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ウリュウ
2023-06-02 22:29:04
22028文字
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わかってないなあ
【ガンマズ】
CC移籍後の1号が2号を喪った現実を受け止め切れてない段階のお話。
弟を亡くして気持ちが迷子になったお兄ちゃんと対応に悩むパパの話、くらいに思ってください。
ない:CP
ある:サンコイチ双方向クソデカ感情
【留意事項】
・嘔吐描写あり
・1号がずっとしんどそうで弱ってる/病み気味
・ちょっとだけモブがいる
・2号は回想にしかいない
・あらゆる捏造
【2025年8月17日追記】
・本にすることを断念したため、それ用に書き下ろした「あとがきに代えて」の章をつぎ足しました。蛇足かもしれません。不要でしたら読み飛ばしてください。
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◆六 カプセルコーポレーションのヘドと1号
「これ食べなきゃだめか?」
ヘドが朝のニュースが流れるテレビを横目で見ながら、心底嫌そうにサラダのはしっこのレタスをフォークでつついている。ニュースの内容なんて頭に入ってはいない。それより、窓から差し込む朝日で鮮やかにきらめく、目の前のみずみずしい緑の山が彼にとっては重大事だった。サラダの横にはトーストとバター、それからきれいな目玉焼き。彼の大好きなジャムは1号によって封印されている。
マントをはずしたヒーロースーツにエプロンを付けた1号は、にべもなく
「だめです。せめて半分はお召し上がりください」
と答えた。
「必要な栄養素なんてサプリで補えばいいんだよ」
「よくありません。人間はバランスよく食事をしなくては健康が保てないと聞きます。美容部門の研修でも
――
」
「あーーわかってるわかってる、甘いものばかりじゃなくて野菜もバランスよく食べろってあらゆる媒体で言われてるのはわかってるよ、1号が昼間のクッキーには目をつぶった上で食事で野菜を摂らせようとしてるのもわかってるし、ぜんぶわかった上で言うけど、こんなの草じゃないか」
ほとんど涙目である。
「博士」
ひどく困った顔で一言、自分を呼ぶ1号に一抹の申し訳無さを抱いたヘドは、視線を右往左往させ、自分の大人気なさを顧み、やや反省ののち、なにか言おうと言葉を選びはじめ
――
そして椅子を蹴倒して立ち上がった。
「あーーー!」
「
……
!?どうなさいました」
「あれ!」
ヘドが指さしたテレビのモニタに、『速報』の文字が踊り、キャスターが早口で、謎のロボットが暴れている旨を読み上げている。その画面に写っているロボに、どう見ても見覚えがある。赤いリボンのロゴは剥がれかけているが、明らかにレッドリボン軍のあのバトルジャケットである。数が合わないのは把握していたが、こちらで見つける前に最悪の形で現れてしまった。
1号は風のようにエプロンを脱ぎ捨てると、かけてあったマントをつかんで窓から飛び出した。
「ハチ丸、行け!」
ヘドの指令を受けたハチ丸が、飛び出す1号の腕にとまってそのまま同行する。
「気をつけろよ1号、制御を失ってるっぽい動きだ。どこがどう壊れてるか、ここからじゃわからない」
すぐに左手の通信機を起動したヘドの指示を聞いた1号から、短く「はっ」と返事が返ってくる。ヘドは一瞬の逡巡ののち、フォークにささっていたレタスを口に放り込んで無理に飲み込むと、ついでにトーストを咥え、こちらは白衣をひっつかんで、少しでも解析ができるようにとコントロールルームに向かって走った。
◆七 ニュース速報 現場より中継
はい、こちら現場の〇〇です。我々たまたま別の取材でここに居合わせたのですがまさかまさかの光景にカメラマンともども驚いております。スタジオからもお伝えした通りこちら都の北側、謎のロボットが暴れながら移動しているという状態です。
ご覧いただけますでしょうか、黒っぽい謎のロボットが暴れながら
……
暴れる、というよりは制御を失っているのでしょうか? やや火花が散っているのも見えます。ぎくしゃくとした動きのようですね。少しずつですが町のほうに向かって移動しているようです。警察はまだ到着しません。片腕はドリルになっていますね、これは危険です。
はい? あ、はい
……
人は
……
そうですね、人が乗っている様子は見受けられません。コクピットは無人です。何かロゴがついているようにもみえますが、どうもほとんどはがれていてよくわかりません。
それにしてもかなり汚れております。すすがついているというか
……
何か、ひどい爆発の中を抜けてでもきたかのような
……
あっ、今何か部品が落ちたようです! 何か落ちました! ここからでははっきりとは確認できませんが、何かのパーツが外れたようです! これはいけませんね。やはり、コントロールを失った無人のロボットが壊れかけて暴れているという状態に見えます。
あーっ! 大変です! すぐ近くに子どもがいます! 十歳ほどでしょうか? 兄弟とおぼしき子どもが二人、気が付いて逃げ始めました! あっ、転んだようです! これはいけない! 間に合わない!
