浅葱
2026-02-14 23:08:42
8763文字
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26.2.21_夢チェリ公開分過去SSログ



【まるまりねこ】


 ふわり、と。浮上してきた意識に、そこでようやく俺は今まで眠っていたのだと理解したのです。今が何時だとか、ここがどこであるのかだとかは未だ朦朧として思い出せず、しかし、頭を支える枕が硬いことで、辛うじてここが俺の家の寝室でないことだけは目を閉じていてもわかります。
 さら……
……!」
 今のは、今髪を撫でたのは、誰かの手……? 誰の? そんなのは考えなくとも一人しか当てはまるわけがありません。俺が人前で眠れるのだとしたら、それは……
 大崎様の前でしかあり得ない、と己に返した瞬間に、バラバラだった場面がかっちりと正しい順序で嵌るように、今の状況を理解しました。同時に、勢いよく身体を起こさずにはいられなかったのです。だって。このような事……
「わぶっ!」
 しかし人の身体というのは難儀なもので、意識が覚醒したばかりでは上手く身動きがとれず、大変屈辱的なことに、気付けば俺は起き上がったのではなく、床に尻餅をついておりました。自身がどのような体勢で眠っていたかわからなかったせいだと、誰に責められていなくとも、必死に己に言い訳をしなければ気が済まず。
 そう、本来なら言い訳などする必要はないのです。今この場にいるのは、少し離れたところでみゃうみゃうと鳴きながら戯れている同居人たちと、ソファに腰掛けながら俺を見る、大崎様だけなのですから。
 大崎様が俺を嗤う事などありません。それは俺自身が誰よりも知っております。ただ行方を失くした右手を浮かせて、
「おはようございます、新橋さん」
と声をかけてくださる。あぁ、俺はやはり今このソファから落ちたのですね。そして先ほどまでの枕はやはり。
「なっ、ななななぜ膝枕を……?」
 どうやら俺は自分で思うよりも冷静さを欠いている。投げられた「おはよう」にすら碌に返事ができないとは。
「新橋さんに頼まれたので」
…………へ?」
 覚えてないのですが? そもそも眠る前の俺は何をしていたのです!?

 一度深呼吸をし、整理しましょう。確か今日は午前中から取材が入っておりましたね。こういった場で語ることを含め、そもそも人前で長時間話すというのは不向きでいつもは烏森に任せておりますが、向こうも別の打ち合わせがあると言われてしまえば仕方ありません。これも仕事でございますから。むしろ劇団が上手く行っていると、喜ぶべき場面でしょう。
 だからといって、不向きなものは不向きなのですから、終わる頃にはすっかりくたびれて、ふらふらの足取りで帰宅し、先に家で待っていた大崎様の顔を見たらそれまでの緊張の糸が解けて…………
 い、言いましたね。確かに俺から強請っておりました。思い出しましたとも。
「疲れているのなら、寝室で休んだ方がいいのでは」
と俺を心配してくださった大崎様の声も、
「身体を清め寝室への階段を上がる気力もございません。硬くても構いません。あなたが枕になってくださいませ」
と返した俺のことも、全て。

「うぅ……ぅ゙〜〜……
 全て俺の行いではありませんか! 飛び起きて尻餅をつくことよりも、余程こちらの方が恥ずかしいのですが!
 真っ赤になっているであろう顔を見られたくなくて、膝と額が付くほどに丸まってしまった俺の背中に、大崎様の手が触れる。相変わらずその手つきは優しくて涙が出そうになってしまう。
「自分は嬉しかったですよ。新橋さんが頼ってくれたことが」
 ほらまた。柔らかく、全てを包み込む声でそんなことをおっしゃる。
 そんなあなただから、俺はまたあなたに甘えてしまうのです。

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