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水井白羽
2025-11-15 22:38:39
46693文字
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竜人カルロの苦心
2025/03/05から2025/07/21まで深夜に投げていた文章の全文
見切り発車すぎて収拾がつかなくなったので仕切り直したいところ。
1
2
3
4
5
6
トラックの中、助手席には誰もいない。尼僧と学者はこのトラックがなんなのかよく分かってなかったようで、咄嗟に入ったのは荷台。だがこれにどうこう言う余裕はない、カルロは超久々に車のエンジンをかけ、アクセルを踏んだ。
ただ2人には思わぬ遭遇があった。荷台の中に、同じくあの敵国の兵士らに捕まったであろう人々が仕舞い込まれていたのだ。これには学者と尼僧は驚き、互いの顔を見合わせた。
「同じく捕まった、ってことですかね
……
」
「ひっどい奴ら、わたし達だけじゃないんだ
……
」
彼らはラテブラの地から少し離れた街に住んでいた住民で、ある時突然変な格好した『でかいトカゲ』を率いた奴らに襲われ、捕まってしまったのだと言う。
「でかいトカゲ?」
学者は首を傾げる。でかいトカゲなんて想像したくないくらいに気持ち悪い。なんで奴らはわざわざそんなものを操ってるんだ?と一瞬だけ疑問を抱いた。
一方で、住民達は不安を口々に漏らす。どこへ連れてかれるか分からないのだ、無理もない。そういえば、学者と尼僧もカルロがどこへ行く気なのか分からない。
「どこへ行く気なんだろ、カルロさん
……
?」
カルロは一心不乱になってハンドルを握り、だだっ広い草原でトラックを走らせる。目的地なんて多分ない。とにかく遠く、遠くへ行かなければ。
「そもそも政府の奴らは一体全体どこへ行ってしまったんだ?」
カルロの独り言。学者が言っていた執行者の襲撃で散り散りになったらしいが、ならばどこかで合流したいとまで思っていた。そして政府の幹部らに今の状況を問いただしてやろうと。
そうしてこうして朝日が昇り、照らされたのは大量の死体と街だった廃墟。
「何、これ
……
?」
カルロはそれ以上の言葉が出なかった。特に衝撃だったのは、死体の中には大型のトカゲ
……
もとい小型の竜のものもあった。
「嘘でしょ
……
なんで、なんで竜まで
……
?!」
何が起きているんだ──カルロは一旦休憩がてら車を止め、荷台のシャッターを上げた。そこで目にしたのは眠りこける人々。カルロは少し驚きはしたが、ぶっ通しで運転した疲れからか、ふと力が抜けて姿勢がぐらり、そのまま眠ってしまった。
誰かにゆすられ目が覚めると青空。カルロはそこそこまとまった時間寝ていたらしい。
「あ。寝ていたんだ
……
」
起こしたのは学者だ。
「ようやく起きましたね、カルロ殿
……
もう真昼間ですよ」
そんな長い間寝てたんだ、とカルロはゆっくり起き上がる。彼の視界の先にいた、トラックの荷台の中に入っていた人々は、不安がっている。
「他にも捕まっていた人いたんだ
……
」
すると、トラックの荷台の中にいた1人が竜の死体を見て悲鳴を上げてしまった。
「こ、ここもでかいトカゲにやられたのか
……
ッ!?」
「『でかいトカゲ』
……
?!そいつは竜だ。僕らの世界の生体兵器でこの世界にはいなかったはず
……
」
カルロは悲鳴を上げた男が指差す竜の死体に近付く。竜の中では小型の、人が乗って駆けるタイプだ。──よくよく見るとその死体は焼けこげて、下半身が無い。周りを見ると、極めて高温で焼かれた跡だらけだ。
「凄い高温で焼かれたんだ
……
──まさか?!」
