ここ
2026-01-09 13:48:08
27634文字
Public 小説
 

【リバリン】愛の種【女体化】🔞

厄黙後、平和になった世界で政略結婚(?)をすることになったリーバルとリンクの話。
※リンクが先天性の女性設定です。


四.
 リトの村から遠く離れたアッカレ地方の高く澄んだ空の下、リンクは静かに暮らしていた。ここはまだ地図にも載っていない小さな開発中の村だった。二ヶ月ほど前からこの村で暮らすリンクの元には、ひとつの大きな卵があった。大きな卵を抱えて突然現れたリンクのことを、この村の開発を進める村人たちは深くを問わずに優しく受け入れてくれた。
 卵は、リンクがリーバルの元を逃げ出してから一ヶ月ほどで産み落としたものだった。薬を用いて異種族の子を孕んだ腹は、通常のハイリア人の妊娠とは異なり瞬く間に大きく膨れ上がった。大きな腹では馬に跨って移動することもできない。極力人目を避け、道なき道を進み、這う這うの体でたどり着いた寂れた山小屋の中でリンクは独り産気づいたのだ。硬い殻が、パンパンに膨れた胎の内側から出たい出たいと主張しリンクを酷く苛めた。リンクは冷や汗でびしょびしょになりながら、下半身が真っ二つに裂けてしまうのではないかと思うほどの激痛に耐え忍んだ。あまりの苦しみに時折意識を朦朧とさせながら、これはリーバルを騙し、彼から大切なものを盗み取った自分への報いなのだと思った。永遠にも思える苦しみの果て、リンクはついにその胎からこの愛しい罪の証を産み落とした。どろりとした汗と涙にまみれ、冷たい床の上で震えながらリンクはその塊を抱きしめた。そして萎える脚に鞭を打って卵と共にハイラルを横断し、遂にこの村へと辿り着いたのだ。

 人の少ないこの村でのリンクの生活は慎ましやかなものだった。城勤めをしていた頃の貯金は大半を妊娠薬の購入に費やしてしまったため、生活費は心許ない。しかしハイリア人の子に比べてリトの卵は胎の中にいる時間が短く済んだ。おかげである程度体の自由は効く。リンクは簡単な魔物退治や素材採取をしては、その日を暮らすためのささやかな資金を得た。住まいはこの村の建築を担う大工に融通してもらうことができた。人並み以上に丈夫であっても産後の身体はやはり以前のような無理がきかず、落ち着いて身を休められる場所があるのはありがたかった。妊娠薬の購入元であった商人にも助けられた。各地を転々として珍しい魔物素材を蒐集する彼は、表市場には出せないようなちょっと危ない素材でも喜んで買い取ってくれた。着の身着のままで逃げ出したリンクにとって、重要な資金源となった。
 リンクがリトの村で過ごした数ヶ月の結婚生活は、リーバルにとっては苦痛であったとしても、リンクにとってはかけがえのない大切な思い出だった。愛しい人との生活を知ってしまった後の、親しい知り合いもいないこの僻地での生活が寂しくないと言えば嘘になる。けれど贅沢を言うわけにはいかなかった。今でも周囲の人々に恵まれている。素性の知れないリンクを受け入れてくれているだけでもありがたいのだ。そのうえ腕の中にはこの卵までいる。毎晩この卵を抱きしめて、大きな不安と後ろめたさを誤魔化しながらリンクはベッドの中で丸くなった。

