Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
Romom🍙
2026-03-28 02:44:35
10756文字
Public
🌕
Clear cache
深追いは時に傷を生む②
🌕
続いちゃった⁉️現パロ火兄弟です。火兄弟要素は二頁目、一頁目はシドとクライヴです。
大学生プロファイラーのジョシュアと、オリフレム大学で非常勤講師をするクライヴたちの短文(のつもり)です📕
※カプのつもりはないですが、前回より兄弟間の湿度が高いので、弟兄観が濃ゆいやもしれません🐦🔥🔥
今回の兄さん単体視点
執行者について②
前回
深追いは時に傷を生む
(ジョシュア視点)
執行者について
(クライヴ単体)
1
2
「なんだか機嫌がよさそうだと思わねえ?」
ガブが肩を組んでくる。もはや、馴れ馴れしい距離感も慣れたものだ。ジョシュアは全く気にせず、それどころか、大きく同意した。「シドのことだよね」
人生経験以上の慧眼を持つ警視様は、機嫌の良し悪しを理由に周囲を脅かす真似はしない。だけど、今日に限っては、良い方向で普段と違う様子を見せていた。
一課の端には、シド専用の私室があるにも関わらず、彼は外にいることを好む。職員たちの声を聞きながら執務を行ったかと思えば、暇な時は、一緒にハウス・オブ・カードに洒落込んだりと、かなり奔放な性格だ。ジョシュアも、最初の頃は驚いた。
警察というのは市民の盾だ。しかも彼らは、主に連続殺人犯を追う、特殊殺人課に属している。地区の垣根を超えた捜査権限を所持する、責任ある立場なのに。絶対に、こんな大人にはならない──愛想笑いの裏で、注意散漫に考えていたことだ。
今は、こんな大人になりたいと思っている。仕事中の彼らを一度でも見れば、どれだけ賢いかなど一目瞭然だ。連続殺人犯を追う以上、心身の摩耗は計り知れない。そんな中、限られた時間で、自他のメンタルケアを施している。公私──繁忙か、暇かの異常な緩急に対応しているのだ。彼らは、初対面のジョシュアが思うよりも立派な大人なのだ。
「とはいえ、珍しいよね。前にもあったのかい?」
「んにゃ、俺も新参だし
……
」顎を掻きながら、自称新参の巡査部長が返した。
「君が新参だってこと、完全に失念してたよ」
二十一歳で巡査部長はとんでもない経歴だが、ガブもよく分からないらしい。つくづく、不思議なチームだ。シドに直接スカウトされて、特殊殺人課に籍を移す頃には、なぜか昇進試験の話が出ていたそうだ。その試験で、周囲の予想を裏切りシドの期待通りの結果を出したから、特例中の特例で今の椅子に座っている訳だ。
「ま、俺が警察になる前からシドのことは知ってっけどよお。それでもレアだぜ。娘さんからの連絡があった日くらいかな」
「へえ、話には聞いてるけど
……
カンベル大の?」
「そうそう。お前話合いそうかもな、頭良いし、まあちょっとばかし
……
やんちゃだけど」
いつしか和気藹々な世間話に移行して、ガブの妹についての話題に移りかけた頃。徐に席を立ったシドが、窓を見に行った。肩を組んだまま様子を見守っていると、満を辞したような顔で、シドがこちらに矢を放った。「ジョシュア、俺のデスクに」背後の私室を指差す。
「ガブも来い」
「俺も?」
「面白いもん見たくないか?」
悪い顔だ。前言撤回しようか迷う。こんな大人になりたくないかもしれない。
裏切り者のガブは勢いよく肯首した。「見たい」
「よし、じゃあ来い」
「今から?」ジョシュアは慌てて、片手の中のタンブラーを見遣った。緩く閉めた蓋から、一本の紐が出ている。
せっかく淹れた紅茶なのに、せめてあと二分待ってほしい。蒸らせば蒸らす程味が出るが、やりすぎると渋い。クリームダウンの可能性がないのは、幸いだろうか。
「おう、今からだ」
「ほら行こうぜジョシュア」
「ちょっと、ガブ!」
仕方がない。ジョシュアは、十五時の紅茶を諦めることにした。あとで、ミルクを分けてもらおう。休憩室の冷蔵庫に置いてあった筈だ。引かれる腕のまま、三人で警視の私室に向かう。
扉を開ける際、背後から呼びかけられた。
「ゆっくり開けてください! 風圧で、カードが飛ぶかも
……
」
部屋に入って五分程。ガブは、応接用に設置されたソファーの右側に、ジョシュアはその左側に座っていた。タンブラー内の紅茶プールでは、もう定年の茶葉が袋の中で踊り続けている。
シドはというと、二人を部屋に入れたあと、一旦オフィスに出て、他の職員に何やら命じていた。今は、一服を嗜んでいる。部屋の隅っこでは、空気清浄機がとんでもない音を立てていた。
