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2026-01-05 18:21:48
12058文字
Public 高諸
 

高諸 何度でも、愛を囁く

完結しました!

怪我から目が覚めた高坂さんは3ヶ月分の記憶が無くなってた。そんなお話です。

尊ちゃん視点、高さん視点が、入り乱れてます。


夢を見ていた。
夢の中のあいつはどうしてか、幸せそうに笑っていた。自分の隣を歩きながら、私の名前をそれはそれは嬉しそうに呼んでいた。
その笑顔を見ていたら、こちらの心も温かくなって、頭を撫でたいと思い腕を動かそうとするたびに、身体は石のように重く、指先すら動かなかった。その瞬間、あぁこれは夢なのだと静かに悟った。

そしたら早く本物のあいつに会いたくなって、起きようと藻掻いてみた。起きようと思うたび、全身に走る激痛で意識が遠のきそうになるのを必死で耐えた。
現実世界のお前は、私の名を呼ぶとき、どんな表情をしていただろうか。気を紛らわせるためにそんなことをずっと考えていた。


……、うぅ、」

うめき声が自分のものだと気づくまで、少しの間、夢と現実の境目が曖昧だった。
ここはどこだ、私は一体どのくらい寝ていたんだ。
相変わらず全身は痛いし重たくて動くことができない。でもすぐ近くに居る奴だけは、見なくてもわかる。

高坂さん?!」
「そん、なもん
「はい!私はここにいます!よかったぁ

本物のあいつが私の名前を呼んでいる。それだけで痛みが和らぐような安心感を覚えた。
ぼやける視界、返事をしようと口を開けば、ガサガサとしわがれた声が出てきた。どうやら相当長い時間、私は寝たきりだったらしい。声がした方に顔を向けながら何度か瞬きを繰り返せば、ようやく視界がはっきりとしてきた。

やっと見ることができた尊奈門は、嬉しさと安心がごちゃ混ぜになった表情で、泣いていた。
まさか泣くほどとは思っていなかった。反射的に上体を起こし、痛みが走ったが、それよりも尊奈門の涙の方が気にかかった。
安心させるように頭を撫でた。尊奈門は一瞬驚いた表情を浮かべたものの、次第に涙は止まり、いつものように調子のいい軽口を言ってきた。
夢で触れることのできなかった体温を密かに堪能しつつ、耳に心地よい尊奈門の声を聴いていた。
無理に起こした身体も、頭を撫でるために上げた腕も痛いままだが、ようやく戻ってこられたという謎の安心感を覚えた。

ーーそう言えば、私はどうして、こんなけがを負って寝込んでいたのだろう。
数か月後に大きな戦を控えていた。だから最近はその戦に備え、英気を養うため、こんな怪我をするほどの任務は、与えられていなかったはずだ。思い出そうとした瞬間、頭の奥がじんと痛んだ。霧がかかったように何も掴めず、考えるのをやめた。

尊奈門は相変わらずニコニコと笑ったまま、しばらく先の季節の甘味の話をし始めた。食い意地を張っている様子が微笑ましくて、思わず笑ってしまった。

「──それにしても、これからが夏が本番なのに、栗の話をするのは気が早いんじゃないか?」

尊奈門の表情が強張った。
和やかだった空気が一変して、緊張した空気が部屋を満たした。何か変なことを言っただろうか。
そうは思っても、どんな失言をしたか、心当たりはなかった。

高坂さん、いま、何月何日か分かりますか?」

空気と同じくらい緊張感を漂わせた声。
寝起きの人間に変なことを聞くなぁと思ったが、真っ直ぐ向けられた視線が、ただ事ではないと告げていた。

「おかしなことを聞くな。眠っていたから日にちは定かではないが──まだ七月にもなっていないだろう?」

正直にそう伝えれば、尊奈門は黙ってしまった。目を見開いて唇をわずかに震わせている。まるで何かに怯えたような表情は、見たことがなかった。

おい、尊奈門?どうした?」

何度呼んでも心が抜け落ちてしまったように返事を返してくれない。一体どうしたというんだ。今の回答でどうしてそうなってしまうのか心当たりが見当たらない。肩をゆすり、声をかけても先ほどのように尊奈門は名前を呼んでくれない。

夏本番が目の前に来ているはずなのに、どうしてか空気は冷たく、肌寒さを感じる日だった。
尊奈門の顔から色が消えていった理由を、私はまだ知らない。