Nagisa_burn
2025-11-03 12:57:11
6896文字
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最果てまで

決戦〜高校卒業後、周囲の人と関わるのが怖くなった黒崎くんがユーハバッハの残滓を見つけて拾って育てる話です。ユハ一、メゾンド×一護がベースです。(未完)



砂埃がひどい虚圏から移動することに異論は無かった。静かなのはよかったが、地面は硬いしいつも暗いし、口の中がじゃりじゃりする。あとほんの少し力が足りない、というので、最近は控えめにしていた霊圧の分け与えを再開した。今更だと思いながら「そういやこの方法でよかったのか?」と聞いてみたが、答えは「体が触れていればなんでもいい」とのことだった。指を咥えさせる必要はなかったらしい。
五歳児の姿をした子どもの手を握る。裡側に意識をやり、循環する霊圧を、腕を伝って先へ送るイメージを頭の中に思い浮かべる。
この頃になると、一護は己の特異性を嫌でも理解し始めていた。霊圧が大きいことは散々言われてきたが、まさか藍染と並ぶかそれ以上であるという意識はどうにも自分では持てなかったのだ。けれど一度だけ、眠るユーハバッハの口もとに指を突っ込んでは吸われるのを「ガキみてえ」と遊んでいるとき、うっかり送り込みすぎて失敗して認識を改めた。人間の形をした生き物の腹があんなに膨れるところを初めて見て、一護は軽くトラウマになった。
「昔は俺たちが蛇口を捻ってたがな。他でもねえてめえ自身が、斬月を自分だと認めちまった。主導権はてめえに移り、俺たちはてめえに振るわれる側。今更全部に口出しはしねえし、蛇口の開け方が多少おかしかろうが知ったこっちゃねえ。流石に自壊でもしようモンなら止めてやるがな、他人に向かうなら管轄外だ」
白い斬月の言い分はこうだった。ひゅうひゅうか細い呼吸を繰り返しながら涙目で「殺す気か」と恨み言を吐いたユーハバッハを横目に見ながらの説教だった。
小さく柔らかな手を握りながら、ぼんやりと思考を飛ばす。そのうち終わったらしいユーハバッハのほうから手を離された。かすかに湿った手のひらが、虚圏の風に吹かれて乾いてゆく。
「開くぞ」
「ん。……でもどうやって?」
「影の領域は選ばれた者のみを通す。すなわち滅却師の王である私が認め、許可を出した者だ。私みずからが通るぶんには無条件で繋げられる。ある程度制約はあるがな」
「俺も?」
「なんだ、置いて行かれたいのか」
「バカ言え、おまえだってひとりじゃ生きられないくせに」
口をひらいた影に飛び込む。ユーハバッハに先導を任せ、一護は彼の手を再び握った。振り解かれるかと思ったが、ちらりとこちらを見たきりそのままだ。これ幸いとばかりにぎゅっと力を込めた。ああは言ったが、さすがにこの影の中に捨て置かれては、どうしたらいいかわからなくなって恥も外聞もなく全力で暴れてしまいそうなので。
「着いたぞ」
少し誇らしげなアルトボイスが、帝国への帰還を告げた。ずいぶんと久しぶりに見た太陽の光を浴びながら、一護は全身で伸びをする。砂を払い、息を吸い、ひとこと。
「ボロッボロじゃねえか」
「誰のせいだと思っているのだ」
朽ち果てた城を前に笑う。腰を落ち着けるには、まだまだ先は長そうだった。