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shika
2025-12-19 02:55:32
36124文字
Public
🇺🇲軸/現役選手の流×引退後のリョ
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can't wait 'til Christmas
🇺🇲軸同棲/流リョ
○現役選手の流×引退後のリョ
○スマホが出てきます
○『all for love all night long(
https://privatter.me/page/690de602589ec
)』に出てくる人にちょっと触れています
猫を家族にお迎えする流リョが少しの間遠距離になる話
1
2
3
4
翌朝、真っ暗な寝室に鳴り響いたアラームを体に巻き付いた腕の隙間から手を伸ばして止めた。いつもならカーテンの隙間から陽が差し込んで朝を実感するのに、昨夜ケージの組み立てと諸々の準備をしていたらすっかり遅い時間になってしまったこともあって体感はまだ夜から抜け出せていない。寒いし寝足りないしと体が起床を拒否していたが、重い瞼をぎゅっと瞑ってからなんとか目をこじ開けた。
「
――
るかわ。起きて」
頭上ゼロセンチにある頬をぺちぺち叩いて隣で爆睡している流川を起こすも、んん、と眉が潜められただけでまた規則正しい寝息が届く。
「オレ、先に朝飯の用意してるな」
だから早く起きろ。
再び元の位置に戻った腕の中で硬い胸に顔を埋めて呟くと、首筋に唇が触れて「起きる」とくぐもった声が聞こえる。力強くぎゅうっと抱きしめられて、ようやく流川が体を起こした。
リビングの窓際で眠る子猫を起こさないようケージの上にブランケットをかけて、テーブルに朝食の準備をしていく。フライパンで焼いたトーストにベーコンとチーズを挟んだサンドイッチと、いつものサラダにいつものドレッシング。朝食の内容は同じようなものばかりだけれど、ぽつぽつと出てくる取り留めのない話は毎日違う。そういう習慣や日常が一緒に生きていることの喜びでもあり、ひとつの家族の形を作り上げていくこの時間が好きだったりする。
「
――
名前、結局決まらなかったな」
「メスと聞くとまったく思いつくもんがねえ」
「それにしてもあれだけ悩んで出てきた候補が二つだけってのもどうなんだ、オレら」
子猫の名前は、昨夜の夕食時に流川から「ナナ」と真っ先に出て、なんとなく由来を察したオレが「それはちょっと」と断ると「じゃあ候補出して」と言われたので「
……
タマ?」と思いついた名前を出し、即座に却下された。それ以降捻れども捻れども知っている猫のキャラクターの名前しか出てこず、諦めて思いついたら都度連絡するということになった。とはいえ名前がないと不便なので、決まるまでは鳴き声から拝借して〝ミャー〟と呼ぶことにした。
食べ終わって尚うとうとしている流川を監視しつつ洗面所で二人並んで歯を磨き、交代で口をゆすいで、冷たい水で顔を洗って眠気を覚ます。流川が着替えている間にあちこちに跳ねた髪を水で濡らし、ドライヤーをあててブラシを通したら完成。今日はオフだから最低限の身だしなみを整えるだけでいい。着替えは
――
とりあえず下だけ履き替えればいいか。外の寒さに備えてスウェットの上からダウンジャケットを羽織り、ケージの前でお目覚めのミャーと戯れていた流川に声をかける。
「準備できた?」
「うん」
「ん、荷物手伝う」
目一杯背伸びして見上げてくる首元をそっと撫でてごめんな、ちょっと待っててな、と伝え、名残惜しそうにひと撫でして立ち上がった流川とそっと家のドアを閉めた。
世界一の都市なんて言われるニューヨークも、夜明け前の郊外は静けさに包まれている。人も車も動いていないアパートメント前の道を見下ろしながらエレベーターで地下駐車場まで降り、いつもより多めの荷物を車に運び終えて時間を確認する。
ここを出るまで、あと十分。
ほんの少しの時間だけれど、車の中で助手席と運転席の距離をなくすように真ん中に身を寄せ合う。二人分の白い息がコントロールパネルの前で重なっては消え、また重なる。ひとつのスマートフォンを二人で覗き込み、地図アプリで渋滞を確認して、今日の天気を確認して、昨日行われていたチームの試合結果を見ていたら十分はあっという間に過ぎてしまった。
昨日と同じ流川の手がエンジンキーを回し、昨日と同じエンジン音が地下駐車場に響く。ゆっくり発進して駐車場を出ると、東の空から強いオレンジ色が昇ってきて空に夜と朝のグラデーションができていた。マジックアワーってやつだ。湘南の海でも何回か見たけれど、高層ビル越しに見るのもまた違った美しさがある。流川と初めて見たのは、寝室の窓越しだった。