なんの気無しに、灰皿の中に積もる吸殻を見ていると、オフィスから少々の騒めきが上がった。
ガブと二人で腰を浮かせるが、シドがそれを制した。遮音性のある部屋越しでは、訪問者か外部の人間が来たことくらいしか伺えない。だが、その来訪者は、よっぽどの憤懣を抱いているようだ。足音を惜しげも無く打ち鳴らし、真っ直ぐに部屋に近づいて、伺いも立てずに扉を開け放った。
「おいシド! どうなってる! 先のメッセージはどういうつもりなんだ!」
開口一番の怒号が部屋を揺さぶった。一斉に顔を見合わせる、ガブも目を見開いていた。
「俺は拒否したんだ! 聞けないからって、あれじゃあ話が違う!」
背後に立った声の主は、熱り立つあまり、ソファーに隠れる二人の背に気がついていないらしい。ジョシュアには、彼が誰なのかすぐに分かった。
「まあ落ち着けよ、クライヴ、茶でも飲むか」
「シド!」
初めてかもしれない。
兄が──クライヴ・ロズフィールドが怒っている姿を見るのは。
まるで烈火など霞んでみえる。彼の放つ地獄の火炎で、周囲の温度が忽ち上昇していく。もはや陽炎すら立ち込めている。外の職員が、何事かと扉を破りでもした途端、凄まじい勢いで炎が噴き出してしまうだろう。
だが、シドは変わらず剽軽な態度のまま。徐にジョシュアに一瞥をくれた。
「茶、好きだろ」そういうことなのか?
気まずい役に立たせてくれたものだ。誤用された役不足の定義に、ぴったりと当て嵌まる。
隣のガブも、面白いとは到底言えない表情で目を細めている。だけど、ぼうっとしていると、また背後の黒炎が部屋を焼き尽くしかねない。ジョシュアは意を決して振り向いた。「あの、兄さん
……
」知らなかったが、兄は喉で蛙を潰せるらしい。短な驚嘆が、ぐうと鳴って、口を開閉させている。
「お茶
……
いる? あの、濃いけど」
「
……
平気だ、い、いるよ。いただこう。いや、いいのか?」
次いでガブが席を立つ。
「隣、座るか?」
「あ、ああ
……
感謝する
……
」
ジョシュアは横目でシドを見た。したり顔だ。混乱のうちに、完全に鎮火させられたクライヴは、座席にて遠慮がちにタンブラーの中身を啜っている。これを鎮火と呼んでいいのだろうか。彼の耳介が、羞恥か燻りかで真っ赤に染まっていることには、触れないでおくことにした。
「さて、神話のイフリート様も落ち着いたことだ」この場で唯一、平然を保っている賢人──ギャンブラーとも言える──が比喩もそこそこに言う。「ジョシュア、お前はここで、何を失った」
「僕?」二本目の白羽の矢。何故か隣のクライヴが咽込む気配がした。
「そうだ、うちの班に来て失ったものを話すんだ」
質問の内容は、至って単純かつ突飛だ。兄の反応を鑑みるに、シドとクライヴ、二人の間でだけ通用する何かの暗号か、合図なのかもしれない。現に、場所を移したガブから「なんだよそれ」と抗議的な意識が滲んだ呟きが聞こえた。彼は、チームを良く思っているから、不遜を覚えるのも当然だろう。
質問の意味をそのまま受け取れば──でも、シドルファスという男が、無益な質問を明け透けに問うだろうか? 彼は歴とした賢者だ。そのことに辿り着いたらしいガブも、非難を取り下げて考えている。
だが、気にしていても埒があかない。
「少し、時間を」
「俺は構わんよ、なあ、クライヴ」
「
……
ジョシュア
……
」掠れた音が名を呼んだ。
失ったもの。
ジョシュア自身、スカウトされた経緯は月並みともいえる。それこそ、作劇の脚本じみていた。
ロザリス大学で起きた傷害事件が皮切りで、自分は、警察とは違う見解を示したのが、全ての始まり。
明け方に構内で襲われた被害者を、一限目があった学生らが見つけた案件。ジョシュアも発見者グループの一人だったことで、警察による事情聴取を受けた。犯人はどんな人物なのか、最初は不安から訊ねたりもした。でも、聴取内容が『被害者の交友関係で、最近、変わったことはなかったか』に偏り始めた時だ。警察は、犯人を個人と認識していることに気がついた。
それから、自分がどことなく異和を覚えていることを知った。犯人は個人ではなく、複数犯ではないか──突拍子もなく言い出したジョシュアを、唯一真剣に受け止め、更に事件解決に導いたのが、シドだった。馬鹿にすることもなく、真剣に推察に耳を傾ける姿。犯人逮捕にありついた時、律儀にも個別の連絡をくれたのだ。『お前のおかげだよ』そうして、ジョシュアはここにいる。
だから、そう。幾ら思考したとて答えは変わらない。
「失ったものはない」
