『似合わない』
『気色悪い』
『性別間違えてしまったのね』
何度もそう言われてきた。僕も諦めていた。
でも、貴方が見つけてくれたから、もう一度頑張れる勇気をもらった。
露店で見かけた小瓶を手に取る。震える手で小瓶を買った。
…買って、しまった。
机の上に置いてある小瓶とにらめっこする。淡いピンク色の液体が入っている小瓶、すなわちマニキュアだ。
ファルカさんに恋をした。
…可愛いと、思われたい。
そのために、今まで諦めていたお洒落に挑戦することにした。
女性らしい服を着るのも、化粧をするのも、まだ怖い。
マニキュアなら手袋で隠れる。今はまだ、これが限界だ。
僕も、可愛く、なりたい。
そう意気込んでマニキュアを塗り始めた。
器用で、よかった。
爪には淡いピンク色が綺麗に塗られていた。ほんの少し、色がついただけだ。なのに、こんなにも楽しい!
僕にも、お洒落できた!
今の僕は、恋する乙女の顔だろう。それでも、すごく嬉しかった。
手袋を嵌める。爪は隠れてしまったが、心は跳び跳ねるように楽しかった。
ファルカさんの前でこっそり見せるのはいいかもしれない。
そう考えて気付く。そもそも、ファルカさんの連絡先を知らない!
…そういえば、観光客と言っていた。ナドクライも既に離れているかもしれない。楽しかった気持ちがしぼんでいく。
せめて、連絡先を聞いておけばなんとかなったのに、僕の馬鹿。
しょぼくれていたが、ピラミダで召集がかかる。
…仕事に、行かないと。
───────
天は僕を見捨てなかったようだ。
「改めて、自己紹介を。西風騎士団大団長にして北風騎士のファルカだ。微力ながらワイルドハントの討伐にも協力させてくれ」
ファルカさんは想像してたより、大物だった。
…やっぱり、格好いい。キラキラしてる。
って、ここはピラミダだ! 同僚もたくさんいる!!
気を引き締める。ファルカさんは女性扱いしてくれるけど、ライトキーパーでは男性扱いなのだ。同僚に拒絶されたらかなりヘコむ!
どうしよう、声をかけたいけど、レディ扱いされたら、どうすれば。
「お、フリンズじゃないか!」
「ファルカ、さん。西風騎士団の、大団長、だったんですね」
笑顔でこちらに近づいてくれた。心臓が、うるさい。
しっかりしろ! 元貴族らしく、ポーカーフェイスを保て!
上手く笑えているだろうか。顔がにやけすぎていないか、心配だ。
「あのときは助かった。フリンズもライトキーパーだったんだな」
「ええ、平々凡々なしがないライトキーパーですが」
そう言って気付く。かつて貴族であっても、今は平々凡々なライトキーパーなのだ。かたや、西風騎士団大団長。釣り合うわけが、ない。
というか、相手がいるかも、知らない。指輪は着けてる様子はないが、首にかけてたり、故郷に可愛い恋人が、いるかもしれない。
僕は、可愛さの欠片もない。釣り合わないかもしれない。
…でも、それでも、ファルカさんの事が、好きだ。
恋人がいたら、素直に身を引こう。でも、まだわからない!
手袋の下には、可愛くなった爪がある。少しずつでも、可愛くなって、ファルカさんに好きになってもらいたい!
「
………あの、お酒、飲みに、いきません、か?」
言った、言った、言えた!!
ファルカさんはモンド人だ。モンドといえば、お酒だ。
…いきなり、飲みに誘うなど、はしたなく見えただろうか。
「お、いいのか? まだナドクライに来たばかりだから酒場を知らないからな、助かる!」
ファルカさんは笑顔で了承してくれた。心の中でガッツポーズをした。
───────
フラグシップに連れていき、デミアンさんを紹介する。ファルカさんは生き生きとお酒を飲み始める。どうしよう、こういう時はいつも通り飲んでもいいのだろうか。蟒蛇なので、引かれないだろうか。
とりあえず、弱めのカクテルを頼む。デミアンさんは少しだけ驚いていたが、注文通りにカクテルを出してくれた。
ファルカさんはハイペースで飲み進めていく。僕は引かれないように、ちびちびと飲む。
合間に会話をする。ナドクライは遠征で来ているらしい。ということはすぐに去るのかと思いきや、ナドクライが目的地で拠点を設置するらしいので一安心だ。だけど、重要な事
…モンドに恋人か奥さんがいるかどうかを聞かなければ。
…怖い。手袋越しに爪に触れる。ファルカさんの顔をちらりと見る。格好いい。好きだ。僕の事を、好きになって、ほしい。
勇気を出すんだ!!
「
………その、遠征、で、
……モンド、の、ご家族、とか、
………恋人、
………とか、離れて、寂しい
………のでは?」
「そうだな、俺の拾った子供みたいな奴が二人いるが
…一人は寂しがるが、一人は清々してそうだけどな」
「
………あの、奥方、は?」
「奥方? いや、俺は独身を謳歌しているぞ。
…何か言ってて虚しくなってきた」
独身!! よかった!!
心が舞い上がる。僕にも、チャンスが、ある!!
お、落ち着け。冷静になれ。
…でも、嬉しい!
手が震えてしまい、カクテルが手に零れてしまう。
「
…あっ」
「大丈夫か?」
「その、失礼しました」
デミアンさんがタオルを渡してくれたので、溢したカクテルを拭う。手袋も濡れてしまったから脱ぐ。
「
………」
「
…どうか、しました、か?」
手をじっと見つめられている。そんなに気になったのだろうか。
…あ、マニキュア!
「すまん、綺麗な手だったから、ついガン見してしまった。マニキュア塗っていたんだな。お洒落、だなと」
「
…っ」
薄いピンク色のマニキュアだから、気付かれないと思ったのに、気付いてくれた。
それに、綺麗な手なんて、褒めてくれた。嬉しい。顔が、熱い。
「そういえば、フリンズって酒に強いんじゃないか? 俺も飲み友達ができたら嬉しい。俺に遠慮せず、いつも通り飲んでくれ」
「
………は、い」
マニキュアも、引かれないために弱いお酒を飲んでいた事も、気付いてくれた。
ファルカさんと一緒に飲むお酒は、いつもより美味しかった。笑顔が、自然と溢れてくる。
ファルカさん、好きです。心の中で静かに呟く。
ファルカさんは、太陽のような笑顔で、お酒を飲み干した。
貴方が見つけてくれた③ | Privatter+
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