ここ
2026-01-09 13:48:08
27634文字
Public 小説
 

【リバリン】愛の種【女体化】🔞

厄黙後、平和になった世界で政略結婚(?)をすることになったリーバルとリンクの話。
※リンクが先天性の女性設定です。


五.
 アッカレ地方の涼やかな風に静かにそよぐ紅葉した木々の間、リーバルは足元に転がる卵を見て呆然と呟いた。
……これ、僕の卵?」
 こぼれ落ちた言葉は、自分の言葉とは思えないほどに掠れていた。そんなはずはないと訴える理性を、目の前に映る現実が否定する。泣きそうな顔で卵とリーバルを見るリンクの顔が、その言葉を肯定していた。
(……そんな。まさか本当に……?)
 リンクがリーバルの子を孕むには、特別な薬が必要なはずで、希少で高価なその薬はリーバルが不注意でダメにしてしまったはずだった。それなのになぜ、と混乱した頭に唐突にあの日の情景が思い出された。リンクが居なくなったあの日、部屋に残されていた空瓶。あれはリーバルが零してしまったものではなく、リンクが新たに購入したものだったのか。考えてみれば単純すぎる話だが、リンクがこんなことをしでかしているとは思いもよらなかった。リーバルは震える声で、「……そう。本当に僕の卵なんだ」と呟いた。
 卵を見つめるリーバルの背後でリンクが動く気配がする。この後に及んで逃げようとはするまいなと思いつつ、また勝手にいなくならないように釘を刺さねばならない。そう考え嘴を開きながら振り返ったリーバルは、リンクの姿を見て絶句した。
「おい、まだ逃げ──……っ!?」
 呆然とするリーバルの前で、リンクは泥だらけの地面に両手をついていた。ハイラルを救った退魔の騎士のプライドも矜持もない、必死の土下座だった。
「リーバル、どうか……。何でもするから。どんな処罰だって受けるから。だから、どうか……その子の命だけは助けてほしい……
 リンクは泥で汚れるのも構わずに額を地面に擦り付け、リーバルに懇願した。地面に跳ね返って届く声はくぐもり、リンクの絶望の深さを示すように震えていた。
「な、何を馬鹿なことを言っているんだ。いいから立てよ」
 いつも感情を鉄仮面の下に隠していたリンクの、見たこともないほど必死な姿にリーバルは動揺を隠しながら足元の卵へと手を伸ばした。毛布が敷かれてはいるが、冷えるといけない。冷たい秋風から守るようにリーバルが翼で包み込み、そっと持ち上げる。腕の中の卵は、確かな温もりと重みを持っていた。殻の向こうから微かに伝わる小さな鼓動。それはリンクとリーバルの血を継いだ新しい命がこの中にあることを、何よりも強くリーバルに突きつけた。
「話は後でだ。どれだけ心配をかけたと思ってるんだ? とにかく姫たちと合流しないと」
……
 リンクは返事をせず、ただ地面を打つ涙の音だけが聞こえた。リーバルが業を煮やし、リンクに歩み寄った、その時だった。リーバルの腕の中の卵がピクピクと震え、滑らかだった表面にピシピシとひび割れが走る。
「え? ッおい、もう生まれるじゃないか!?」
 リーバルが驚きのあまり卵を取り落としそうになるのをかろうじて堪える。力を込めれば割ってしまいそうで、かといって力を抜きすぎれば蠢く卵は翼の上からコロリと落ちてしまいそうだ。リーバルがあたふたと慌てる一方で、リンクは地面にへたり込んだままじっと俯いて動く気配がない。
「おい聞いてるのか!? 生まれるって!」
 自分の子であるにも関わらず頑なに動こうとしないリンクにリーバルは痺れを切らし、リンクの前へ卵を突き出した。それでもなお、リンクは顔を上げない。代わりに深く被ったフードの下からボソボソと呟く声が漏れる。
……リトの雛は、最初に見たものを親だと思うって聞いた。 だから俺は、……顔を、見せないほうがいい……
「な……ッ」
 フードを握りしめ嗚咽混じりにそんなことを言うリンクに、リーバルは今度こそ本当に絶句した。怒りというよりも、悲しみに近い憤りが全身を駆け巡る。両手は卵で塞がっていたので、脚でリンクの肩を蹴り上げた。そうしてでも、リンクの顔を上げさせなければと思った。
「いい加減にしろ! ほら、君と僕の子なんだろ!? しっかり見ろよ!」
 乱暴にあげさせたリンクの顔は涙と泥に塗れて酷い有様だった。赤く泣き腫らした瞳が、リーバルによって目の前に差し出された卵を映す。パキリ、と乾いた音が響いた。そこには命があった。
……ピィ?」
 殻を破って出てきたのは、シワシワでまだ湿った、けれど美しい稲穂色の羽を持った雛だった。地肌のピンク色が透けて見える姿はか弱い。けれどその頭のてっぺんには、リーバルとそっくりな飾り羽が一丁前にチョコンと立っている。
── あぁ、僕の子だ。僕たちの子だ……
 リーバルは先ほどまでの憤りも忘れ、言葉に現せない静かな感動に震えていた。