カルロは今度はヒト型の死体にも目にやった。原住民に紛れ、あの敵国の兵士や──カルロの国兵士の骸で山積みになっている。嫌な予感がカルロの脳裏に過ぎる。というか、周りの建物の焼け落ち振りから最早誰の仕業か特定出来てしまった。
「なんか心当たりありそうだね、カルロさん」
「ああ!有り余る程だよ。随分派手にやりやがったよフラムベルトの野郎
……
」
次にカルロに浮かんだ可能性が2つあった。1つは敵国が略奪やったところ、カルロの国がそれの制裁で原住民を巻き込む戦闘騒ぎになった可能性。
そしてもう1つ、カルロの国も敵国も略奪して奪い合いになって原住民が巻き込まれた可能性。
「
……
いや、後者の可能性が高いな」
カルロは思わず独り言が声として出たのだった。
「あの拠点で君らのテントを蹂躙した奴らじゃないですか」
一方、学者はカルロの国の兵士を指差し、足蹴りする。尼僧は不快そうに眉を顰めた。
カルロはもう少し廃墟をウロウロする。すると、焼け落ちた物陰で何か動いたのが見えた。何だろうかとそこに向かう。
「君、ひょっとして生き残り?」
そこにいたのはボロボロの鎧装甲の
……
カルロが歴史書で読んだ「騎士」そのものの格好の人物。鎧は熱で溶け、よくまあ生きてるな、と思える程であった。彼は息絶え絶えの様子である。
「ああ
……
女神様の思し召しか
……
」
騎士は引き絞るような声を出し、カルロを仰ぐ。カルロは「何言ってんだコイツ」という感情がフッと思わず湧いてしまったが、それは酷いとすぐに掻き消す。騎士は続ける。
「女神様、どうか、どうか
……
せめて私めを仲間の元へ
……
仲間に
……
妹に
……
伝えたい事が
……
」
どうやらこの騎士は何か情報を持ってるのかもしれない。助けたほうがいいだろうか?でもカルロには手当の心得はない。彼は少し困り果てた。
すると、荷台にいた1人が騎士が倒れてるのを認めると彼は大層驚き、思わず声を上げた。
「なんと、騎士団の騎士様?!!なんて酷いお怪我ッ!!だ、誰か医者はいないかッ?!」
カルロは騎士を二度見する。どうやら有名人かなにかだ、ますます助けた方が良いだろう。でもこんなところに医者なんているのか?
「はい、簡単な癒しの術程度ですが、最善は尽くします」
いた。
「マジかー」
カルロはこの幸運を心の中で喜んだ。
医者の尽力の甲斐あって、騎士は何とかトラックの助手席に座れるくらいまで回復した。これで道案内してもらえそうだ。騎士はトラックの様子に少し驚いてはいた。
「なんか
……
変な馬車です」
「馬車か
……
やっぱこの世界には車はないんだね」
そうしてトラックは、人々を乗せてまただだっ広い草原を走る。騎士の道案内の末、トラックのガソリンが着きかける頃には、建物の敷地内の門前へと辿り着いた。建物は壊れておらず、人気もある。よかった、とりあえず少なくとも荷台にいる原住民達は無事だ、とカルロは一旦安堵。
するとたまたま門の向こう側を散策してた、小柄な少女がカルロ達のトラックに気がつき、警戒して剣を向けた。
「ああ
……
っ!ここにいたのか」
すると騎士はまた完全には快復してない体をよろめかせながらトラックの助手席から降り、少女の元へ駆け寄る。少女は騎士の様子に青ざめる。
「お兄ちゃん、酷い怪我!!!みんなは?!」
「これでもお医者様に応急処置してもらったんだぞ
……
仲間は皆全滅だ──俺は運良くあの
……
馬鹿でかい馬車に乗ってる人達に助けてもらった
……
」
「なんだって?!団長を呼ばなきゃ!!」
カルロは一先ずトラックに降りると、少女:騎士の妹が騎士を頑張って担ぐ姿があった。騎士が鎧を着込み、体格もあるのもあって、かなり大変そうに見える。