 リーバルのことは、英傑として彼と肩を並べていた頃から好きだった。ずっと秘めていた思いはリーバル本人にも気取られていない自信がある。厄災を封じて、英傑としての役目も一区切りがつき各々が各々の戻るべき場所に戻る。それと同時に、この思いは秘められたまま葬られるはずだった。
 けれど、敬愛するハイラル王から賜った慈悲深い言葉が、リンクの中の死にかけの思いを狂わせた。ハイラル王は厄災討伐の立役者であるリンクに何でも望むものを下さると言う。勿体無いお言葉と畏るリンクに、ハイラル王は何度も望みを口にすることを促した。ゼルダ姫も優しい笑みをたたえてリンクの背を押した。それでつい、リンクの心が浅ましくも自分の欲望に傾いてしまったのだ。『リーバルと結ばれたい』と。
 ハイラル王家からそのような打診を受けて、断れるはずもないリーバルの立場などその時は頭の中から抜け落ちていた。自分が今まで騎士としてのみ生きてきて、結婚にあたり妻として当然に備えておくべき素養の一つも身についていないことにも考えが及ばなかった。
 自分勝手な願いのツケはすぐに自分に返ってきた。付け焼き刃で身につけた良き妻としての振る舞いも、夜の相手も上手くいかない。せめて子供を産ませてもらえれば少しでもリーバルを喜ばせられるのではとも考えたが、それも望まれない。苦労して入手した妊娠薬をリーバルが零してダメにしてしまったのは、もしかしてワザとなのかも知れない。そんな風に疑心暗鬼になる自分にも酷く自己嫌悪した。
 それでも、歪ながらもリーバルとリンクの生活は何とか形になっているように思えた。リーバルはリンクの作る料理は気に入ったようで、ちゃんと毎日食べてくれる。少ないが会話だってあるし、夜の営みだって継続していた。リーバルの種が注がれて熱を孕む胎に、いつか彼の子どもを宿せたら。リンクはそんな夢想までしていたのだ。
 しかし考えてみれば、リンクの醜い欲望が生み出した歪な生活がまともに続くわけがなかった。ある日、リンクとの生活に我慢の限界が来たらしいリーバルが遂に「リンクをハイラルに返す」と言い出した。離縁の概念がないリト族のリーバルがそんなことを言い出すのはよっぽどの思いだっただろう。苦し紛れにリンクが言った、リトのつがいは一生ではと言う言葉は、リーバルの冷たい一瞥と共に打ち捨てられた。『君はリトじゃない』。そう言われればもう、リンクに返せる言葉はなかった。

 リンクは絶望した。リーバルはハイラルへ帰れなどと言うが、とてもそんなことなんてできない。あの白く荘厳な城に、もうリンクの居場所はなかった。リンクの無理な望みを叶えるために尽力して下さったハイラル王やゼルダ姫に、そのご厚意に報うことができなかった己が会わせる顔などあるはずもないのだ。
 せっかくリーバルと家族になれたのに。そこに愛はなかったとしても、彼の温もりを知ってしまった後でそれを失う恐怖はリンクの心を鈍らせた。どうせもう何もかもお終いならと、暗い気持ちは悪い考えを浮かばせた。
──せめて、リーバルの子を宿せたら。リーバルの面影を受け継ぐその子がいればきっと、リーバルから捨てられた後も自分は生きていける。
 リンクは新たに取り寄せていた妊娠薬を、リーバルが不在の間にひと匙ずつ口にした。可愛らしい薄紫色に似合わず舌を焼くような強烈な苦味が、道理に背いたリンクの行いを責め立てているように感じた。それでも、リーバルから別れ話をされた後も厚かましく家に居座っていた甲斐はあった。あの日、ハイラル城でのゼルダ姫との謁見を終えて帰宅したリーバルは酷く疲れた様子で、リンクの顔を見ようともせずに床に就いた。薬を飲み始めてから七日目の晩のことだった。リンクはリーバルの寝込みを襲った。疲れて寝ていたリーバルは少し寝ぼけているようだった。恥ずかしげもなく上に跨って淫らに腰を振るリンクを見ても罵るどころか、行為が終わった後も優しくその翼の内側にリンクを抱きしめたのだ。もしかして、リーバルはリンクを他の誰かと間違えていたのかも知れない。でも、それでも良かった。リーバルの腕の中は幸せだった。濃いリーバルの匂いに包まれて、リーバルから精を掠め取った下腹が浅ましく疼いた。初めて触れた温かさの中で、リンクは自分の胎に命が宿るのを祈り続けた。
 リンクの幸運はリーバルにとっての不幸かも知れない。リンクはあの夜の、一晩限りの賭けに勝った。あの妊娠薬のおかげで、本来ならリンクの中で実を結ぶことのないリーバルの種が実を結び、この卵となってリンクの元に来てくれた。
「元気に生まれてきてね」
 リンクは滑らかでほのかに温かい卵の表面を愛おしそうに撫でた。


