ウリュウ
2023-06-02 22:29:04
22028文字
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わかってないなあ

【ガンマズ】

CC移籍後の1号が2号を喪った現実を受け止め切れてない段階のお話。
弟を亡くして気持ちが迷子になったお兄ちゃんと対応に悩むパパの話、くらいに思ってください。
ない:CP
ある:サンコイチ双方向クソデカ感情

【留意事項】
・嘔吐描写あり
・1号がずっとしんどそうで弱ってる/病み気味
・ちょっとだけモブがいる
・2号は回想にしかいない
・あらゆる捏造
【2025年8月17日追記】
・本にすることを断念したため、それ用に書き下ろした「あとがきに代えて」の章をつぎ足しました。蛇足かもしれません。不要でしたら読み飛ばしてください。



◆一七  アイデア

 1号はレッドリボン軍基地跡に降り立った。季節はもはや夏の終わり、少しずつ朝晩の風が涼しくなってきている。
 この場所には何度も来ているが、それでもこのすべてが吹き飛んだような戦闘の痕跡を見ると何とも言えない気持ちになる。
 セルマックスの爆発の跡、2号の特攻の位置、最後に2号を見送った場所、それらを無意識に目で追って――その目をつぶると頭をふった。そういうものを見るために来ているわけではない。
 さわやかな風が強めに吹き抜けていく中、マントをはためかせて、ほとんど何もなくなった基地跡の奥に進む。残骸の中を掘り返しては、ていねいに物を拾い上げ、ひとつずつ見る。確認が済んだものを横に積み上げながら、1号はこつこつと、基地にあったもろもろのものを、掘り出しては確認していく。
 焼野原といっても、すこしめくるとほとんど焼け跡でしかない骨組みだけの建物跡に、ものが残っている。1号は、メインコンピュータの残骸を探していた。
 見つけても、もはやデータなど生きてはいまい。それでも、もしかしたら。少しでも可能性があるのならば。
 邪魔なものを壊し、壊した中からそれらしきものがないか探し、いらないがれきを一か所にまとめて、たまにスキャンしながら、こつこつ、少しずつ。この作業を、ひまがあればここにきて繰り返している。

 作業を始めて30分ほどしたところで、ヘド博士からの通信が入った。1号はいったん手を止め、すぐに通信に出る。
『1号、今どこにいる?』
 なんとなく、答えるのがためらわれた。ごく低い可能性にかけている自分を、ヘド博士はどう思われるだろうか。
『違うかもしれないけど――レッドリボン軍の跡地にいるのか?』
――は」
 少しためらって低めの声で答えた1号に、ヘドも少し黙った。
『僕も今からそっちに行っていいかな』
…………もちろんです」
 通信を切り、あたりを見る。
 1号は頭をからっぽにして、捜索の続きを始めた。

 ふと見ると、見覚えのあるベッドの破片が落ちている。
 最初にセルマックスが起動したあたりに、ヘドとガンマたちのスペースがあった。そこにあったものが、この辺りまで飛ばされているらしい。めちゃくちゃな戦闘のせいで、記憶とは違う位置に飛んでしまっているものもたくさんあったので、そのパターンだろう。ごちゃごちゃと焼け焦げたカラフルな博士の私物の残骸らしきものも見える。
 1号はそこに、自分と2号の簡易メンテナンス用の工具箱がどうにか形を保っているのをみつけた。ほとんど無意識に拾い上げ、ほとんど無意識にそれを開けた。
 そして、そのまま立ち尽くした。
 ふっとばされて転がったのであろう工具箱の中はぐちゃぐちゃになっていたし、箱の一部は溶けかけていた。それでも、無事に残っている一角に、紙が一枚はさまっている。
 いや、貼ってあった。
 それは、裏面に弱いのりのついた、正方形の、空色の粘着付箋だった。
 どうしていいのかわからなくなって、そのメモをはがすと、わけもなく丁寧にしわをのばした。見覚えのある伸びやかな2号の筆跡がここちよさそうにまっすぐになって、自慢げに1号に自分の存在を主張する。
「あいつめ」
 声に出したとたん、視界が鮮やかに歪む。冷却水が頬を伝ってぼとぼと落ちた。
「オレの背中に貼るのを諦めて、こんなところに仕込んだな」

 ピッコロ大魔王との戦闘を2号の勝利で終えて帰り、会議をして次の動きを決めて、すべてが無事に終わったら、夜、1号は工具箱を開けるだろう。その時に見るように、その中に。
――まったく、情緒がないんだから。
――メモを貼る別の場所のアイデア考えなきゃなあ。
そうだ、あの流星群の夜、そんなことを言っていた。思いついた次のアイデアを、実行していたのか。あの手この手で1号にメモを見せる、いたずらっぽい2号らしいやりくちが、どうしようもなく懐かしい。
「おまえは、どうして、そう」
 出した声が、どんどん上ずっていった。
――諦めが悪いんだ」
 がちゃん、と足元で音がした。それは工具箱の落ちる音だったが、自分が箱から手を離したことにすら気づくことなく、1号は冷却水のあふれ続ける目を両手でめちゃくちゃにぬぐった。熱い喉の奥から、あとからあとから嗚咽が付きあがってきた。生まれて初めて泣きじゃくる自分の止め方がわからず、ただその場に立ち尽くして泣き続けた。
何故だかわからないが、どこかで、安心していた。
 ずっと、このメモを受け取りたかったのだと思った。





◆一八  きみの後ろ姿

「1号!」
 小型飛行機で基地跡に降り立ったヘドが後ろに駆け寄ってくる。その気配を感じているはずなのに、1号は振り返らなかった。ヘドは、1号の少し後ろで立ち止まる。
「1号。聞いてくれ」
 ヘドが息を整えた。
「メインコンピュータに残ってる2号のバックアップを探してるんだろ」
――はい」
 さすがだった。ここに来ている意図など、気づかれている。
「定期的にデータを同期してはいたし、もし特攻の瞬間まで2号が同機してくれてたら、確かにそこから2号の意識を復元……生き返らせることができるかもしれない。でも」
 ヘドは懸命に何かをこらえるような口調で続ける。
「最後まで同期なんてしてる余裕はないだろうし、その前にメインコンピュータやサーバなんてこわれてるかもしれない。こんな残骸の中から見つけ出すのは現実的じゃないし、見つけたところでデータが復元できるかどうかわからない。ここにはもう灰とがれきしかない可能性の方が圧倒的に高い。確率はゼロに近い」
 1号は答えなかった。急に、ヘドが次に言う言葉が、わかった気がした。
「それでも」
 ヘドはつづける。
「それでも1号がやるっていうなら、ボクもその可能性に掛けるよ」
 振り向いた。創造主は、泣きはらした1号の顔を見ても何も言わなかった。
「博士――
「ボクにもいっしょにやらせてほしい」
 1号はヘドに向かって数歩歩み寄ると片膝をついた。
 何も言わない一瞬があった。
……ありがとうございます」
 やっと口に出した1号の膝に乗せた右手に、ヘドの小さな手が乗せられた。1号は手のひらを反転させると、それを握手する形でぐっと握り、
「でもそれには、博士には少しお痩せいただかなくては。ここは足場が悪いですから、動きやすいように。手始めに毎朝、散歩でもいかがですか」
「ええ……
 感動的な雰囲気が台無しだとでも言うように、ヘドは眉をゆがめた。
 1号が晴れやかに笑う。ヘドは少し驚いて、その顔を見つめた。
「2号も、こう言っていることですし」
「?」
 謎めいたことを言った1号が、ヘドの前に、空色のメモを開いて見せた。