……かわいい……
 雛を見たリンクは、泣きながら笑っていた。泥に汚れた頬を涙が幾筋も流れる。リーバルは雛を見つめるリンクの、その泥まみれの顔が今まで見たどの表情よりも美しいと思った。何も知らない雛が、リンクの頬からこぼれ落ちる涙の雫にじゃれつくように丸い嘴を伸ばす。
「ごめんね……。俺が親でごめんね」
……リンク」
 リーバルはたまらなくなって、泣きじゃくるリンクを雛ごと抱きしめた。リンクももう、それに抗おうとはしなかった。翼の下に抱えたリンクの肩は、かつてベッドの中で一度だけ抱きしめた時に比べても随分と薄くなっていた。たった独りで卵を抱えて、どれだけの不安と孤独に震えながらこんな遠い地まで辿り着いたのか。それを思うとリーバルの胸には焼け付くような後悔が押し寄せた。
 どうしてリンクがこんな行動をとったのか、その本当の理由はリンクが話してくれない限りわからない。けれど、リンクをこんな無謀なことをさせるまで追い詰めてしまった原因はリーバルに他ならないのだろう。気づくのは随分と遅くなってしまった。けれど、今からでもリンクが大切なのだと、大切にさせてほしいのだと伝えたかった。
……なぁ、僕たち話が足りなすぎると思わないか?」
 リーバルは抱きしめた腕の中の、リンクの嗚咽を胸で受け止めながら静かに言った。
「この子を育てていくには、もっとお互いの気持ちを知っていかないと」
「え……?」
 リーバルの胸に顔を埋めさせられていたリンクがくぐもった声を上げた。顔を上げようとするのを抑えるようにリーバルは腕に力を込めた。
「子育てが大変だってこと、僕にでもわかる。二人で協力しなくちゃだろ」
「リーバル、どういう……
「だからさ。帰ろうよ、三人で。僕たちの家に」
 リンクは今度こそリーバルの胸から顔を上げた。驚きに見開いた瞳からポロリと涙が落ちる。頭に雫が降り注いだ雛が驚いたように「ピィ!」と小さく鳴いた。
「でも、リーバルは俺のこと……
「君が自分から望んで僕のところに来たなんて思いもしなかったんだ!」
 リーバルはこれまで自尊心という檻の中に閉じ込めてきた思いを吐き出した。
「ハイラル王家の命令で、仕方なく嫁いできたんだって思ってた。僕は、その、君に対して紳士的な態度じゃなかっただろ、ずっと……。でも君と一緒に暮らし始めて、気がついたら君のことが好きになってた。これまでのことを後悔したよ」
……でも、リーバル、俺といると息が詰まるって……
「君の、まっすぐな瞳が好きだったんだって気づいた。でも君は僕の隣じゃ暗い顔で、目線も合わないし。やっぱり嫌々あの家にいるんだなって思ったら可哀想で、自由にしてやりたいって思ったんだよ」
 リーバルの不器用な告白に、リンクは絞り出すような声で言った。
「俺、自分のわがままでリーバルのところに押しかけて……。リーバルの気持ちを無視して、空回りして、ずっとリーバルに迷惑ばかりかけてた。嫌われて当然だって。その上、リーバルを騙して勝手に卵まで産んで……
「確かに君の行動には驚かされたけど、」
 リーバルは目を細め、リンクの腕に抱えられたままウトウトとしだした雛を愛おしそうに見つめた。
「僕、嬉しいよ。君がこの子を産んでくれて。こんなに尊いものがこの世にあるなんて思わなかった。……でも、これからはこんなことをしでかす前にちゃんと相談してほしい。一緒に生きていくんだからさ。わかった?」
……うん」
 鼻声で、ぐずぐずと啜り上げながらではあったがリンクは何度も頷いた。ちゃんと返事を聞けた。ならもう十分だ。リーバルは満足そうに頷くと、腕の中からリンクと雛を解放し力強く立ち上がった。こんな湿っぽい話はいつまでもするものじゃない。こんなにも空は晴れているのだから。
「とりあえずは、いよいよ国を挙げて君の捜索隊を結成しようとしている姫への説明を考えなくちゃ。まさか痴情のもつれで国軍を動かしかけたなんて知られたら、この子の恥だよ」
……ふふ。そうだね」
 やっと、リンクの唇に柔らかな笑みが乗った。瞳は涙に腫れていたけれど、そこにもう憂いの色はない。
──そうだ。この顔が見たかったんだ。
 ずっと求めていたものを再び目にすることができて、リーバルの心の中がじんと痺れる。
「さぁ行こう。あ、そうだ。これ、忘れ物だよ」
 リンクの手を掴んで地面から引き起こしながら、リーバルはあの日からずっと持ち歩いていたものを取り出した。リーバルが結婚の証に贈った、リーバルの羽を用いたリトの羽飾りだ。
「これで良し、と。君は僕のものだって、ちゃんと自覚してよね」
「うん」
 リンクの稲穂色の髪の間に、藍色の羽が光る。冷たく澄んだ心地よい風は、二人の背中を押しているようだった。二人を待ち侘びる人々の元に向かって、そして帰るべき家に向かって。リーバルとリンクと、そして二人に抱えられた雛の三人は、ゆっくりと、けれど確かな足取りで歩きだした。

<了> →エピローグ(えっちメイン)