うわっ!
……
何が起きたのでしょうか? 上から何か飛んできたように見えましたが
……
ロボが吹っ飛んだようです。謎の衝撃で土埃が立っておりよく見えません
……
ん? あれはなんだ?
……
あっ! あれは! ガンマです! 最近カプセルコーポレーション所属として活動をしているガンマ1号です! わたくし彼は慈善活動をしているところしか見たことがありませんが、本当にヒーローとしての活動を
……
あれ、こちらにむかって何か言ってますね。何々?
逃げなさい?
え? う、うわ、わーっ!
〇〇さん? 〇〇さん大丈夫でしょうか。今現場からの中継が途切れてしまいました。〇〇さん? スタジオの××です。きこえますか?
……
大変申し訳ありません、映像が乱れているようです。
……
あ、今入った情報によると、カメラマンと〇〇報道員は無事のようです。ロボが爆発したようだとのことですが詳細は不明です。
中継の電波が復活し次第改めてお伝えします。
◆八 1号
バトルジャケットの真上まで到達したとき、転んだ子どもとそれをかばおうとする子どもに、妙な動きで近づいたバトルジャケットがもうぶつかってしまう寸前だった。
やむなく1号は上空から直角に急降下すると、加減を見計らってバトルジャケットを軽く蹴り、その機体の位置を外した。下手な衝撃をあたえると危ないかもしれないが、この際どうしようもない。機体は方向を変えられたようになって少し先で変な風にひっくり返り、ばたばたとその場でおかしな動きをする。ハチ丸が飛んで行って回り込み、その映像データをヘドに送信しはじめた。
振り返り、子どもをまず安全な場所へ連れて行こうとした1号が二人を抱き上げかけた時、「痛い!」 倒れていたほうが鋭い悲鳴を上げた。
「どうした」
「痛い、足が痛い」
涙目で痛がる子どもは転んでいた方だ。ズボンの裾から腫れた足首が見えた。
「弟がさっき遊んでるときに足をくじいたんだ。だから帰ろうとしたんだけど、あいつがきて
……
」
かばっていた方の子どもが言う。彼が兄なのだろう。
なるほど、いくらも逃げないうちに転んだのはこのせいかと納得しつつ、骨折の可能性を鑑みて飛ぶのを諦めた1号は、すぐマントを外し、それを二人の前に突き出した。
急にマントを渡された子どもたちはひどく戸惑って1号を見た。
「二人で頭からかぶりなさい。特殊な繊維でできたマントだ。君たちを守ってくれる」
「ガンマはどうするの?」
「私は強いから大丈夫だ」
安心させるつもりで微笑んで見せる。
「痛いだろうがほんの少し我慢しなさい。警察も救急車もすぐ来る。さあ、早く。私がいいというまで、絶対にそのマントを外してはいけない」
二人が素直に従ったのを確認すると、軽装になった1号は、近くに人間がいないかスキャンする。あのニュースを流していたカメラ、どこかに取材クルーがいるはずだ。
「逃げなさい! 逃げなさい、早く! 何が起きるかわからないぞ!」
見つけた方角に向かって叫びながら、倒れたままガタガタとおかしな動きをする機体の近くまで飛ぶ。
『1号!』
ヘド博士から通信が入った。
『そのバトルジャケット、もうだめだ! 機体の温度が上昇してるし液体が流出してるっぽいのが見える! 燃料かもしれない! 人も乗ってないからもういい、すぐ離れろ!』
ハチ丸が飛んできて1号の肩にとまった。
1号は無言で機体に近づくと、子どもや取材クルーのいる方角からさらに引き離すためもう一度蹴った。急いで子どものいる方へ戻ろうと踵を返す。きなくさい匂いがして、浮き上がるような気持ちの悪い風、背中で轟音が響き、ついで熱風が押し寄せる。手のひらでハチ丸をかばいながら、1号は視線だけをそちらへ向けた。
バトルジャケットは爆発炎上した。
◆九 ドクターヘド
「
……
大丈夫か?」
帰ってきた1号が妙に憔悴しているように見えて、ヘドは注意深く尋ねた。
「? はい。問題ありません」
爆発で大したダメージを受けていないのは分かり切っていた。爆風をまともに受けたとはいえ、1号はほとんど微動だにしなかったし、子どもたちの方に飛んでいきそうな破片をその場ではじいておく余裕さえあった。
だから、ヘドに真顔で大丈夫かと訊かれた1号が一瞬やや不思議そうに答えたのも無理はない。ヘドだって正直体のダメージを気にしたわけではなかった。
