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雨音
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ニゲラの硝子籠
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始まりと終わりの草原
『ニゲラの硝子籠』RPGゲーム風パロ。創作語り風の一つの物語。
⚠︎死ネタ・残酷・ホラー描写あり。鬱展開が非常に多い。傑×朔叶の崩壊と再生の物語。
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それから数ヶ月後、傑はまだ壊れていたが、以前よりは落ち着きを取り戻していた。その理由は朔叶が席を立つときに「傑、おいで」と手を差し出し、握り返されてから立ち上がったり、考えていることは逐一独り言として声に出すようにしてから、傑は取り乱す回数が激減した。
たまに「傑、好き」と普通に言ってしまって思わず顔を覆って照れてしまうが、傑は穏やかに微笑んだり、たまにぎこちなく朔叶の頭を撫でたり、「俺も好きだ」と甘さが滲んだ声で囁いてくれることもあった。
傑が穏やかなのは家の中だけ。一歩外に出た瞬間、傑は朔叶を痛いほど抱き寄せて離さない。肩や腕は微かに震えている。
それでも外に出たのは朔叶が作る薬剤用の素材を集める手伝いをするため。朔叶はポンポンと背中を撫でて落ち着かせる。
落ち着いたら傑から離れてゆっくり歩き出した。
森の精霊は朔叶から旅の思い出を一つ聞く。そして気づく。朔叶のそばにいる壊れかけてる傑との話をするときの彼はとても嬉しそうで、同時に悲しそうな顔をするのを。
傑は朔叶と家に帰るとべったりとくっついて離れない。顔が近くにくれば、遠慮なく深く口付けする。以前のように魔力を流し込まない。
ただ朔叶の呼吸と自分の呼吸を一体化させるような、甘さとは程遠い、でも離れがたい口付け。
傑はよく妹2人が亡くなった瞬間の記憶を悪夢として再生する。そのたびに苦しかった。でも謝れずにはいられなかった。夢という都合よく改変できる世界でさえ、甘さのひと欠片も無い。
そこには現実しかなかった。
ただ今日見る夢はいつもと様子が違った。初めて朔叶と出会う前の死にかけている自分を覗き込む人影。しかも2人。まさかと思い視線を向けると、生きていた頃の妹2人だった。
妹たちは「お兄ちゃん、早く起きて」「早く起きないと朝ごはん全部食べちゃうよ」とキャッキャとはしゃぎながら楽しそうに笑っていた。妹たちの笑顔を見るのは十数年ぶりだった。
だからか静かに涙が流れた。しゃくり上げはしない。
一筋の涙をつぅーと流すだけ。
もう一つ見る悪夢は、水鳥川が死んだあと泣きじゃくっていた朔叶のシーン。そしてすでに死んだ水鳥川の元へ行き後頭部を掴みあげる。
いつもは主観で再生される記憶だ。
だが今回は第三者視点だった。つまり自分の姿が見えた。
傑はまず泣いている朔叶を見て胸が締めつけられる。と同時に水鳥川への憎悪が夢の中でも復活しかけた。
だが夢の中の傑の表情を見て不意に息を詰める。
水鳥川の死体を見る自分の顔が朔叶はもちろん、誰にも見せられない類のものであることを。
そして水鳥川の後頭部を掴んだときの視線の暗さに、何ともいえない気持ち悪さが湧き上がった。
そして最後、悪夢ではないがよく見る夢。死にかけていた自分を助けてくれた朔叶。
それが今日突如悪夢に変わった。
場所は変わってパーティーメンバーの待機場所だった酒場。そこで朔叶の手を引いて連れ出す傑を一歩離れたところから第三者視点で見ていた。
そのときは草原のときほど明確に壊れていなかったはず。なのに夢の中の傑は水鳥川の死体を見下ろすときの顔と全く一緒だった。
その顔のまま朔叶を時折振り返る。後ろから見ている傑も夢の中の自分と、朔叶の肩越しに目が合う。
自分の顔なのに恐怖や気持ち悪さですくみ上がる感覚がした。
傑はそれ以降、朔叶の顔を直視できなくなった。あの顔や目で見てしまっているかもしれないと思うと怖かった。
でも触れないと落ち着かないから、肩口に顔をうずめて目を合わさないようにしながら深く触れ合う。
朔叶は初日の段階ですでに気づいていた。朝昼は気づかなかったが夕方にはあれ?となった。毎日毎日、いやもう十数年も傑は飽きもせずに朔叶を凝視していた。
なのにその日以降、傑から目を逸らした。最初は気のせいかと思ったが、一緒に過ごす時間が長い分目が合う機会は多い。だから早めに違和感に気づく。傑は朔叶のように照れるタイプの男ではなかった。常に堂々としている。
それなのにどうしたことか。そう思い何かあったかと聞こうとした。
しかし傑の目に明確な恐怖と不安が見えた瞬間、追及するのはやめることにした。
