始まりと終わりの草原

『ニゲラの硝子籠』RPGゲーム風パロ。創作語り風の一つの物語。
⚠︎死ネタ・残酷・ホラー描写あり。鬱展開が非常に多い。傑×朔叶の崩壊と再生の物語。






このエンカウント、実はプレイヤーによって場所が異なる。
広大な草原だったり、廃墟の中だったり、暗い洞窟の中だったり、海の近くだったりする。だから攻略サイトがあったとしても、確定情報が出せない(攻略班泣かせの仕様)
暗い洞窟の中は視界が狭いのもあってハードだし、広大な草原は障害物が無いから常にお互いの姿は見えているし、海の近くの場合、海に飛び込めばOKかといえばそうでもない。何故なら海でも泳いで追ってくるから。
そしてこのエンカウント時はワープポイントを使えない。



囮作戦を使わずに朔叶の元へ行くと、それまで普通だったBGMが突如無音になる。
そして傑のスピードが急激に上がる。BGMが消えたことで足音が際立って聞こえるため恐怖が増す。
朔叶の近くまで行くと、朔叶はバリアの中から「傑!」と呼びかける。それによって傑は一旦動きを止める。その状態で近寄ろうとすると瀬那が「一度退くぞ」と強制的にその場から離される。




ニゲラの硝子籠版RPGがまだ2Dのゲームだったら動きやすかったかもしれない。でもこれオープンワールドなんですよ。普段から操作キャラの背中を見続けるのが常。
カメラを回しながら操作できる人でも、背後から迫る真顔の傑にはさすがに手元がブレるんじゃないかな。



このエンカウント時、広大な草原限定で水鳥川みとりがわが来て朔叶に接近するイベントが挟まる。このとき傑は誰かを捕まえてても即離して、朔叶と水鳥川の元へ向かう。
実はこのときにプレイヤーは逃げることができる。朔叶のテレポート待ちをしなくていい。しかしこれは水鳥川を犠牲にするということでもある。
だが元々水鳥川は傑と朔叶がパーティーメンバーから抜けた瞬間から現れなくなっていた。朔叶たちは二度と戻ってこないだろうと判断できるプレイヤーなら、助けに行っても行かなくても水鳥川もどっちにしろ戻ってこないと逃げの選択肢を取れる。
ちなみにここで逃げの選択肢を取らなかった場合、一定時間経つとプレイヤーが再び傑に追われ始めるし、後で朔叶の元に行く道中で水鳥川が倒れて動かなくなっているため、絶望の重ねがけを味わうだけ。




水鳥川は朔叶を助けに行くというより、久々に会いたくなったから会いに行っただけ。おそらくパーティーメンバーから抜けた後に、ふわふわ放浪するフリして朔叶を探してたんじゃないかな。また一緒に遊ぶために。
朔叶はプレイヤーには「逃げて」とは言わなかったけど、水鳥川には泣きそうな顔で切実に「逃げて……!」と言ったと思う。
パーティーメンバーの中ではレベルや戦闘ステータスが傑が一番高く強かったのに対し、水鳥川はその対極で低く弱かったから。
けど水鳥川はいつもの調子を崩さず、「少し喋ろうよ」と透明なバリア越しにふわふわ話しかける。現実が見えていないように見えるが、このときの水鳥川はプレイヤーたち以上に覚悟はしていた。これが最期のやり取りになることを。



そしてプレイヤーが逃げるかどうかの選択肢をしている間、傑は朔叶の元へ向かう。水鳥川はその足音を聴きながら、「最期に朔叶と話せてよかったよ。今までの旅はとても楽しかった。ありがとう。また機会があれば会おうね」と手を振って立ち去る。
立ち去った先は傑の元。プレイヤーですら傑に真正面から向かわなかった(向かったら死ぬため)のに、水鳥川は散歩するかのように歩く。浮遊はしない。歩く。
そして言葉も交わさないまま傑は躊躇いなく水鳥川に一撃を与える。HP500の水鳥川は本当に一撃で倒れる。最も高い戦闘ステータスの回避すら使わず真正面から受け止める。


今までヒーラーとして仲間の死を何度も見てきた朔叶はバリアの中で水鳥川の死を察したと思う。水鳥川は朔叶の視界に映らない場所へ移動して死んだ。それは繊細な朔叶を傷つけないためでもあり、同時に蘇生魔法が使えない距離へ行くためでもあった。



