も茶
2025-11-09 21:17:48
13067文字
Public 父水
 

21gの変様

水木が過去にタイムリープし、ゲゲ郎の代わりに依代になるメリバをハピエンにした話
父←水からの父→水、夫婦と父水が同軸

※死ネタ
※水木の異形化
※捏造の閻魔大王と童歌のようなものあり
※拙い挿絵あり

 
「お主が依代になるだと!?」
「ああ」
「人間のお主にそんな事が出来る訳がなかろう!死んでしまう!」

 妻を腕に抱えながらゲゲ郎が叫ぶように言った。この世を怨み、滅ぼさんとする怨念を人間の水木が引き受けると言うのだからそう言ってしまっても仕方がないだろう。しかし、水木はニカッと笑って見せた。

「だいじょーぶだって!こんだけ血を吐いたってピンピンしてんだ。他の人間より頑丈なんだよ」
「しかし……
「お前は奥さんと子供を守ってやれ。こんな所からおさらばしてお前の夢、叶えてくれよ」
「水木……

 ゲゲ郎の顔が泣きそうになるがこんな所で泣く訳にはいかないとグッと堪え真剣な面持ちに戻る。
 水木は知っていた。自身が幽霊族の血を浴びて普通の人間よりも長生きで頑丈な事を。
 何故なら、水木の精神は未来から来たからだった。病気もせず天寿を全うする時、一つの後悔として夫婦を助けてやれなかった事を考えた。
 目玉おやじと共に鬼太郎を育て上げる中でいつしか目玉おやじに恋慕を抱いていた。人間ではない者に恋焦がれるなんて自分で笑ってしまったが、今まで恋愛をして来なかったのも頷けた。
 けれどそれを伝える気は無かった。今でも妻を愛し、妻との思い出話を嬉しそうにする彼に墓場まで持って行くと決めて隠し続けた。

 そうして成長した鬼太郎の独り立ちと共に目玉おやじが去る事になり、その折に「また会おう」と言葉を交わした。
 その瞬間、水木は全てを思い出した。なんという事をしてしまったんだと後悔の念を抱いたが、門出を祝うその場で吐露する訳にも行かず、なんとか営業マンとしての威厳で繕い二人と別れた。
 それから何十年も経ってこの世を去る時、今一度、あの時に戻れたらと願った。そしてそれは何故か叶えられたのだ。最初はなんの夢かと思ったが夢でもなんでもあの夫婦を助けられるならと動いた。
 勿論、助けられるならと沙代や時弥を助けようとしたがそれは叶わなかった。本当に助けられるのか解らない博打のような状況ながらも水木は奮闘し、今に至る。このチャンスを逃す訳にはいかないと気丈に振る舞う事を心に強く誓ったのだ。

「ならばせめてこのちゃんちゃんこを」

 ゲゲ郎がちゃんちゃこへと視線を向ける。水木は呆れたようにへらりと笑った。

「おいおい、自分の御先祖様を他人に渡すな。奥さんに着せとけ」
「水木……!」

 訴えかけるように水木の名を呼んだが気持ちが変わる事はなく水木はゆるりとこうべを横に振った。頑固な男にこれでは埒が明かないとゲゲ郎は一つ息を吐いた。

……必ず、妻を安全な場所へ運んだら戻って来る。それまでは頼む。生きて帰るのじゃ」
「解った解った。早く行け」

 後ろ髪を引かれながらもゲゲ郎が背を向けて走り出す。それを穏やかな顔で水木は見送った。

「さて……

 奥へと向かった水木は怨念が封印された場所の前に立つ。髑髏しゃれこうべがいくつも積まれ、その中の一つの眼窩に封具が突き刺さっている。封具の下からは嘆きが聞こえ、初めて見るそれに水木は固唾を飲んだ。そして緊張した面持ちで水木は一つ息を吐いてそれを掴んだ。

「かかって来い!今度は俺が依代だ!!」

 グッと力を込めそれを引き抜いた。嘆声を上げながら穴の底から飛び出した怨念は水木に襲い掛かった。


「ははっアイツこんなもん引き受けてたのかよ」


 泣きそうな顔で笑う。身に余る激痛と怨念の重みに踏ん張りが効かず膝を付く。それでも最後まで諦める訳にはいかないと、俺が引き受けてやるんだと、水木は耐えた。

 こんな思いをしてもアイツは約束を果たそうと帰って来てくれた。だというのに自分はあの時、恐ろしくて逃げてしまったのかと思うと過去の自分を殴りたくなった。けれどこれでアイツは五体満足で家族と居られる。それだけで俺の心は満たされる。
 どろりと水木の身体が溶け始める。やはり幽霊族の血を浴びただけの身体では持たなかったか、と水木は微笑んで目を閉じた。





◇◇◇





「水木!!」

 妻を安全な場所まで運び全速力でゲゲ郎は窖へと戻った。しん、と静まり返った窖の奥へと向かえば怨念が封じられていた穴の傍に水木が着ていたスーツだけが残っていた。

「ああ……そんな……

 水木の身体は怨念に耐えきれず骨も残さず溶け、スーツが残る地面には染みが出来ていた。しかし怨念は連れて逝ったようで辺りには残滓すら残っていなかった。
 ゲゲ郎はフラフラと覚束無い足取りでスーツの傍に行けば膝を付いた。

「友よ……約束したではないか」

 ぼろぼろと自然と涙が溢れた。いつだって諦観や静観をして来た自分がこれ程までに心を揺さぶられこんなにも失った事に涙するとは思いもしなかった。
 唯一無二の人間の友を失ったゲゲ郎はそのスーツを掬い抱きしめた。
 相棒だからその言葉を信じたのだ。
 強い男だから信じたのだ。
 けれどやはり大切な友は人間だったのだ。

「水木ぃ……

 もう居ない友の名をゲゲ郎は何度も呼んで泣いた。

 
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