「うおー綺麗。いい日になりそう」
「ねみぃ
……
」
「時間まだ余裕あるけど、運転気を付けろよ」
「リョータさんも。なんかあったら変な気使わなくていいからすぐ連絡して」
「わかったわかった。ちゃんと連絡する」
「
……
じゃあ、行ってきます」
「ん。試合、見てるから」
数十メートルの僅かな距離のために付けたシートベルトを外し、車を降りて助手席のドアを閉める。すぐに内側の鍵をかけないのは、流川の優しさだ。運転席からこちらを見た流川が左手を上げて、車は昨日の帰りと同じ道を遠ざかっていく。もう鍵かけていいよ、と心の中で伝えて、角を曲がり見えなくなるまで見送った。
エンジンの音が聞こえなくなると辺りは元の静けさに包まれた。あと三十分も経てば通勤の人や早朝ランニングする人がちらほらと出てくる時間だれけど、今はまだ他に人は見当たらない。冷たい風が街路樹の葉を一枚落とし、その微かな音ですら一瞬で止んだ。
――
ハグくらいなら、できただろうか。
ふと過ぎった考えをすぐに打ち消して家の中へ戻るべく踵を返した。
「お待たせーごめんな、腹減ったか」
家のドアをそっと開けてきちんと鍵を閉めてから暖房で温められた室温にほっと息をつきリビングに向かうと、ケージの柵にしがみついて背伸びしていたミャーがオレに気付いて柵と柵の間から手を伸ばす。
食器棚からちょうど良さそうな器をふたつ取り出し、ひとつに水を入れ、もうひとつにもらってきたウェットフードを入れてケージを開けてやるとまっすぐに器の前まで来て行儀よく足を揃えて食べ始めた。が、食べる度に周りにフードが飛び散って口周りの毛がすぐにびちゃびちゃになってしまう。
「あーあー、目にまで入りそう」
急いで干してあったタオルを濡らし、口周りを拭いてやろうとすると飯を取り上げられたと思ったのかバタバタと手足を動かし必死に抵抗してくる。
なんか既視感があるな
――
あ、小さい頃のアンナだ。口周りにべったりとスパゲッティのソースをつけたアンナに、母ちゃんが同じことをしていた気がする。それでもフォークを握って皿に手を伸ばそうとする姿をソーちゃんが笑っていたっけ
……
。
「違うそうじゃない、ご飯はちゃんとあげるからちょっと待て」
まるであの時の母ちゃんの気持ちを代弁している気分だ。子育てってこんな感じなのだろうか。
このちっこい体にどのくらい力を入れていいのか分からず恐る恐るなんとか口周りを綺麗にしてやってから、そういえばジョシュに見せてもらった動画に三匹固まって食べてるのがあったなと思い出した。横一列に並んでお揃いのフードボウルの中に顔を突っ込んで
――
……
いや待てよ、フードボウル?
「あー分かったかも。ごめん、配慮が足りなかったな。今日ちゃんとしたやつ買うから、ちょっとだけ我慢してな」
動画で見た高さのあるフードボウルを真似て器の下にボックスティッシュを入れてみる。先程よりいくらか食べやすそうに綺麗に平らげ、作戦が功を奏したのか今度は床も口周りもそこまで汚すことはなかった。多少はご愛嬌だ。傾斜があった方がもっと食べやすいか?あ、でも水用は傾斜がない方がいいのか。
即日配達を謳う大手オンラインショップのサイトをスクロールしながら良さそうなものを探してみる。陶器、ステンレス、水用とセットになっているもの、水用のボトル付き、木製スタンド付き、名入れができるもの
――
。
「名前なー
……
早く決めてやらねーとクリスマスになっちまう」
ひとまず今日はフードボウルと首輪を急ぎで買い出しだ。いきなり長時間の留守番は心配だから、保存した写真と同じような感じのものを比べてみて選べばいいか。
一時間程度で家に戻れるように、徒歩圏内にあるペットグッズを取り扱う雑貨屋の中を思い浮かべて最短ルートの構築をしながらミャーの食いっぷりを見守った。
ジョシュの家からは食べていた餌とトイレの砂を一袋、それと遊んでいたおもちゃをいくつかもらってきたのだが、兄弟猫と遊んでいたボールは特にお気に入りらしく食べ終わってからひたすら追いかけて遊んでいた。ちょこまかと動く様子があまりに可愛らしいものだから寝そべりながら観察してみる。
ティッシュケースと同じくらいの大きさで
……
ややタレ目か?体のそれぞれの場所に濃い茶色と薄い茶色とベージュみたいな色が混在していてテディーベアに見えなくもない。食べるときの行儀がいい。有り余る元気で食後など関係なくよく遊ぶ。あ、ボールがカーテンの裏にいった。くぐる
……
いや、登り始めた。
……
こけた。転び方すら可愛い。
