始まりと終わりの草原

『ニゲラの硝子籠』RPGゲーム風パロ。創作語り風の一つの物語。
⚠︎死ネタ・残酷・ホラー描写あり。鬱展開が非常に多い。傑×朔叶の崩壊と再生の物語。





傑は朔叶の素材集めに同行するようになった。
「湖に落ちたら危ない」だの「怪我したらどうする」しまいには「……朔叶をさらわれたくない」と真剣なトーンでのたまった。
朔叶は思わず吹き出す。傑は「何笑ってるんだ」と不満そうに眉をひそめる。
笑ってしまったのは以前の精神力が安定していた頃の傑も、全く同じような理由で朔叶に過保護を発揮していたから。
面白かったんじゃない。懐かしかったから。



ある日の夜、朔叶は家の前に立っていた。夜の森は暗いが、精霊たちの計らいのおかげで玄関先だけはほんのり明るい。この時間に外にいるのは夜風に当たりたい気分だったから。傑は寝ている。最近は朔叶が抱き寄せなくても一人で眠れるようになった。

少しして。

「朔叶」

声が聞こえた。しかし傑ではない。傑にしては声が高すぎるし、何だかふわふわしている。
きょろきょろ辺りを見渡すと家の屋根の上に腰掛けた人……いや、水鳥川が淡い光をまとってそこにいた。

……み、水鳥川?」
「そだよ〜この姿では久しぶりだね〜」
水鳥川はふわりと朔叶の隣に着地する。
「どうしてその姿に……?」
「俺を水鳥川だと気づいた人が3人(朔叶/傑/瀬那)いたから、特例で精霊に人間の頃の姿を再現してもらったんだ。今晩限定だよ」
それから2人は少しの間話をした。





傑は以前のように過剰な保護者に戻りつつあった。朔叶は「分かったってば」と頬をふくらませて微かに不満アピールをする。朔叶も自分の感情を以前にも増してはっきり見せるようになった。


それからさらに1年後には朔叶と傑は湖の先に出て、街中でクエストを引き受けるようになった。理由は精霊に頼りきりの生活も悪いなというのと、そろそろリハビリとして外の世界に触れても大丈夫なんじゃないかと2人で相談して決めた。
森の精霊は気にしなくてもいいのにと言いつつ、朔叶たちの意志を尊重した。そして2人に精霊のお守りよりも強力な加護を授け、外の世界にいる精霊たちに朔叶たちを見守りときには助けてやってくれと頼んだ。
精霊たちにとって朔叶は英雄みたいな扱いだった。何故なら森の精霊が提示していた薬剤と旅の思い出話は、外の精霊たちのためのものだった。
あの2つの条件は最初から人間への偏見を無くすためのものだった。



精霊たちは目に見えることもあれば見えないこともある。だがどちらにしろ確かな守りを感じた。崖を登ったり走るのが苦手だった朔叶。だが敵に追われているときや頂上近くまであと少しというところでスタミナが切れかけた瞬間、体がふわっと軽くなる。常時ではない。その瞬間だけ。傑にも同じタイミングで同じ加護が入る。

森の精霊は朔叶たちへの支援を欠かさない代わりに、依然として薬剤と旅の思い出話を要求する。
朔叶が支援はもういいと断っても精霊は

「君たちが良くてもこっちが困るんだよ。暇があるときでいいからおいで」

森の精霊は元々人間に好意的だったが、朔叶たちを支援しはじめてからさらに好意的になった。それに悠久の時を生きる精霊にとって、寿命が短い人間は年齢関係なく子どものようなものだった。
つまり愛着が湧いた。





あるときプレイヤー、久東、瀬那は窮地に追い込まれていた。大型モンスターの討伐クエストを受けていた。プレイヤーたちは以前よりも強くなった。しかし数の少なさはずっと不利なままだった。
全員が瀕死になりかけ、敵からの全体攻撃が来ようとしていたそのとき。
3人は大きなバリアで包まれ、次の瞬間には1%しかなかったHPが100%に全快していた。
全員が振り向くとそこには、かつての仲間である朔叶と傑が武器を手に毅然と立っていた。


大型モンスターを倒し終わったあと戦場には、プレイヤー、久東、瀬那の3人だけが残っていた。朔叶と傑はすでにいなかった。さっきまで背中を捉えていたはずなのに、一瞬またたきをしたときにはすでにいなかった。