柘榴つくも
2025-12-15 15:45:17
10302文字
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【SS R15】無銘の夜に、千年を注ぐ

強欲の悪魔 業右衛門のとある一夜の物語 業右衛門×幻韶朧の軽めのR15



…………

薄闇の中、空気はまだ熱を帯び、時間の余韻よいんが静かに残っていた。
韶朧シャオロンは肩で小さく息をつき、ゆるやかに業右衛門へ腕を投げる。
触れた体温だけが、静かに夜の名残なごりげていた。

……はッ。普段はあんなにヘラヘラしてるくせにさ。
やる時は、ちゃんと“男”をやれるじゃないか」

声には疲労と満足、
そしてほんの少しの意地悪いじわるが混じっていた。
業右衛門は枕に片腕をいたまま、いつもの調子で軽く笑う。

「アンタが望んだだけですぜ。
商売人ってェのは、客の求めるしな適量てきりょうきっちり渡すもんで」

その返事があまりに淡白たんぱくで、
韶朧シャオロンは横目でにらむように彼を見た。

(本当に……この男は。
肝心かんじんなところですずしい顔しやがって)

彼は最中さなかですら、たかぶりの気配をまといながら、
決して最後の一線を踏み越えなかった。

韶朧シャオロンはひとつ深く息をつき、
天井てんじょうを見上げたままぽつりとらした。

「ただ……ひとつだけ、不満があるね」

業右衛門は気だるげに視線を向ける。

「へぇ、なんですかい。言ってみな」
アンタにゃ“その終わり”が無い」

冗談じょうだんめいているのに、どこかねたようなひびきが混じる。

彼に抱かれた夜。確かに満たされた。
満たされたはずなのに――どこか物足りなさが残る。

それは相手への不満ではなく、“自分だけが落ちた”という何とも言えないむなしさに近かった。

業右衛門はゆっくりとまばたきし、少しだけ困ったように口角こうかくを上げる。

「悪ィねぇ……あっしはどうも、
食っても飲んでも“満腹”にならねェ性分しょうぶんでしてね」

少しだけ肩をすくめ、へらりと笑う。

強欲の悪魔である彼は、繁殖はんしょくを必要としない存在だ。
——それは、彼女も最初から分かっていることだった。

人の身体をしてはいても、それはあくまで外形がいけいの話で、
内側から生じる循環じゅんかんや生成の仕組みまではそなえていない。

生物的な意味で“たっする”という終着点しゅうちゃくてんを、
彼は本来、持ち合わせていないのだから。

けることも、完結することもない——
そういう存在なのだ。

……なんならその感覚、
一度くらいは味わってみてぇとも思うんですがねぇ」

淡々たんたんと言うその声は、どこかもうし訳なさと、誤魔化ごまかさないひびきをふくんでいた。

それが余計よけいに、胸の奥をかすめていく。
——満たされることも、区切くぎりを得ることもない。
ただ抱え込んだまま、はなさない。

そんなり方が、
自分の呪符じゅふと、ひどくよく似ている気がして。

……ズルい男だよ。
満たしてくれるくせに、最後だけは、置いていきやがって)

しかし同時に――
彼女はその距離感きょりかんが嫌いではなかった。
完全に自分におぼれない相手。
だが望めば確実におうじてくれる相手。
ただし、決して“依存いぞん”はしてこない。

それが、千年生きた不死の女にとっては意外にも安心できる距離だった。

――だからこそ、その夜は少しくやしくて、少し嬉しい。
そんな複雑ふくざつな感情を抱えたまま、
韶朧シャオロンは業右衛門の胸元へとひたいを寄せる。
業右衛門は文句も言わず、ただ静かに受け止めていた。