朔叶は最初固まるだけだと思う。でも傑が戻ってきた途端、泣き崩れる。何故なら傑の手から漂う水鳥川の魔力が視認できたから。そして言葉にならないものを叫ぶ。
次いでバリアを叩いて「ここから出して!」と半ばパニックになりながら泣きじゃくる。傑が落ち着かせようと優しい言葉をかけても、朔叶は聞いていない。傑は優しい声と表情を崩さない。
だが内心では水鳥川への憎悪が燃え上がっている。
朔叶を泣かせたから。



傑はこのあと優しい言葉をかけながらバリアをさらに強固にして、さきほど水鳥川を殺した場所へ戻る。そこにはうつ伏せに倒れたまますでに息をしていない水鳥川。傑は彼の後頭部を容赦なく掴んで冷たく見下ろす。
渦巻く感情は朔叶を泣かせたことによる水鳥川への憎悪と、朔叶の目線と関心が自分ではなく水鳥川に向いていることへの嫉妬。
そのときの傑の表情はプレイヤーに向けた真顔でも、朔叶に向けた優しい顔でもない。負の感情全てを混ぜた暗い顔。



この間にプレイヤーたちが逃げた場合、傑は朔叶の元へ戻り、バリアを解いて強く抱きしめる。ただ抱きしめるのではなく、「強く」なのは、水鳥川の元へ走り出さないため。蘇生魔法は死んでから一週間以内なら適用できる。しかしそれをされるわけにはいかない。
傑は壊れに壊れているのに、そういう判断は冷静で鋭い。




プレイヤーが逃げなかった場合、プレイヤーはうつ伏せの水鳥川のそばで佇む傑を見つける。
しかし今までと違って追いかけてこない。そもそもプレイヤーのことは視界に入ってないかのように無反応。
傑はただ無表情で足元の水鳥川を見ている。その姿が異様で瀬那に止められているわけでもないのに、それ以上進むことが不可能になる。
今まで瀬那が止めても好き勝手動けたプレイヤー(例:瀬那の足跡追跡を消した)がここに来て先へ行くことを拒む。



この水鳥川死亡ルート、広大な草原限定というのがまた嫌なポイント。しかも場所に関してはプレイヤーによって異なる。そのため広大な草原が当たったプレイヤーに特大の地雷がプレゼントされている状態になるし、もしプレイヤーが水鳥川が推しのファンだったら、心を折るどころの話じゃない。



ちなみに傑と朔叶と二度と会えなくなってから、草原に戻ると水鳥川の死体はまだ残ったまま。一週間以内なら見れるが、一週間以上経つと姿が無くなっている。
そして死体が残ってる状態で蘇生アイテムを使っても戻らない。これはアイテムが悪いのではなく、水鳥川の魂がもうこの世に存在しないから。
普通は死んだ後の魂は一週間くらい残るのがこの世界のことわり。しかし水鳥川は傑に殺されたその瞬間には魂があの世へ行った。
覚悟を決めた者の魂だけは例外的にこの世から離れる速度が早い、という迷信がある(プレイヤーも旅の中でNPCの発言で聞く)が、それを水鳥川が現実で体現した。



水鳥川の最期に残した「機会があったらまた会おうね」は実は伏線。プレイヤーたちと二度と会えない状況で傑に監禁されて日々を過ごす朔叶。朔叶はもう取り乱さないものの、心の傷が癒えていなくて表情は暗いまま。傑は毎日優しく気にかけながらも内心は水鳥川への憎悪が復活したり消えたりを繰り返していた。

そんなある日、傑の監視下に置かれながらも外に出た朔叶の元に小鳥がやってくる。朔叶は待機モーションでも鳥を手に止まらせて眺めることがあったように、鳥に懐かれやすかった。だがこの小鳥は初めて見るのにどこか懐かしさを覚えた。
傑は小鳥を追い払おうと手を伸ばすが、ふわふわと器用にかわす。そのかわし方がどこか水鳥川と似ていた。

小鳥から流れる魔力の残滓、そして水鳥川が生きている頃よく言っていた「生まれ変わったら鳥になりたい」という発言。
朔叶はもしかして、と傑が少し離れているときに「水鳥川?」と呼んだ。すると木の上にとまっていた小鳥が嬉しそうに鳴いた。


傑はこのあと朔叶を今まで以上に束縛する。出かけるときはバリアの中に閉じ込めて留守番させる。小鳥が入ってこないように戸締りをしっかり行ってから。
でも小鳥はさらっと入ってくる。体が小さいからではない。
小鳥の正体は精霊。そのため魔力だけで移動できる。そして朔叶の前に来ると鳥の姿に戻る。傑の気配を察すると魔力の粒子に戻る。