「ああ、僕が担ぐよ。君はその団長とかいう人を呼んできて」
それからあれから、カルロ達は騎士団の拠点の中に招かれた。いかにも歴史書の写真でしか見た事なかった「大昔存在した欧羅巴という地域」の内装を、カルロは興味深く見渡す。
そして案内されたのは医務室。ベッドが並ぶそこにいたのは年季の入ったゴツい騎士が立っていた。騎士の妹曰く彼こそが騎士団長なのだという。
「あなたがを助けた旅の者なのだな、感謝するぞ」
「どうもいたしまして。
……
僕の名前はカルロ。略奪を繰り出す奴らから一心不乱に逃げた先で、彼を見つけたんだ」
すると騎士団長は「そうか
……
」と目を閉じだ。彼に聞くところによると、最近多発してる(地球人による)略奪や侵略がひどく、人々を守るべくさまざまな騎士団や自警団が駆り出されているが、戦況は悪化する一方、壊滅したところもちょいちょい聞くのだという。
「教会も手を拱いていると聞くんだ、ますます事態は悪くなるだろう
……
」
まあ、あの異世界の生体兵器に蹂躙されたらな、とカルロは心の中で思った。でもこれはいずれ言った方がいいんだろうか、という迷いもあった。
「あの街に送り込んだチームもほぼ殲滅、か
……
」
騎士団長はポツリと呟く。
暫く、あの時助けた大勢の人々は暫く騎士団の領地にいることになった。他にも住処を追われた人々がいて、彼らの保護もやっているだという。
日を改め、一方、カルロは例の騎士の元へ様子見に来た。彼のそばには医者と騎士の妹がいる。
「奇跡的、と言った感じかな」
騎士はあれから特に容態が悪くなった、と言ったことはなく、順調に回復している様子であった。
「いえいえ
……
お医者様のお陰です」
騎士はゆっくり、医者の方に視線を向けると医者は少し照れくさそうになった。
「所で
……
妹さんに伝えたいことってもう伝えたのかい?」
確かこの騎士は仲間や妹に何か伝えたかったらしい。その内容はもしかすると自分にも何か有益なことかもしれない、カルロはとりあえず話を聞き出せないか振ってみることにした。──妹のハッとした表情、どうやらまだ話してないらしい。
「お兄ちゃん?どういうこと?」
「ああ
……
俺たちを皆殺しにした奴らのことだ
……
団長には話したんだけどさ──」
カルロも騎士の妹も息を呑む。
──ある日、あの街にでかいトカゲを率いた一団が一挙に押し寄せ、街のあらゆるものを奪っていったという。金品、貴重品、金目のものだ。騎士団は住民の要請で騎士達を送り込んだ。だがそこに、奇怪な装備をした別の集団もあの街に現れ、戦闘騒ぎが余計に悪化。しかもそいつらの中にいた白い炎を操る奴が騎士達や住民ごと巻き込んで、あたり一体を焼き払ってしまったのだ。騎士はギリギリのところで丸焼きを回避したが、他の仲間は皆灰になった。
「
……
ひっどいね、お兄ちゃん」
騎士の妹は俯いたまま。
「ああ
……
奴の黒い眼差しは底知れぬ怖さがあった
……
」
一方のカルロはフラムベルトの悪辣さに額を抑え思わず言葉を漏らす。
「あいつは人をヒトとして見ないからなぁ
……
」
騎士は驚き、カルロの方へ向く。
「あの、白い炎を吐く奴について何か知っているのか?」
「まぁ、
……
『知り合い』だね。ロクな関係じゃなかったケド」
ここではとりあえず「知り合い」とした。同郷の竜人同士という間柄、間違ってはない。ここで下手なことを言えば、最悪彼らから排除されるだろうとカルロは判断したのだった。「ロクな関係じゃなかった」というのも、まぁ、フラムベルトのえげつなさに度々言い争いになったのだから、決して親しい仲ではないだろう。
「はぁ
……
」
嫌なことを思い出し、カルロはため息を1つ吐く。
