女性らしくないと言われ続けた僕にも、お見合い話がやってきた。最初は間違いかと思ったけど、何度、宛名を確認しても僕の名前だった。
こんな僕でも、お嫁に貰ってくれる、そう思ってくれる方がいたんだ! 嬉しくなってお洒落を頑張った。
少しでも印象がよくなってもらうために、化粧もして、似合う服をオーダーメイドして。
す、少しは、女性らしく、見える
…かな?
でも、お嫁さんになれると思うと、嬉しくて。不安よりも嬉しさが大きかった。なのに。
「貴方のような人を嫁にしてあげるんですから、感謝してください」
「全く
…。なんであんな奴が高位貴族なんだ? あんな男女じゃなきゃ、大手をあげて喜ぶのに」
「あんな奴、嫁に貰うような物好きなんていないだろ」
お見合いは断った。期待した僕が馬鹿だったのだ。
──────────
「ネフェルさん、依頼したいことがあります」
「なんだい急に」
「ファルカさんが浮気してるかもしれないので、調査してください!」
「
………」
ネフェルさんは、黙ってお茶を持ってきた。確か、前に一口貰ったが、ものすごく苦いお茶だった。こんなに苦くて大丈夫かと聞いたら、これくらいが丁度いいらしい。
…何が丁度いいのだろうか。
「あんなド直球な男が、浮気なんて真似、しないだろ」
「でも、最近怪しいんです!」
やけにそわそわしていたり、紐で何かをしていたり、僕にこっそりと手紙でやり取りしているんです!
仕事なら別に追及しないのに、手紙について触れると、明らかに動揺していた。
…怪しい。
「その手紙の相手、案外『宝石商』か『仕立屋』じゃないのかい?」
「
…もしかして、浮気相手に贈り物ですか?!」
「
……はぁ」
ネフェルさんは頭を抱えている。ネフェルさんも、ファルカさんが浮気するとは信じられなかったのだろう。
「依頼料は用意しました。よろしくお願いいたします」
「
…ちょいと考え直したらどうだい?」
「でも、明らかに怪しいです。何か隠し事してるのは確実です!」
「あんたね、どっからどう見てもプロポーズの準備だろうが!」
…プロポーズ?
…え? 本当に?
もしかして、僕はファルカさんのお嫁さんに、なれる?
『あんな奴、嫁に貰うような物好きなんていないだろ』
「
……そんな、わけ、
……ないです、よ」
フラッシュバックしたトラウマに、気がついたらそう口走っていた。ネフェルさんは驚愕してこちらを見ている。
気まずくなって、挨拶もそこそこに退散する。
昔とは違う。女性として生きている。ファルカさんも、ネフェルさんも、ライトキーパーも受け入れてくれている。
なのに、なんでまだ過去に囚われているのか、わからなかった。
─────────
『あの人、お見合いを断ったんですって』
『まあ! 嫁に貰ってくれる申し出をしてくれるだけで感謝するべきなのに』
『まあ、確かにあんな男女、抱けるもんではないな』
『でもああいう女なら、愛人を連れ込んでも文句は言わないだろ』
ひそひそ。ひそひそ。
どうして、そんなことを言われないといけないのだろうか。
僕が何をしたのだろうか。女性として生きなければよかったのだろうか。
男物の服はオーダーメイドにしなくても、サイズはあった。
鏡には、どこから見ても男性がいた。
────────
強く、なれたと、思ったのにな。まだ引きずっていたようだ。
ファルカさんを好きになって、女性として生きたくなって、可愛くなるために頑張って、告白して受け入れてくれた。
…プロポーズ、か。嬉しいはずなのに、恐怖を感じている自分がいる。
『貴方のような人を嫁にしてあげるんですから、感謝してください』
あんな奴とは全然違うのに。どうしてなんだろう。
…過去を引きずってる自分が、ファルカさんを信じきれない自分が、嫌になる。
変な思考になりそうだったので、冷水で顔を洗う。
…少しはスッキリした。
思い出せ、ファルカさんは世界一格好いいんだ。あんな奴とは比べるのが失礼になるくらい、格好いいんだ!
それに、プロポーズなら、ファ、ファルカさんの、お嫁さんに、なれ
……る?
『でもああいう女なら、愛人を連れ込んでも文句は言わないだろ』
…思い出すな! ファルカさんは違う!