ニヤニヤしながらあとで流川に送ってやろうと写真を撮りだすと、カメラの音が気になるのか遊んでいたボールに飽きたのかこっちに近づいてきた。オレの周りを散歩して、アスレチックの如くよじ登っては転がり、再び顔の前に来て目と鼻の先に体がピタッとくっつく。ほわほわの毛が擽ったい。流川曰く、オレに似ているというくせっ毛。
「ふふ
……
似てるんだってよ」
指でくるくると顔の横を撫でると顔をそらし、もっとやってくださいと言われている気になる。あまりに気持ちよさそうにご満悦の表情で伸びるものだからご要望に応えるべく撫で続けているとこちらまで瞼が重くなってきた。
目を瞑って小さな体に鼻をうずめてすぅ、と匂いを吸ってみる。まだ日向ぼっこには早い時間なのになぜか干したての布団のような匂いがした。昔、体育館の外で昼寝してきた後の流川も同じような匂いがした気がする。
もうそろそろ着いたかな。渋滞がひどいともう少しかかるか。着いたら早々に仮眠しているであろう流川を想像して柔らかいくせっ毛に顔を擦りつけた。
トイレを早速成功させたミャーを大げさに褒めて一度ケージの中に戻し、器と朝食の片付けをしながらふと冷蔵庫に貼られたカレンダーを見る。オレのスケジュールの上に貼った、流川のチームの十二月の試合と場所を書き込んだカレンダー。今日の日付の下に『8:00 flight』と書かれ、そこから矢印が右にずっと続いている。
12/13
――
flight to Minnesota 8:00 AM
12/14
――
Minnesota 6:30 PM
12/17
――
Oklahoma City 7:30 PM
12/19
――
Denver 7:00 PM
12/21
――
Indiana 6:30 PM
12/22
――
Chicago 7:00 PM
12/23
――
flight to NY 9:00 AM
日付を辿っていた指を矢印の終わる二十三日で止めて字をなぞる。
二十三日、シカゴを九時に出発。
今度は辿ってきた日数を遡り、指を左側になぞっていく。一日ずつゆっくり辿っていっても十日
――
約二週間、HOMEの文字は見当たらない。
今年はクリスマスゲームには当たらなかったが、その前にこの長いロードゲームが組み込まれていた。昨夜「カップ戦が増えたせいで頭おかしいスケジュールになってる」と珍しく文句を言っていたが、そうも言いたくなるよなと思うくらいの過密日程と移動距離。とはいえNBAから公式に発表された試合日程はどう足掻いても覆りようがなく、天変地異でも起こらない限りここに帰宅するのは十日後の二十三日で、それまでミャーとふたり
……
もとい一人と一匹の日々だ。
ロードゲームは自分が現役の時にもあったし、三日四日はよくあることだからお互い慣れている。ただここまで離れるのは一緒に住み始めてから初めてのことで、それが余計に距離を感じさせた。
こんな大きな国を移動しながらバックトゥバックを入れて五試合。チームジェットやクラブハウスがいくら快適とはいえ当然疲れるし、とにかく家に帰れないというのは精神的にもきつい
――
選手も、選手の帰りを待つ家族も。このハードなスケジュールの中で流川が怪我なく試合に出られるよう祈ると同時に、どうしても別の感情が心の奥底から迫り上げてくる。
長い、と感じてしまうのも、寂しいと感じてしまうのも、十二月の空気のせいだ。クリスマスを楽しみに待つ街中の空気に当てられているだけ。
家から空港まではかなりの距離があり、ただでさえ移動に時間がかかる上に今日は出発も早かったからマンハッタンの渋滞事情を考慮してあの時間に家を出た。何が起こるか分からないし、チームに迷惑を掛けるわけにもいかないから時間に余裕を持つに越したことはない。当然といえば当然で、社会人として普通の考えだ。なのにどこかで引き留めていたくて、離れるのが惜しくて、一緒にいる時間が少しでも増えるならと家の外まで見送った。
セキュリティーがどれだけしっかりしていても、一歩外に出たら家の中と同じ距離感ではいられない。例え早朝でも、そこに誰も見えなくても、意識していないといつか自分の不注意でこの穏やかな日々が終わりを迎えるのではないかと考えるだけで心がざわついた。だからほんの少しの時間を得た代償に、見送りはいつもより素っ気なくなった。
自分の判断が間違っているとは思わない。その判断に従ったことを後悔しているわけでもない。ただ頭の中と心が乖離していて、その空いた空間を埋めるための何かを持ち合わせていないものだから、行き場のない感情を飲み込んでは理性を言い訳に自分を奮い立たせることでやりすごす。そうすることしかできなかった。
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