結局、犯人は、寮生の数名だった。身内のいざこざで、元から素行が良くなかったグループの中から抜け出そうとしたから。それが動機であったらしい。大した理由だ。
そのうちの何人かは、親しくはないが、講義で隣の席に座った者だった。ディベートで協力した者だった。隣人が殺人犯とまでは行かずとも、他人とは無条件に善人たるとは考えなくなった──それを、失ったとは感じない。誰だって、いつかは気がつく理の一つだ。ジョシュアの場合、事件がきっかけだっただけ。
「だったら」クライヴが口を開いた。少しだけ体を動かして、全身で問いかける。「お前が失っていないなら、ここで、何があった?」
「得たものがあったよ」今度は迷わない。ジョシュアも兄の姿勢に倣って向き直る。より近い方の膝がぶつかった。スラックス越しなのに、兄の体温が伝わる。
「お前が、得たもの?」──ああ、この人は、弟を案じてここにいるのだ。遅れて理解が視野を拡げた。クライヴ兄さん。あまり泣かないように振る舞っておきながら、割と涙脆い人。感情を顕にすることが珍しいだけで、実情の豊かさは誰よりも鮮やかで、琴線も逆鱗も人一倍大きいだろう。
「そうだよ、兄さん。僕は望んでここに居る」
兄の頬を流れる、透明な涙を見た気がする。収まらない怒りの出所。弟が、自分の知らない姿になっているのではないかと怯えているだけだ。ジョシュアだって、今のクライヴを殆ど知らない。空白を埋め尽くすには、お互い知り合う時間が必要だ。
でも、見た目より、あなたの弟は変わっていないよ。
あなたもそうだと良い。気持ちが伝わるよう、精一杯微笑んだ。
「事件を追って、この場に身を置くうちに。なりたい姿っていうのかな
……
将来の夢とはまた違う、生き方とか、目標のようなものを、僕は得た」
兄は、まだ悲しそうな目を逸らさない。ジョシュアは暫し思考する。喉奥に鎮座する一言を放つか、このまま見つめ合うか考えて、結局言うことにした。
「それに、あなたにも会えたんだ」とっておきの一言。押し留めていた堰が決壊しかねない想いを込めた。「ずっと、ずっと
……
会いたかった、兄さん」
鼻腔の奥が凍えて痛くて俯いていれば、案の定、クライヴの手が伸びた。大きな、滑らかなそれが、髪を撫でつける。子供の頃、熱を調べあった日のように額を合わせ、瞼を伏せた。
「
……
そうだな、こうして、また会えた。お前が頑張ったから」細い溜息。彼が何某かの意を決してゆく。弟の熱を理解したクライヴが、シドの前に立ち上がった。
「十分か?」
「あんたって人は、とんでもない奴だ
……
」
歳上の警視に向ける態度にしては、どこか子供っぽい。兄の知らない一面を垣間見て、反射で狡いなと思ってしまう。ジョシュアは弟だ、このような些か幼稚な彼の姿など、お目にかかれないのではないか。
思えば、ジョシュアが産まれた瞬間から、兄は兄だった。当たり前だが、クライヴの幼児期は知る術がない。あるのは額縁越しの笑顔と、アルバムに飾られた横顔の数点。映像メディアは残っていなかった。
「でも、分かったよ」
「じゃ、メッセージの意味はわざわざ説明しなくても良さげだな」
「弟を現場にって、少しくらい
……
分かりやすい嘘にしてくれてもいいだろ」
なるほど、メッセージか。シドは、彼を怒らせる旨の連絡を送ることで焚き付けたらしい。ジョシュアは知れず口先を巻き込んだ。偶に、こっそり──ガブ含む交流のある刑事が当番の時だけ、現場に忍び込んでいることを知られたら
……
今度こそ、ドルスタヌス島が沈むだろう。それこそ、クライヴがイフリートになって手が付けられなくなる。比喩が比喩じゃなくなってしまうのは避けたい。
渡されたタンブラーを片手にぶら下げていたガブも、ほんの少し視線を逸らしていた。
「それで、あの件は?」
「ああ、了承しよう」
「あ? なんだよ、シド、クライヴ。話が全く見えないんだけど」ガブが割り込んだ。「なんか、俺、前も似たようなこと言わなかったっけ」ジョシュアは頷いた。
そうして時は来たれり。シドが、一念発起を祝すかのように手を叩く。
「よし、挨拶回りの手間が省けたな。彼が今日から、我々、特殊殺人課の協力者となったクライヴ・ロズフィールドだ」
「厳密には」
開いた口が塞がらないジョシュアに、クライヴが無邪気な笑みを向ける。口角を片方吊り上げて、悪戯好きの父とよく似た表情で、協定然と片手を差し出した。
「お前の協力者だ。よろしくな、ジョシュア」
聞いてないぞ! 二人分の大声を浴びながら、とんでもない警視様と兄は笑っていた。
1
2
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内