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2026-01-05 18:21:48
12058文字
Public 高諸
 

高諸 何度でも、愛を囁く

完結しました!

怪我から目が覚めた高坂さんは3ヶ月分の記憶が無くなってた。そんなお話です。

尊ちゃん視点、高さん視点が、入り乱れてます。



「はぁ~~」

秋晴れの空。
期間限定の栗饅頭は予想以上に美味しくて、本来なら頬が緩むところ、口から漏れ出したのは大きなため息だった。

あれからしばらく経って、高坂さんの怪我はすっかり良くなった。
包帯も取れて忍務にも復帰して。それは本当に嬉しいことなのに、私は心から喜ぶことができなかった。

だって、高坂さんの「記憶」だけは、戻ってないから。
日が経てば経つほど、たった数ヶ月の記憶なんて、仲間から得られる情報で補える。
だからもしかしたらもう、忘れた記憶のことを無理に思い出そうとはしていないのかもしれない。

ーー私と恋仲だった3ヶ月なんて、もう思い出すことはないのかもしれない。
そう思うとぎゅっと胸が締め付けられ、鼻の奥がつんと熱くなる。

……こんなことになるなら、さっさと教えておけばよかった」

今さら伝えたところで遅すぎる。
ならもう一度、今度は私から気持ちを伝えて、一から関係をやり直そうとも考えた。
でももし、振られてしまったら。そう思うと怖くなって告白する勇気も出なかった。

今日だって、本当は高坂さんも非番だったのは知っていた。だけど、小頭が高坂さんと話している隙に逃げるようにここまできてしまった。


「一緒に食べようって約束したのに。……高坂さんの、馬鹿」

馬鹿なのは私だ。
意地なんて張らずにただ誘えば良かったのだ。
そうすれば恋人として来ることはできなくても、先輩と後輩として、一緒に来ることはできるのだから。

***

「ただいまもどりました~」
「尊奈門、どこへ行ってたんだ」
……ふえ?!」

返事が返ってくると思ってなかったから変な声が出てしまった。
声の主は見なくても分かる。声の出所に顔を向ければ、予想通り高坂さんが、それも何だか不機嫌そうな顔をして、真っ直ぐにこちらへ向かってきている。

「高坂さん、どうかしましたか?」
「答えろ、どこへ行っていた?」

……あれ、高坂さん怒ってる?

なにかやらかしてしまっただろうか?頭の中で最近の出来事を思い出せども、最近は果し合いすらしてないから心当たりはない。
それでも眉を吊り上げ鋭い視線を向ける高坂さんに、慌てて持っていた包みを差し出した。

「だ、団子屋ですよ。ほら!これお土産です」

饅頭は美味しかったから、高坂さんだけじゃなく組頭や小頭の分も土産を買ってきた。
──きっと、二人で行ってもそうしただろうから。
高坂さんは包みと私を交互に見て、荷物を受け取ってくれないで、私の腕を掴んできた。

……一人で、行ったのか?」
「えーと、はい」

だって、一緒に行きたい高坂さんを差し置いて、誰かを誘うなんてできないし、だからと言って約束を覚えてない高坂さんを誘う気にもならなかったから。
返事を返した途端、高坂さんの顔はますます険しくなった。

「──私と、一緒に行く約束をしていたのではないのか?」

ドキリと心臓が跳ねた。
──まさか、約束を思い出してくれた? 一瞬、淡い期待が胸をよぎったが、すぐに冷静な自分が否定した。
違う。高坂さんが目を覚ました時に、私がそう話したから。この人はそのことを覚えていただけだ。

「その約束を忘れたのは、高坂さんですよね?」
……っ、」

掴まれた手から高坂さんの動揺が伝わる。
気づいた瞬間、サッと血の気が引いていくのを感じた。
違う違う違う。責めたかったわけじゃない。
怪我をしたのだって、記憶が無くなったのだって、高坂さんのせいじゃない。
恋人となったことを伝えないと決めたのも、自分のくせに。
なのになんで、私は高坂さんを責めるようなことを言っちゃったんだ。

「ご、めんなさい。……頭、冷やしてきます」

掴まれた手を振り払って、逃げるようにその場を後にした。
自分を呼ぶ声が聞こえた気がするけど、追いかけてくる気配はない。それに安心する気持ちと、寂しいと胸が締め付けられるような感覚とで、私の気持ちはごちゃごちゃだ。

なんで、こんなことになっちゃったんだろう。
私はただ、高坂さんに生きててほしかっただけなのに。回復してくれて、本当に嬉しいはずなのに。
──それなのに記憶が戻らないことを、裏切られたと思ってしまう自分が、何より嫌だった。

さっきまで澄んだ青を映していた秋の空は、今は私の心を映したような暗く重たい灰色に沈んでいた。