「ただ今回も『奴らは食糧は奪わなかった』と聞く。助けを求めた住民からの話なんだが、奴らに襲われた者は皆そう言うんだ」
「え?なんで?食べ物もぶん取るとおもうんだけど」
騎士の兄妹はお互い首を捻る。カルロも同じく怪訝に思った。あの敵国もそうだが、特にカルロの国は食料事情がかなり悲惨なはず。あの食糧である黒くて硬い固形のキューブも材料がなくなって減る一方。もしそこに食糧あれば是非とも手に入れようとするはずだと。
「食べ物?それも『現地調達』しそうなんだけどな
……
」
とカルロはポケットに入ったままだった、あの黒いキューブを取り出した。騎士達はびっくりする。
「なんか
……
レンガを小さくしたような
……
なんだ、それ?」
「食糧だよ。この一片で一日中動けるのさ」
「
……
?」
やはり、兄妹はピンときてなくてまたお互いの顔を見合わせる。──そういえば、ボロボロになった拠点で学者と食した時も、彼が非常に不味そうな反応していたのをカルロは思い出す。この世界の人たちにとって自分たちの食糧は奇怪らしい。
すると、小間使いが部屋に入ってくる。騎士の食事を持ってきたのだと言う。カルロは世話人が運ぶもの──五目お粥だと世話人は説明した──を見て色々腑に落ちた。
最初に街へ偵察した時も、屋台の傍でこのような不思議なものを口にしたのを見かけたが、やはり、カルロの世界とこの世界の人における「食糧」の概念が滅茶苦茶違うのだろう。
「『料理』するの、大昔の人間達だけじゃなかったんだ
……
」
実際、道連れになった人たちの中に、あの廃墟から「食糧」を物色した人がいたのだが、彼が持ち寄ったのはどれも、少なくともカルロが俄かに「食べ物」とは認識できなかったものばかりだった。
「話は戻すけど、その
……
ふらんべ
……
なんちゃらとは『知り合い』なんだよな?何か他にも知ってることはないか?」
カルロへ向けられる騎士の視線。やはりそうくる。
「そうだよね、また出会して全滅、ってなったら最悪だ。そうだね、あいつは
……
ええと
……
」
どこから話そうか、あまり事細かく言ったら騎士達に怪しまれるどころか、祖国からは敵に情報売ったあんちくしょうになってしまう。とはいえ、あのフラムベルトをどうにか付き合う方法くらいは教えられるだろう。
「何と言うか
……
あいつは無駄にプライド高くてぇ、常に自分が一番でなきゃ嫌!って感じでぇ
……
自分よりできるヤツがいたら潰そうとする奴でぇ
……
適当に煽てたり『ワースゴーイ』と言えばイインジャナイカナァ」
「ああ、
……
うん?」
「嫌なヤツなのは分かったけど
……
」
兄妹の微妙な反応。多分、彼らはフラムベルトの弱点とか戦闘に関することを聞きたい。
気を取り直し、カルロはフラムベルトの力について話す事にした。
「
……
あいつは強烈な炎を操ることが出来るんだよ。炎は下手に水をかけても蒸発するだけだ、本気出したら灰すら残さないからね。多分、あの町も跡形もなく消えてた」
震え上がる兄妹。カルロは続けようとした。しかし、彼は一瞬眉間に皺を寄せた。そういえば、あいつのそれらしい弱点って何だ?あったとしてもあいつは隠し通す、そんな奴だ。
「──それでね、まぁ、その
……
結局奴の炎にやられたら一溜りもないから、奴の地雷を踏まないよう、どうしても穏便に済ませるしかないんだ」
一方
……
騎士団の敷地内の広場に学者と尼僧がいた。何か木の影でコソコソ話をしている。
「ここも女神様の信仰に篤いんですから、くれぐれもデルテナとやらは言わないでくださいよ」
すると尼僧はこう言い放った。
「わたしがどれだけあんたら女神正教徒の溜まり場に突っ込んで、ボコられたと思ってんの?」
「ダメだこりゃ」