「ちょっと顔色が悪いように見えるんだけど」
「いえ、別に
――
」
「うーん」
厳密にいえばガンマに『顔色』は存在しない。常に顔の色は一定である。しかしこの顔つきを本人に向かってどう表現すればいいのかというと、『顔色が悪い』以外の言葉が思いつかない。
「お疲れ1号!」
高く元気のいい声が飛んできて二人は振り返る。通りすがったブルマ博士だった。
「助けた子どもたちの親御さんから感謝の電話が来てたわよ。後日ちゃんとお礼がしたいって
……
あら」
立ち止まって一瞬1号の顔を凝視する。
「あんた疲れた顔してるわねえ! しっかりメンテナンスしてもらいなさいよ!」
それだけ言って強めに1号の背中を叩いて去るブルマ博士の背中に向かって、1号が直角にお辞儀をする。
結局爆発した機体からしっかり子どもを守った1号は、パトカーと救急車が来るのをその場で待ち、子どもたちが救急車に乗るのを見送って、警察としてやってきたクリリンに事情を話し、CCの職員が機体の破片を回収するところまで手伝ってから戻ってきた。
子どもたちはバトルジャケットの現れる前に弟の方がひどく足をくじいていたが、それだけで、この事件による外傷ややけどなどはないようだった。精密検査はまだ結果が出ていないが、おそらく本当にそれだけで済むだろう。
1号の働きはほぼ完璧で、彼自身のダメージもほとんどない。セルマックスの時のような爆発ならまだしも、あの規模の爆発でガンマがダメージを受けるはずはないのだ。
そのはずだ。だが、ヘドは別のことを心配していた。
「1号、ブルマ博士もああ言ってたし、念のためメンテナンスしておこう。ラボにきてくれ」
「はい」
素直に従った1号の気配を背中に感じながら歩く。ハチ丸が1号の肩から移動してきたのを手であやしながら、ヘドは思いを巡らせていた。
爆発から誰かを守る。セルマックスの時と、状況が似ている。ガンマにも連想で記憶を引き出してしまうことはあるから、あの時1号が体の下に守った2号の亡骸や、どの程度ダメージをうけているかわからない自分のことを思い出したことで憔悴したようになっているのか、というところまで考えて、
……
過保護かもしれないな。1号はそんなに弱くない。
内心自嘲した。それでもヘドは、『何か憔悴しているようにみえる』という初見の直感的な自分の見立てを、そして『疲れた顔してる』というブルマ博士の言葉を信じることにした。
一〇、夜と自室の1号
メンテナンスで特に不具合は出なかった。ヘド博士は顔色が悪いという言い方をしたが、自分の顔色がどうなっているか、1号にはよくわからない。鏡も見たが、いつも通りの自分の仏頂面が写っただけだった。
昼間の少年たちは大丈夫だろうか。いや、大丈夫だろう。おそらく最初に足をくじいた以上の怪我はない、と思う。とはいえ、あのバトルジャケットを先に見つけられなかったせいで、彼らに怖い思いをさせてしまったのだから、悪いことをしたと、1号は責任を感じていた。
――
一応言っておくけど、お前のせいじゃないぞ。
クリリンはそう言っていたが、そうは思えなかった。
おそらく兵士の一部があの機体に乗って逃げ、どこかで乗り捨てたものが、何かの拍子に動き出してしまったのだろう。先に見つける方法はなかったのか。
現場に到着したとき、兄は必至で弟を守ろうとしていた。1号はそれを見て素直に感動し、素晴らしいと思った。そんな風に「弟を守る兄」を見た直後だから、爆風を背に受けながら、ああ、あの時ほかに方法はなかっただろうか、と自然に思った。どうシミュレーションしても、あの時の自分では2号より先にヘド博士の生存に気付ける瞬間はなかった。
救急車が来るまでの間に、子どもたちに、弟が痛みに対して我慢強かったことを褒め、兄の立派だったことを褒めた。特に、危険が差し迫っても弟を守ろうとした兄を尊敬するとさえ思ったし、そう伝えた。子どもたちは嬉しそうだった。喜びを分かち合う兄弟がまぶしかった。その光景に憧れに似たものを抱いた。
自然な流れで、自分は弟機を喪うことと引き換えに生き残ってしまったのだ、と思い返し、それが頭の片隅から離れなくなった。
1号はその日から、スリープモードへの移行に極度に時間がかかるようになっていった。
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