 リンクの平穏は唐突に壊された。ある日、付近の集落にハイラル王家の使者が数人訪れたと言うのだ。使者たちは人探しをしていると言うことだった。目当ての人物は金髪で若いハイリア人の女性で、名前はリンクと言うことだった。
「それって……君のことだよね?」
 村の住人がひっそりと教えてくれたその話に、リンクは顔を青ざめさせて唇を引き結んだ。大丈夫かと気遣う村人に礼を告げ、リンクは急ぎ家へと戻った。使者の中にはリト族の姿もあったと言う。使者団が訪れた集落からこの村までは大した距離はない。空を飛べる彼にとっては、その僅かな距離は無いに等しいだろう。リンクは目深にフードを被ると、念入りに毛布に包んだ卵を抱えて走り出した。
 行く宛なんかなかった。広いハイラルの大地の東の果てであるこの村から先にどんな場所があるのか、或いは無いのかも知らない。けれど、あの場所に止まっていることはできなかった。どこか身を隠せる場所を。リンクは森を目指してもつれそうになる足を進めた。森に入れば、生い茂った木々がリンクたちの姿を隠してくれる。そう考え、まばらに見えてきた木々の間を走り抜けていたリンクの背後の上空から、懐かしくも鋭い声が聞こえた。
「探したよ、リンク。黙って逃げ出すなんていい度胸じゃ無いか」
……!!」
 恐れていた通りだった。青い英傑のスカーフを翻しながら、最も会うのを恐れていた人物──リーバルが上空からリンクを睨みつけていた。
……って、おい! 待てよ!」
 リーバルが地面に降り立つのを待たずに無言で踵を返し再び駆け出したリンクの背に、リーバルの怒声が届いた。いちいち止まってなんかいられるはずもない。リンクは毛布に包んだ宝物を抱える腕に力を込めた。だんだんと密度を増す木々の間をちょこまかと逃げるリンクに、リーバルは痺れを切らしたようだった。再び高く飛翔したらしいリーバルが起こした突風が背後からリンクの髪を揺らす。次の瞬間。
「ッ、あ……!」
 シュトトトッと鋭い音を立てて、リンクの足のすぐ先の地面に数本の矢が突き刺さった。咄嗟に足を止めるが勢いを殺しきれない。リンクは足をもつれさせて前のめりに転倒した。リンクの口から声にならない悲鳴が漏れる。大事に抱えていた塊が、命よりも大事なそれが森の地面に転がっていく。
「手荒な真似をして悪かったけど、そんなことをさせた君にも非が──、……なんだい、これ」
 転んだリンクの鼻先に降り立ったリーバルは、リンクの視線の先にある包みを不審そうに眺めた。声が喉に張りついて、包みに近づいていくリーバルを止めることができない。震える視線の先で、リーバルがはだけかけていた毛布をめくる仕草をするのが見えた。静まり返った森の中で、リーバルがハッと息を呑む音が聞こえる。
……これ、僕の卵?」
 呆然と呟くリーバルの言葉に、リンクの目の前は真っ暗になった。リンクの浅ましい考えと行動の何もかも、リーバルには伝わってしまっただろう。黙って秘薬を服して勝手にこの卵を孕んだことも、そしてリトの子として育てられるべきその子を勝手に連れ去ったことも、全て。
……
 弁明の言葉など出るはずもなかった。もう何もかも終わりだと思った。
 この子さえいればもう何もいらない。そうとまで思ったリンクの腕の中の小さな命は、既にあっけなくリンクの手からこぼれ落ちてしまったのだから。