顔を叩く。あんな過去なんか忘れてしまえ。あんな屑共なんか覚える価値もない。
思い出すなら、ファルカさんとの思い出だ。例えば
…。
『俺は騎士だからな。俺だけのお姫様になってくれないか?』
あの時のファルカさん、本当に世界一格好いい
…。
駄目だ、顔がにやけてしまう。
『素敵なレディ、お手をどうぞ』
あのエスコートも素敵だった! 初めてのエスコート、最高だった
…。格好いい
…好き
……。
『
…キリル、愛している』
夜の時は、色気がすごくて
…。とてもかっこよくて
…。
裸で抱き締めあった時を思い出してしまい、脳ミソまで沸騰しそうになる。
昼間から何を考えているんだ僕は!
恥ずかしさのあまり、ベッドの上で転がり始める。盛り上がっていたあまり、走るような足音を聞き逃していた。
「
……キリルっ! 大丈夫
………か
……?」
息を切らしたファルカさんが、そこにいた。ファルカさんは僕を見て困惑していた。
どうしよう、ファルカさんに変な姿を見られてしまった。
…ん?
そういえば
…?
『あんたね、どっからどう見てもプロポーズの準備だろうが!』
プ、プロポーズ、されちゃうのかもしれない、のか?!
大好きなファルカさんから、プロポーズ?! 幸せすぎて死ぬかもしれない
…。いや、まだ死ねない。結婚式挙げてない! ウェディングドレス着てみたい!
一人で悶えていると、ファルカさんから恐る恐る声をかけられる。
「
……あの、ネフェルから話を聞いて、駆けつけたんだが?」
「
………あ」
そういえば、ネフェルさんにはあんな態度を取って去っていたんだった。後で謝らないと。
─────────
「
…俺は怒ればいい
…のか
…?」
覚える価値なしな奴らだが、こんな状況になったら話すしかない。過去のトラウマを話し、ファルカさんの思い出で上書きしていたことを正直に話したら困惑された。
「怒る必要ないです。覚える価値ない奴らですから。怒る価値もありません」
「キリルが格好いい
…」
「ファルカさんの方が格好いいです! ファルカさんのかっこよさで上書きしてください!」
「キリルが世界一かわいい
…」
「えへへ
…」
世界一かわいいって言ってくれた。嬉しい!
ファルカさんにぎゅう、と抱き締められる。
「もっとロマンチックな所でやろうとしていたけど、かっこつかないな」
「ファルカさんはいつでも格好いいですよ?」
「
……ぐぅ」
ちょっと痛いくらいに抱きしめられる。ファルカさんの分厚い身体も格好いい
…。ファルカさんは僕の肩口に頭をぐりぐりしていた。なんか、わんちゃんみたいだな。
暫くそうやっていちゃついていたが、身体を離される。懐から小箱を取り出した。
ぱかり、と開くと、ピンク色の宝石がついた指輪があった。
「キリル、俺と結婚してくれ」
「
………」
「キ、キリル?!」
涙をぼろぼろと流し始めた僕に、ファルカさんが慌てている。
…嬉しいのだ。大好きなファルカさんにプロポーズされた喜び。
そして、男性として生きていた僕が、報われた、そんな想いが、涙となって溢れる。
「ほら、キリルはかわいいの好きだから、婚約指輪はピンクがいいと思ってな?!」
…やっぱり、ファルカさんは世界一格好いい。
泣きながら笑顔になっている僕を見て、撫でてくれた。
涙が落ち着き、改めて向き合う。
「改めて
…、俺と結婚してくれないか?」
「ファルカさん、僕はファルカさんのお嫁さんになりたいです」
誰かのお嫁さんじゃない、貴方のお嫁さんになりたい。
ファルカさんに左手を差し出す。僕の手を取り、指輪を嵌めてくれた。
ピンクゴールドの上にモルガナイトのピンク色が、とても可愛らしい。
「ファルカさん、好きです。大好きです!
…愛しています」
想いが溢れる。口に出しても足りない。抱き付いてキスをする。
視界が反転する。ベッドに押し倒されていた。
「キリル、愛してる」
「
…もっと、愛してください」
「キリルにはかなわないな」
まだ足りないのだ。たくさん愛を伝えたい。
与えられる熱に身を委ねた。
────────
目を開けると煌びやかな舞踏会にいた。
華やかなドレスが舞っている中、男物の服を着込んだ、かつての僕がぽつんといた。
…かつての僕は、諦めた顔をしていた。近づき、手を取る。
かつての僕が顔を上げる。僕の姿を見て、目を見開いていた。
「今まで、よく頑張りました」
そう言うと、かつての僕は、涙を流した。かつての僕を抱き締める。背中を撫でてあげると、姿を消した。
目を開ける。見慣れた天井だ。隣にはファルカさんが寝ていた。左手の薬指には、可愛らしい婚約指輪がある。
「ファルカさん、僕を見つけてくれて、ありがとうございます」
そう言うと、ファルカさんがにやりと笑った。
貴方が見つけてくれた⑦ | Privatter+
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