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Nagisa_burn
2025-11-03 12:57:11
6896文字
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最果てまで
決戦〜高校卒業後、周囲の人と関わるのが怖くなった黒崎くんがユーハバッハの残滓を見つけて拾って育てる話です。ユハ一、メゾンド×一護がベースです。(未完)
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「俺の体、好きにしていいからな。ちゃんとメシ食って、あと風呂は入れよ。じゃあな、コン」
最後の言葉がそれだった。言い返す間もなく、一護は笑って消えた。どろっとした影が床一面を覆って、その中に沈むようにして。
一護の様子がおかしくなり始めたのは、ユーハバッハという強敵を倒し、世界なんかを救ってみせて、平凡な日常を過ごすようになってからだった。傍目には普通に見えるのだが、ふとした瞬間に顔から表情が消えるようになった。黙々と受験勉強に勤しみながら、ぼんやりと、ペンを片手にどこか遠くを見つめるようになった。
コンは何も知らなかった。何が起きたのかも、どうなったのかも。ただ、霊王宮から落ちた一護を庇うことになった時から、いったい何があればこんなふうになるんだとずっと疑問に思っていた。
おかしいのは周囲もだ。コンでさえ気付くのに、誰も一護に気を遣う様子がない。もしかしたら気を遣いすぎて触れないようそっとしておいたのかもしれないが、結果的には悪手でしかなかっただろう。そうして一護はずっとなんとなくひとりのまま、友人たちとともに平和に高校を卒業した。
卒業式を終えた一護は、一度自宅に戻ってきた。卒業祝いと称したカラオケパーティーに誘われており、その準備として着替えるためだ。コンがその予定を知っていたのはカレンダーにきっちり書かれていたからで、それ以上のことは知らない。
「
……
一護? 行くんじゃねえの? 遅れるぞ」
カーディガンのボタンに手をかけたまま動かない一護に、コンはそう声をかけた。はっとしたように顔を上げて、ブラウンの瞳がこちらを向く。首を傾げてもう一度「一護?」と聞けば、カーディガンから離れた手のひらがこちらに伸びてきた。
「ぐえっ」
「悪いコン。静かにしててくれ」
「ッぶぁ、なんッ、なんだよなんだよ! 一護てめえまさか、俺様をまたそのへんに縛りつけるんじゃ
―――
……
」
「一緒に行こう。いいよな、斬月」
言葉の先は、コンに向けられたものではなかった。ただ、応えるようにしてふたりぶんの「ああ」という声がして、コンの意識はそこで途切れた。
「そこからは、てめえらが調べた通りだよ。クソ、知ってたんじゃねえか、知ってたくせに放置して、放置したくせに今さら慌てて来て、呆然と口なんか開けてんじゃねえよ! もっと早く動けよ、馬鹿野郎!!」
投げつけた枕を、男は避けなかった。ぼす、と間抜けな音がして、柔らかいそれが床に落ちる。下駄音を鳴らさないまま、男
―――
……
浦原は乾いた目で周囲を見渡していた。
けれどここには何もない。一護が人から逃げるために借りたウィークリーマンションは、残り三日の期限を残して綺麗さっぱりもぬけの殻だ。元々、初めから備え付けられているベッドとキッチン、それから冷蔵庫くらいしか一護は使っていなかった。テレビをつけたこともないし、音楽を流したこともない。ただ生命活動を維持するための部屋に唯一持ち込まれたのが、背筋が凍るような生き物だった。
「ユーハバッハだって言ってた。よくわかんねえ黒いドロドロしたモンを持って帰ってきて、霊圧吸わせて育て始めた。影とかいうやつを使って移動するようになった。楽しそうだったよ。卒業までの死んでるみてえな顔からすれば、別人みたいに楽しそうだった!」
コンにはよくわからない会話を、一護はユーハバッハと交わしていた。斬月という同じ名前で呼ばれる黒と白の男たちと一緒に、時に神妙に、時には軽口の応酬で。唯一よくわかったのは、何かの提案に対して「それもいいかもなあ」と憧れ混じりに吐き出された言葉の重みだけだ。
この部屋で過ごした短い日々の中で、コンは一護の腕に囲われて眠っていた。子どものように身を丸めて眠る一護を横目に見ながら、そういえばまだまだ赤ん坊みたいなものなんだな、と、長く生き延びた改造魂魄はそう思った。
「
……
黒崎サンは、最後に何を? アナタは彼と話しましたか?」
話したよ。話した。別れの言葉も一応もらった。お返しはできなかったけれど、受け取ったものはあった。言葉と体、器と人生。
「てめえに話すことなんざねえよ、ゲタ帽子」
ちっぽけで、くだらなくて、替えのきかない、本当はコンには必要なかったそれらを抱きしめて抱え込む。これだけは譲ってやれなかった。あの数秒間を、だれかのもとに晒してしまいたくはなかった。
なんの力もない綿の体でも、彼の共犯者にはなりたかったのだ。
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