彼女の謎の自信に満ちた様子に、学者は肩をすくめた。「そんなんだから、教会と対立するんだって」と思ったが、もはや口に出す気力もない。
「でもそう言うあんたも一応指名手配犯じゃん」
学者は口を尖らせた。彼は元々神罰の対象だったところをカルロに助けられた身、表向きは脱獄犯みたいなものだ。だからこの領地に来て騎士達に怪しまれた時は、咄嗟に双子の弟だと誤魔化したのである。
そこに2人を探していたのか、1人の小間使いがこちらへやってきた。
「ああ、ここにいたのですね。騎士様がお呼びですよ」
2人が案内された先には、自分たちとは道連れになった人々も集められていた。学者はちょっと警戒する。
「これから何が始まるんですか
……
?」
集まった皆の前で、騎士団長が現れる。
「皆の者、良くぞ集まってくれた」
彼の口から語られたのは、「聖女様による女神様の御告げ」のこと。この所、謎の軍勢やでかいトカゲによる略奪が数々報告されているが、「女神様」は「徹底的に奴らと戦え」と仰ったのだと言う。
あの「女神様」のお言葉ならば、と集まった皆は、いけいけ、やれやれ、ケダモノどもに神罰を!!と声を上げ始める。戦う気満々だ。
その周囲の様子に流石に戸惑いを隠せない学者と尼僧、そして、少し遅れてここにきたカルロ。
「何、これ
……
」
いつか見た、あの公開処刑の民衆と少し重なる光景に、カルロは嫌な予感を抱いた。
「聞いた?カルロさん。あのチキュウ人?達と戦う気らしいよ、あいつら。正直無理よ、あの兵力じゃ!人喰い共が束になって漸くトントンってとこじゃないの?」
また敷地内の木陰、一度同胞が地球人達に蹂躙された尼僧はデルテナの書を大事そうに抱え、カルロに迫る。
「人喰い
……
?!えっと
……
その、まさか、執行者達のことかい?」
尼僧はうなづく。そのまま、カルロは続ける。
「
……
あの執行者達でもきつい気がするなぁ
……
少なくとも、フラムベルトは
……
あの街焼いたあいつはマトモな方法じゃ勝てない。まぁ、上には上がいるんだけどさ」
その瞬間、学者と尼僧は絶望したかのような顔になる。あの騎士と妹に同じことを伝えたら、もっとすごい顔になってたのだろう。道連れになったよしみで、カルロは話す。
「そうだよね、そんな顔したくなるよね。オーギュストって言うんだけどさ
……
あいつは火を出すどころか、凡ゆる天変地異を自在に起こすんだ。大雨降らして一帯を水没させるなんてあいつには容易いことさ」
「執行者達も真っ青ですね
……
確かに勝ち目は
なさそう」
学者は眉間を押さえた。
「まぁ
……
僕らの国も大概だけど、敵国も中々凄まじいよ?あの人たちから『でかいトカゲ』なんて呼ばれてる竜なんて、あそこでくたばってたちんまい奴もいるけど、強い奴は強くて、二色星竜、氷山竜、天色竜
……
『でかいトカゲ』なんて目じゃないのも結構いるんだ
……
こうなるとヒトサイズの僕らじゃどうにもできない」
こうしていざ自分で挙げてみると、事態のどん詰まりさがありありと示された気がして、カルロは体がズンと重くなる心地だ。
「
……
なんだかカルロ殿1人だけで、地球人達の略奪?は止めるのは無理な気がします。騎士団だけでなく族長達も団結が必要かも──」
学者の考えに、尼僧は一瞬顔を顰める。が、
「と言いたい所ですが、まぁ
……
黒い噂が多い奴らも多くて多くて
……
」
カルロは気になって学者の方を向いた。
「あの教会とズブズブで、刃向かう者を神罰にかけさせる奴なんてまだ可愛い方、噂程度ではありますが
……
フィオーラ36世の領地で死体が転がっている、なんて話も聞きますからね」
なんかホラーな話が出て、カルロと尼僧は一緒になって震えた。何その物騒な噂。
「そういえば、君の本、予言というか、デルテナの導き?ではさ、この状況って何と書かれてんの?」
