柘榴つくも
2025-12-15 15:45:17
10302文字
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【SS R15】無銘の夜に、千年を注ぐ

強欲の悪魔 業右衛門のとある一夜の物語 業右衛門×幻韶朧の軽めのR15



三本の酒の味を見終え、業右衛門が最後のグラスを置いたそのとき――
コト、と椅子いすがわずかにきしむ。
気づけば韶朧シャオロンが、するりと彼の隣へ腰を移していた。
距離は、息が触れそうなほど近い。

「酔いが回りやしたか、姫さん」

業右衛門は軽口かるくちで受ける。
だがその声音こわいろには、わずかな探りも含まれていた。
韶朧シャオロンは、目を細めたまま言い返す。

「わらわが酒に強いのは、アンタが一番よく知ってるだろうに。」

言葉より、体温の方が雄弁ゆうべんだった。
肩、腕、腰――寄りかかる重みが、少しずつ増えていく。
韶朧シャオロンは指先を軽くひらひらと動かした。

その合図だけで、手下たちはたがいに目をくばせ、
すぐに意味をさっしてスルスルと静かに退室していく。
扉が音もなく閉まると、部屋の空気はぐっと静まりかえった。

彼女の指先が業右衛門のそでをつまむ。

……なるほど。今日は、そういう気分ですかィ」

悪魔は苦笑くしょうしながらその意味を受け取る。
こばむ理由も、あおる必要もない。
強引さでも甘えでもない、
“そういう夜もある”と告げるかのような曖昧あいまいな温度。

「客の要望ようぼうにはこたえるただそれだけが、あっしの流儀りゅうぎでさァ」

“ここから先は余計よけいな目はいらない”

そう言うように韶朧シャオロンの手が彼を押し倒すようにして、組みく体勢へと移った。
力強いわけではない。
けれど、彼女がこの流れを選んだという意思いしは確かだった。

業右衛門は抵抗ひとつ見せず、
淡々たんたんと、しかしどこか楽しげに目を細める。

彼の腰元こしもとに触れた指先が、結び目をさぐる。
ほどける音は小さく、確かだった。

……まぁ、売り物にならねぇ男ですが。それでもよけりゃ、好きにしなせぇ」

そうして夜は、商談でも欲望でもない、
“ただ流れにしたがっただけの時間”へとそっと沈んでいくのだった。




………はぁ……

どれほど愛撫あいぶを重ねても、ころもが乱れ、肌に触れられても、
目の前の狐は、表情ひとつ動かさない。
ただ、石像せきぞうのように静観せいかんしている。

その不動ふどうさは、不死の妖怪である韶朧シャオロンのほうが思わず深いため息をつくほどだった。

……あんたってやつは本当に反応が薄いねぇ。身体は正直なくせにさ」

つやっぽい声でわざと挑発するように言う。

だが――

身体からだに出る反応は、男としては当然のはたらきでさァ。
──でも、それと“気持ち”は別物べつもので」

飄々ひょうひょうとしていて、どこか線引きがある。
本能に流される気配も、浮ついた欲もない。
それが余計に面倒めんどうくさい。

だが、完全に無反応というわけでもない。
指先ゆびさきで胸元をゆっくりとなぞれば
その動きに合わせるように、彼の息があさくなる。

彼には“かい”という概念がいねんが存在する。
ただそれは、外から与えられた刺激を受け取るだけのもので、
彼自身の内側から生まれるものではなかった──

そこがまた彼女を困らせるのだ。
だから女王のようにまたがったまま、彼女は子供のように我儘わがままを吐いた。

「たまには“積極的せっきょくてき”になってみせても、バチは当たらないんじゃないかい?」

それは命令でも挑発ちょうはつでもなく、珍しく“素直な願い”に近い何かだった。

業右衛門は初めて、ゆっくりと視線を彼女に向ける。
その目はいつものように薄笑うすわらいでも、茶化ちゃかしでもない。
ただ静かに、“新たな注文を受けた商人”のように真面目まじめだった。

……そう望むんですかい?」
「この程度ていどで満足するとも思ってないだろ?」

迷いなく返す言葉─。
彼女の指先が、きつねあごをかすめ、閉じたくちびるを優しくでた。

その瞬間、業右衛門の表情がほんのわずかに変わった。
笑ったのか、興味を示したのか、判別はんべつできないくらいのかすかな変化。

……そういう“注文”なら、そりゃ応えにゃ商人がすたりまさァ」

彼はゆっくりと上体じょうたいを起こし、韶朧シャオロンの腰にそっと手をえた。
その動きは強引でも荒々あらあらしくもない。
けれど確かに“動く側”の力。
業右衛門はささやくように、いつになく低い声で言った。

……なら――今夜は少しばかり、“積極的せっきょくてきに”いかせてもらいやしょう」

言い終わるより早く、
腰に置かれていた手が、ころもすきへと滑り込む。

逃がさない位置を確かめるように、
指がしっかりと韶朧シャオロンの腰をとらえた。

それは誘いではなく、
“こちらが引き受ける”という合図だった。

韶朧シャオロンの呼吸がかすかにれる。

「ふふそう来なくちゃねぇ」

喉の奥で転がすような笑みとともに、韶朧シャオロンはそうつぶやく。
次の瞬間、彼女は業右衛門の首に両腕を回し、ためらいなく体重をあずけた。

引き寄せる、というより――引き込む。
後ろへ倒れ込むその動きにみちびかれるまま、
業右衛門の身体がおおかぶさる形になる。

衣擦ぬのこすれの音が小さくり、距離は一気に失われた。
視線がからみ、呼吸が重なる。

韶朧シャオロンの指先は、衣の下へと回り込み、
熱を帯びた彼の背中の線を、確かめるようにゆっくりなぞっていく。
その口元には、まだこちらを試す側でいる者の静かな余裕がにじんでいた。

それでも――
今この瞬間だけは、確かに。

主導権しゅどうけんという天秤てんびんが、その夜だけ静かにかたむいた。