傑は自分が怖かった。しかしそれ以上に朔叶を不安にさせてることも空気で察していた。申し訳なかった。だからといって言葉にする勇気も、目を合わせる勇気も無い。
ただ存在を確かめるように静かに触れることしかできない。
その様子を魔力の粒子として見守っていた小鳥は、森の精霊の元へ飛び立つ。精霊は傑の変化に気づいていた。しかしあれは進展が難しいタイプのものだと、悠久の時を生きてきた精霊は悟る。
小鳥は寂しそうに小さく鳴く。
精霊は時間を置いてから言葉にした。「何かきっかけが必要だね」
数日後、小鳥は家の外にいた朔叶の元へ降り立つ。近くに傑はいない。家の中にいるのだろう。家の外は傑の顔つきが変わる。今の彼は自分の顔つきが変わるのを恐れている。その恐怖に直面するより家の中で待つという選択肢を取ったのかもしれない。
小鳥は高い声で鳴きながら朔叶の服を軽くついばんで、森の中へ誘導する。別に明確な目的は無い。ただ散歩したかった。だが小鳥は言葉を話せない。だから強引にでも引っ張るしかなかった。
朔叶はしばらく小鳥と森の中にいた。
一方その頃、傑はドアの目の前で呼吸を浅くしていた。朔叶の気配が近くにいない。少し家の前を掃除する、そう言ってたはずなのに。
傑は確認のためにドアを半分開けておそるおそる顔を出す。
……
いない。
ドアを全開にしてきょろきょろ見渡す。
……
どこにもいない。
……
そういえばさっき鳥の鳴き声が聞こえた。まさか。
傑は恐怖で身がすくみそうになるのを懸命に抑えて、森の中へ駆け出す。
朔叶は傑に気づいていなかった。しかし小鳥は気づく。いや彼が家の外に出た瞬間から気づいていた。だから鳴き声で誘導した。
朔叶の姿を視認し、ついで小鳥を見た傑の顔は瞬時に暗くなった。彼が朔叶に見せるのを最も恐れている顔そのもの。
小鳥も以前見たことがある。
……
正確には己の中に宿る魔力の残滓がそれを記憶していた。
小鳥が手元から離れた瞬間、朔叶は何気なく後ろを振り返った。するといつの間にかいた傑と目が合う。彼の表情は暗い。今までにも何度か見たことがある、自分を守るとき、離したくないときの顔。
だが朔叶は瞬時に柔らかく微笑む。
「傑
……
!やっと目が合った
……
!」
どうしてここに?よりも先に出てきた言葉。最近目を合わせてなかった。合わせてもらえなかった。だからたまたまであっても目が合ったことが嬉しかった。
傑は最初意表をつかれたように固まる。そして思い出したかのように両腕で咄嗟に自分の顔を隠す。
「見るな!」思わず大きい声が出た。だがその声は震えていた。
朔叶は目を瞬かせるが、退かない。そしてそのまま傑の元へ歩み寄ると、そっと抱きしめた。
「朔叶
……
」
「僕は君の顔好きだよ。だって君の顔はいつだって、僕を大切に想っている表情をしてるんだから」
「
…………
」
翌日から2人は以前のように目を合わせていた。傑の視線はまだぎこちなかったが、朔叶が「傑の顔、全部好きだよ」「僕のことを真剣に想ってくれてるんだなって分かる顔だから、好き」と言えば、おずおずと自分から目を合わせてきた。
昨日まであからさまに逸らされていたのに。
その変化が嬉しくて少しだけ涙ぐむ。それを見てギョッとした傑に、首を横に振って黙って抱きしめる。
それから一ヶ月後、傑は朔叶に以前見た3つの夢の話をした。妹2人の笑顔、あの草原で見せた自分のおぞましい顔、そして草原の出来事よりも前の酒場から朔叶を連れ出すときの暗い顔、について。それから抱いた恐怖についても。
数日後。森の精霊の元へ薬剤を届けに行った朔叶。するとそこには小鳥もいた。朔叶は小鳥に礼を告げる。「君のおかげで前へ進めたよ」
それから半年後。瀬那は一人でとある湖に素材集めに来ていた。目当ての物を探していると人影。
その人物を視界に入れた瀬那は目を見開く。朔叶だった。かつての仲間。
「
……
あ」
朔叶も遅れて瀬那の存在に気がつく。目を瞬かせ、少し気まずそうに目を逸らしたあとそっと歩み寄ってきた。
「探し物?」
「
……
あぁ」
「一緒に探すよ。この辺のことには詳しいんだ」
「
……
そうか、じゃあお願いする」
傑は帰ってきた朔叶を出迎えた。そっと抱き寄せて口付けようと顔を近づけたときに気づく。朔叶以外の匂い。動植物でも自然の匂いでもない、
……
人の匂い。
独占欲と嫉妬心がそのまま顔に出る。朔叶は苦笑して素直に今日あったことを話す。
瀬那は湖から帰るとき、一羽の小鳥が視界に飛び込んできた。ふわふわゆらゆらと、鳥にしては少し独特な飛び方。しかしなんだか既視感があった。
「
……
水鳥川?」
言いながらそんなわけないかと思っていたが、小鳥は嬉しそうに鳴きながら、瀬那の頭の周りをぐるぐる回り始めた。
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