カルロはふと思い出し、尼僧が持つ本を指差した。前に聞いてみた時尼僧は「予言というよりかは」とは言ったが、この状況をどうにかするヒントくらいはあると信じて。
すると尼僧は手にしている本をペラペラめくり、あるページを示した。
「それっぽいページはあったけども
……
」
【女神正教 ラテブラ教会の腐敗と弾圧や、伝説の黒使い:ヘイズの最後の弟子の暗躍、地球人らが呼び寄せてしまった生体兵器:竜の侵入、目玉焼き世界の資源などを狙う地球からの勢力の侵攻未遂etc.と混沌と混乱で極まっていた。
とにかく混乱の末に世界が180°変わった時代だった。】
一瞬の微妙な空気。
「なんか他に、誰かが何をするとかさ、デルテナがなんか導くんじゃないの?」
尼僧はもう一度ページと睨めっこする。そして
「
……
『ツェントの丘に行け』くらいしか書かれてないかな。よりによってあのラテブラの地に近い場所
……
」
「それだけでもありがたい。そこに行けば何かあるかも!」
そうと決まれば、とカルロがその場を離れようとすると学者が彼の肩をがっしり掴んで止める。
「待ちなさい、『ツェントの丘』ってそれってひょっとして
……
『星見の竜』のお墓がある場所では?!あそこも聖地のハズ
……
」
これはカルロが「ツェントの丘へ行きたい」と騎士団長にも伝えた時も、同じことを言われた。
「正気か
……
?あの場所は『星見の竜』が眠りなさる地。神官達が厳重に守っているんだ、我々でさえそう簡単に立ち入ることはできない。それに」
騎士団長は一息つき
「どうしてあの聖地に行こうと考えた?」
カルロには考えがあった。もちろん、『デルテナの書にそう書かれてたから』なんて言ったら大揉めするのは分かっている。なので、
「彼(学者)が、あの地で悲鳴が聞こえたって言ったんだ。あそこに何かあったのかもしれない」
とそれっぽい嘘を言うことにした。丁度アンテルナ族の学者には遠隔地の声が聞こえる超能力を持っているらしい、なのでそれにこじつける。ただ騎士団長はまだ信じてない。
「だが、あの地に有事が起これば、その一報がこちらにも来るはずだ」
「いーや、使節を送れない程えらいことになってる!だからきっと情報伝達が出来てないんだ!」
あともう一息欲しい、そう考えカルロは付け加えた。するとそれはそうなのか、と騎士団長は考え込む。これはいけるのか?
「
……
分かった、あの地に何があったのか確認せねばならんな」
案外大丈夫だった。あの時の「御告げ」によるドタバタであんまり深く考えてられないのだろう、カルロは内心で胸を撫で下ろす。
そうと決まれば、出発までの準備をするのが道理。とりあえず、カルロ達はあの時助けた騎士と共に「ツェントの丘」へ向かうことになった。
そういえば、とカルロは学者に聞く。
「ツェントの丘に、『星見の竜』がいるって聞いたけども
……
あれって何?この世界にも『竜』がいたんだ?」
「ああそうか、カルロ殿は知らないんでしたっけ?この世界の創世神話に登場する偉大なお方です」
星見の竜、それは女神:リディーナがこの世界を創りなさる際に現れた存在。星々に名をつけ、地を耕し、この世界の"ほぼ"全ての種族の祖となった。しかし「鉄の悪魔」との戦いで相打ちになり、その骸は「ツェントの丘」に埋められた。
「はー
……
そんな凄まじい存在がいたんだね。まーそりゃ女神正教の奴らなら厳重に守りたくなるわな。『竜』とは言うけど、僕らの世界のそれとは違う
……
んかな」
カルロは納得し、腕組みする。それなら、デルテナとやらもこの世界の創世に関わったらしい「星見の竜」がある場所へ行け、と言いそうかも。違う宗教絡みのそれだけどいいのか、まぁいいのか?
