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燈 ともしび
2026-02-15 22:13:05
13281文字
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ぎゆさね【空っぽの大丈夫】
独自解釈を含むオメガバです。現役軸。
リクエストでいただいたお題だったのですが、楽しくて連載になってしまいました。
この度無事に完結したのでまとめます。
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-第四夜-
傷薬を貰いに蝶屋敷に行くと、ちょうど胡蝶が屋敷から出て行こうとしていたところだった。この前の柱合会議ではあまり時間が無くて話せなかったので思わず声をかけてしまう。
「胡蝶」
「あら、不死川さんこんにちは」
「あー
……
この前はありがとな」
「いいえ。どういたしまして。良かったです。お元気そうで」
胡蝶は立ち止まってくれたものの、用はそれだけか? みたいに首を少し傾げるとそのまま回れ右をしそうになっていたので慌てて呼び止める。
呼び止めた、けれどどう話せば良いのか。
あの日、任務が一緒になった冨岡が変だったんだが、何を言ったのか。でもそれを聞いて答えは返ってくるのだろうか。というか冨岡ではなく胡蝶に何を聞こうとしてるんだ、俺は。任務の時は回る頭が今はほとんど回らない。
「冨岡に俺の次の発情期の話、したか?」
とりあえず一番気になっていたことを聞いてみる。色々聞きたかったが、取り掛かりのつもりで。それだけ。
「しました」
「なんで」
いや、なんで冨岡に? それは本当に聞きたい。
「冨岡さんに聞かれたので」
「なんで?」
冨岡にも胡蝶にも聞きたい。胡蝶はともかく冨岡には本当に関係ないのに。
「なんで、ばっかりですね。不死川さん」
「
……
」
それは真実なので返す言葉もない。黙るしか無い。
「分からないなら私にではなく、ご自分の胸に手を当てて聞いてみたらどうですか?」
そう言うと、胡蝶はいつものように微笑んで「では、また」と目の前から立ち去って行く。あの日見せた必死な顔や真顔とは違うのに、何故か俺には同じ顔に見えた。笑顔の下に、ちらりと本音が覗く。
「自分の胸にって
……
なァ」
何もかもよく分からないのに、胸に手を当てたくらいで分かるもんなのか?いや、やっぱり俺には分からねェわ。
傷薬を貰い損ねた。
風柱邸に戻ってからそんな初歩的な失敗に気付いたけれど、今は再度貰いに行く余裕がない。熱っぽくて身体が重怠い。この感覚には覚えがある。これは間違いなく発情期がきてしまったのだろう。
「最悪」
傷薬を貰いに行く時に避妊薬も貰うつもりだったが、もちろん両方とも手元にない。次の発情期がいつくるのかはっきりとは分からなかったし、オメガである俺が持っていた方が安心だと思っていたのに。
おまけに今夜は胡蝶は任務で不在だ。遠くの。だからあんな早い時間に蝶屋敷から出て行ったんだった。
「ばか」
これでは以前のようにアルファーに抱かれてさっさと発情期を終わらせることが出来ない。なんせ冨岡以外、誰がアルファーなのかも俺は知らないのだ。
そう。冨岡以外を知らない。誰がアルファーかなんて。
あの時、冨岡は俺だけにしろって言ってた。俺はなんかその言い草がむかついて言い返そうとしたのに、言い返そうとしたら冨岡が泣きそうになってたから言えなくなったんだった。
抱きついてきた冨岡からは良い匂いがしたし、まァあの日も気持ち良かったから良いかって。
這いずって上がった畳の上、顎に手を当てたまま考える。どちらにせよこの状態では今夜の任務は無理だから連絡はしないといけない。爽籟は賢くて体力があるからお館様と悲鳴嶼さんのところへ連絡に行った後でもまだ飛べるだろう。
まァ、良いか。
俺は誰かさんと違って決断も早いのだ。
口笛で爽籟を呼ぶとひとつずつ伝言を頼む。
三つ目の伝言は何故か恥ずかしくなった。解せない。
それからどのくらい経ったのか。
この前と違い、慣れている自邸ということもあり少し余裕がある気がするからまだ身体が動くうちに湯を溜めて身を清めた。この前は突然で隊服姿のままだったし、風呂も入らずだったので。
着慣れた浴衣に着替え、敷いた布団の上に乗る。正座は慣れてないので胡座。それでもどことなく新床の儀式みてェ。俺が花嫁かよ。笑える。真っ新でもねェってのに。
熱が頭から身体に回って思考がぼやける。大きな声で笑いたくなる。笑えばいいのか。あいつが遅いからだ。笑いたくなるのは。決断がいつも遅いもんな。
ふ、ふふ。
声に出したら止まらなくなった。一人で布団の上で笑うなんてまともじゃない。まともでなんていられるか。これからまたオメガとして抱かれようとしてんのにさァ。
入り口の方でなにやら音がする。ゴンとかガンとか。絶対にどこかぶつけたか転んだだろ。まぬけめ。爽籟はさすがだな。こんなに早く三つの伝言を伝えたのだから。たくさん褒めてやらないと。
「不死川!」
「遅え」
バン、なんて。色気もへったくれもないほど豪快に障子が開けられる。もっと静かに開けろよ。壊れたらどうしてくれる。
布団の上、笑いながらも座ったまま待ち人を出迎えたら、障子を開けた勢いのまま、強く抱きしめられた。力が入らなくなってきた両腕を背中に回して俺も抱きつき返す。
やっぱり良い匂いがする。
「なァ」
「なんだ」
「俺で欲情出来んのか?」
あの夜と同じ問いをする。
「当たり前だ」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられてすぐに肯定された。笑える。答えが早ェんだよ、ばーか。
「なら、良いぜ」
だから俺も背中に回した腕に力を込める。
「ずっとな、冨岡にだけ抱かれてやるよ」
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