kaisou
2026-04-15 14:40:13
10147文字
Public 1740年コンクラーヴェ話
 

Cras datur 明日を与えられる

1740年コンクラーヴェ話・別視点9

過去と現在の話①

 昔の人は自分を作り、今の人は過去を知ったままここへ来る。

※歴史創作なので悪しからず



 扉が閉まる。
 部屋はまた静かになった。来る前の静けさとは違う、人が出ていったあとにだけ残る重みがある。
 机の上には冷めた茶。揺れの戻った灯り。椅子にはまだ、さっきまでそこにいた人の気配が残っている。外套の温もりのようなものが、あの椅子にだけある気がした。
 コシアはしばらく、そのまま立っていた。動く理由がなかった。動けば、この重みが散る気がした。若い頃、叱責のあとに渡された明日は、胸に火を点けた。今は向こうから来て、そしてまた明日は来いと言う人がいる。

 同じではない。同じではないからこそ、深い。

 昔の人は、自分を作った。今の人は、自分の過去を知ったまま、ここへ来る。
 コシアはゆっくりと息を吐いた。胸の奥に灯った火は、もう若い頃のような激しさでは燃えない。もっと低く、もっと深く、消えにくい。夜の底に沈んだ炭火のようなものだ。踏めば崩れるが、消えてはいない。

 あの人の前で、明日もまだ終わらない。それを、もう隠しきれない。