「でも意外。女神正教の伝説絡みの場所を君の本にも書かれてんだ?」
「星見の竜はデルテナ様の名付け親で有らせられるもの、全くの無縁ではないよ」
学者は何か心当たりがあるのか「あー」と溢すが、今のカルロには色々一杯一杯だったのでスルーすることにした。
そうこうしてやってきた出発の日。カルロは騎士と共に例の「ツェントの丘」なる場所へ向かうことになった。学者と尼僧も一緒だ。道連れ。脱獄犯とデルテナ教徒が、「女神サマの御告げ」でやる気本気ビンビン弾けつつある騎士団の敷地にずっといるのもまあまあリスクがある。
「ここから北東をずっと進むことになるが、そこそこ長旅だ。ざっと2日は掛かるだろう」
あれから完全に回復した騎士は、北東の方へ指を刺す。その先には
「構わないよ、僕は行軍に慣れてる」
カルロは後ろを振り向き、学者と尼僧の反応を見る。ちょっとゲンナリしている様子だ。すると騎士は笑って
「なーに、歩きっぱなしじゃないぞ。流石に馬車で行くさ」
一行は馬車に乗り、中継地としてある街に寄ることになった。流石に馬を走りっぱなしにするのは良くない、情報収集も兼ねてだ、と騎士は言う。
しかし、その先でカルロ達が休まることはなかった。
馬車は例の街「タミンの町」にたどり着く。そこには屋台や店が並び、郊外の街といった感じの場所。そこには騎士団に協力的な宿屋があって、馬を止める場所はあった。
騎士は宿屋の主人に何かおかしなことはなかったのか、と尋ねている。ああ、こんな所で嘘がバレてしまう、カルロは万事休すかと冷や汗ダラダラ、心臓バクバクだ。
だが、
「丁度来てくれて助かります、騎士様
……
!奴らが、garéternがっ!この街を乗っ取ってるんです!」
「は?」「は?!」
騎士とカルロは思わず声を揃えた。
「が、がえ
……
?いや『異邦者』か!」
異邦者、つまり地球人がこの街を占領しているということになる。宿屋の主人は続ける。
「1週間前のこと
……
『破座』と名乗る異邦者がやってきて、その子分たちに略奪を指揮してるのです。お陰で人通りが少なく、この街から出ようと考える人もチラホラいます」
「それはひどい!」
騎士は義憤に駆られる。その横で恐る恐る尼僧が質問を投げかけた。
「その
……
例の奴はどんな奴ってわけ?」
「あいつはとてつもなく鋭い爪を生やすのです。それで引っかかれたら建物は容易く壊れてしまいます、瓦礫です、瓦礫の山になってしまうのです。あいつには向かったら、家をぶち壊されるから、誰も反抗できないのです」
騎士はすぐさま例の竜人を倒そうと息巻くが、カルロはそれと咄嗟に止める。彼には心当たりがあった。多分、剛爪竜の因子を持つ竜人だ。破座とかいう例の竜人はそのげっぱなのだろう。
「そいつなら、まだ何とかできるかもしれない」
騎士も学者も尼僧も宿屋の主人も、一斉にカルロの顔に視線を向けた。
「なんとかって何?」
「まあ聞いてって」
それから、カルロと騎士はこっそり偵察に向かうことになった。例の竜人:破座とその子分が屯ろするアジトの近くだ。そこあったいい感じの茂みで様子見する。子分たちがあれこれ、金品、資材などを持ち運んでいるのが良く見える。その入り口の近くに、小型の輸送トラックも認められた。
