片方、船から思いきり蹴り落とす。よほど飛んだらしい、遠くのほうで海に落ちる音がした。もう片方も同じように蹴ろうとして、しかしなんとなく躊躇われて振り上げた足を下ろした。仕方なく拾い上げ、手の中で弄んでみる。なんの変哲もないどこにでもある石だ。特別なものなんてない。なのに無碍にできない己を客観的に馬鹿馬鹿しいと蔑む自分がいる。それでも、好きになってしまったのだからどうしようもない。
「よりによってあんな性悪たらしこまねェでもいいだろうが……
 嘆息とともに吐き出した声が思いの外柔らかい響きをまとっていて、思わず笑ってしまった。ローのことをどうこう言えない程度には、たいがいサンジも諦めが悪い。



そのまま蹴り落とせたら楽だった