マニキュアも慣れた今日この頃、そろそろ化粧もしてみたい
…!
最後に化粧をしたのは舞踏会か。まだお洒落を頑張ろうとしてた頃だ。
…指を差されて笑われて、お洒落を諦めたんだった。
化粧をしてみたい。笑われたら、どうしよう。
…やっぱり、怖い。
ファルカさんとは、良い飲み友達として、そこそこの頻度で会えている。でも、まだ友達だ。
ファルカさんは格好いい。今は独身だけど、可愛らしい女性が、ファルカさんに惚れてしまうかもしれない。だって世界一格好いいし。少しでも、アピールしたい!
…化粧して、笑われたら、怖い。
………でも、買うだけ、なら、大丈夫。
家で、こっそり練習しよう。慣れたら、ファルカさんにこっそり見せよう。
そう決意して、ナシャタウンに向かった。
────────
…どれを、買えば、いいのだろうか。
最低限の知識はあったが、こんなに色があったっけ?
ファンデーションなんて、みんな似たような色に見える。どれを選べばいいんだ。
「お兄さん、彼女さんにプレゼントかい?」
「
………ええ、そんなところです」
…そう、だよな。そう見えるよな。僕が女性らしくないのが原因なんだ。店員に悪気は、ない。
やっぱり、買うのを、やめようかな。
「おや、フリンズじゃないかい。買い物しているのかい?」
「
…ネフェルさん」
珍しい人に声をかけられた。秘聞の館のオーナー。見た目も、中身も、女性らしい方だ。
じっと、観察するかのように見られる。
…変な目で見られる前に、帰ろう。
「ちょいお待ち。暇なら買い物に付き合っておくれ」
「
………はぁ?」
「これと、これと、これな」
化粧品をたくさん買い込んでいる。
…僕と違い、どれがいいのかわかっているんだ。それからも荷物もちとしていろんな化粧品らしきものを買い込んでいた。
ただの荷物もちなのに、疲れた。なんでこんな目に
…。
買い物が終わったようで秘聞の館に運んでほしいと言われる。断わろうかとしたが、ほぼ強引に連れていかれた。秘聞の館に到着し、化粧品を渡そうとしたら止められた。
「ほら、化粧品、欲しかったんだろ。それあんたに似合う色だよ。もちろん、代金は支払ってもらうよ」
「
…え?」
「男装してるかと思っていたけど、違ったんだね。好きな人のために可愛くなろうとするなんて、可愛いすぎて応援したくなったのさ」
「
………ネフェル、さん」
「ほら、突っ立ってないで、化粧の仕方も教えてやるからこっちに来な」
ネフェルさんも、笑わなかった。化粧品を買うのを、助けてくれた。すごく、嬉しい。泣きそうだ。
「泣くほど嬉しかったのかい? 化粧したら泣き虫を直さないとねえ。化粧が落ちるから」
落ち着くまで待っててくれた。世界一格好いいのはファルカさんだけど、二番目に格好いいのはネフェルさんかもしれない。
────────
「やっぱりあんたは美人だね。素材がいい」
「
…こんな、女性らしくないのに、ですか?」
「身長は、相手がでかいから丁度いいじゃないか。体格は服でどうとでもなる。声は、あんた、あえて低くだしているだろう?」
「
…ええ」
確かに、ファルカさんは僕よりも大きい。体格は、服でどうにかなるのか。声は
…もう、癖として染み付いているくらい、低く声を出して男性のように振る舞っていた。笑われたくなかったから。
「ちゃんと、顔を上げて鏡を見るんだ。可愛くなりたいんだろ」
…可愛く、なりたい。ファルカさんと釣り合えるような、女性になりたい。ファルカさんに、可愛いと思ってほしい。
顔をあげると、見慣れぬ女性が写っていた。ネフェルさん、ではない。
「言っただろう。素材がいいって。それに、化粧は化けるためにするもんなのさ」
「
…僕、女性だったんですね」
「何を今さら。今のあんたは恋する乙女そのものじゃないか」
「
…ありがとう、ございます」
僕も、女性だったんだ。
わかってはいたけど、男扱いされすぎて、不安になっていたかもしれない。
でも、十分わかった。化粧の仕方も教えて貰ったし、そろそろ落とさないと。ネフェルさんに化粧を落とすことを伝えると、反対された。
「なんでだい? そのままでもいいだろ」
「でも、僕は男性と思われているので
…」
「指を差されて笑われたくない、ってやつだね」
「
………」
「確かに、人間が全てそういう人ではない。あんたが惚れた男は、そういう人なのかい?」
「違います。でも
………」
全てに絶望して眠ってた。でも、ライトキーパーの信念に心を動かされ、ライトキーパーとして生きたくなった。
そんな人達に笑われたら、僕は
…。
「こいつは驚いたね。ライトキーパーは暇なのかい?」
「そんなことは」
万年人手不足のライトキーパーにそんな事を言われて少しだけ気に障る。
「あんたの事を笑う人がいるならば、そいつはよっぽど暇人だよ。ライトキーパーの連中はそんなやつらなのかい?」
「
………!」
言われて気付く。そんなことはない。必要なのはワイルドハントの殲滅だ。
あんないい人たちを、腐った貴族と、重ねていた。
「別にあんたは悪いことはしていない。周りが勝手に勘違いしてただけさ」
「
………ありがとう、ございます。このまま帰ります」
「そういえば、フラグシップあたりにあいつがいたはずだねえ。会ってきな」
「
…あの、なんで、そこまで?」
「なあに、もちろん料金はいただくよ。今度、結果を教えておくれ」
女はね、恋バナが大好きなんだよ。
ネフェルさんは美しく微笑んでいた。
────────
顔は女性で、服は男物な僕は浮いているかもしれない。ちらちらと視線を向けられている。
でも、周りの目は気にならない。大事なのはそこではないとわかったから。
『あんたの事を笑う人がいるならば、そいつはよっぽど暇人だよ』
そう、教えて貰ったから。
フラグシップへの坂を降りると、大きな身体が視界に入る。大好きな人が、目の前にいる。
「ファルカさん」
周りから見ても、恋する乙女に見えるのだろうか。でも、それでもいいかもしれない。どうでもよくなるくらい、ファルカさんが好きだ。
「フリンズ、なんかいつもより綺麗だな!」
「化粧、してみたんです。可愛いですか?」
「ああ、とっても素敵で美人なレディーだ。どうだ、これから飲みに行くか?」
「ええ、是非!」
素敵で美人なレディと言って貰えた! 嬉しい!
「
………」
「
…どうかしましたか?」
「
…え、いやっ、なんでもない。早く行くか!」
ファルカさんの様子が少しおかしかったが、大好きな太陽のような笑顔になった。
隣で歩くと、ファルカさんは僕の背後を見ている。振り向くと、誰もいない。
「何かいましたか?」
「
…いや、どうやら、俺の気のせいだったみたいだ。ちょっとばかし、虫が群がってただけだった」
「そうでしたか」
虫なんて、珍しいな。このあたり、あまり出ないのに。
ファルカさんと、少しだけ、近づけたかな。ファルカさんともっと仲良くなりたいな。
すごく嬉しくて、今なら月まで飛べそう!
ファルカさんは嬉しそうに微笑んでいた。
貴方が見つけてくれた④ | Privatter+
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