「あれはあなたが俺を乗せてくれた馬車?みたいだ」
騎士がそのトラックを指差す。はて、とカルロは怪訝に思う。その見た目から、あの敵国のものなのだろうと彼はすぐに分かった。これでここまでひとっ走りしてきたのならば、そこそこ遠くから来た可能性もある。すると、もう一台トラックが来て止まり、そこから子分たちが荷台のあれこれを下ろし始める。武器とか物資とかだ。騎士は首を傾げた。
「どこから来たんだ?あれも街の人から奪ったものか?」
「いや
……
どうだろ。考えたくなかったけど、どこか本拠地から運び込まれたものかもしれないな
……
だって、マシンガンの類なんてこんな街にはないだろう?」
騎士は驚きのあまり目を見開いた。ましんがんがなんなのかはともかく、奴らの大元がいるらしいと気付き、途方に暮れる。
すると、例の竜人がアジトから出てきた。人型とは不釣り合いな程に大きく鋭い爪、竜の爪を持つ剛爪竜の竜人。地球での大戦争の初期に登場した一種らしいく、最初は一軍を担ってたのだという。しかし品種改良という名のパワーインフレの末に今は一戦闘員、雑兵扱いまでに堕ちていた。その対処法はカルロは心得ている。何度も相手したこともあった。
「とはいえ、あなたの見立てではあいつはどうにかできるんだろ?
カルロは騎士の問いにこう答える。
「あの種は爪さえなきゃただのゴツい人間なんだ。使い捨ての雑兵、頑丈さも平均的な竜人より遥かにゴミ。爪さえ粉々にして仕舞えばいい。それより問題は子分の銃火器の類なんだよなぁ
……
」
どんなに鍛えた人でも、銃撃の雨に撃たれりゃ一溜りもない。そっちの方がカルロ的には面倒であった。
「あれは
……
どんなに鍛えた軍人でも、それ相応の装備がなきゃ蜂の巣さ。僕の仲間の仲間がそれにやられて地の海にされたんだ」
騎士の身震い。どうやらカルロのいう『銃火器』があの時見た、異邦者たちが持つ道具による攻撃だと合点がいったらしい。
「あの時も、奴らの『術』を目の当たりしたが
……
あな、恐ろしや。まともに剣を交えてないのに、街の人や仲間の何人かはそれで倒れてしまった
……
」
「『術』、ねぇ
……
」
この世界の人からすれば、銃撃は激しい魔法か何かに見えたのだろうか。カルロは思わず宙を仰いだ。
いっぺんカルロと騎士は宿屋に戻り、作戦を練ることにした。
「あの破座とかいう奴の爪は砕いて仕舞えばいい。砕いたところでタコ殴り。それより問題は子分たちの武器とその攻撃かなぁ。君らは『術』とはいうけど実際は火薬と
……
」
ピンときてない仲間。カルロは肩をすくめ、言い直す。
「まぁ、ぼk
……
彼らなりの『術』。あれを一斉にやられたらどうしようもない。
「『術』、ねぇ
……
」
尼僧も腕を組んで考え込む。カルロはそのまま続ける。
「でもあの
……
──銃という黒くてゴツい奴さえなきゃ、奴らは例の術が使えないんだ。奴らから銃を奪ってしまってから、破座をボコろう」
「そうなると、どうやって奴らの術を封じるのさ?」
「こうすりゃあいいのさ」
カルロは尼僧の問いに答えるよう、帰る道中でしばき倒した手下の戦闘服を身に纏った。幸い、サイズはちょうど良い。
1
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