吾妻
2025-10-07 23:20:57
10260文字
Public アークナイツ
 

Short Story log08

今回は龙博♀・棘博♀・流博♀・里博♀が入っています


あなたを飾るもの


「はい、これ。この間の忘れ物」
 そう言ってドクターが差し出したのは、見覚えのある耳飾りだった。
「ありがとうございます」
 ルーメンは、いささか照れくさい心持ちで、恋人の掌に乗せられた自分の耳飾りを見つめた。
 数ヶ月前の別れ際、盛大に寝過ごしてしまって、慌ててこの部屋を出たせいで、こんな忘れ物をしてしまったのだ。
 どうして寝過ごしたのか、どうしていつもとは違う場所に耳飾りを置いていたのか。それらの理由を思い出すと気恥ずかしくなってくる。
 いい歳をした大人のはずが、しばらく会えなくなる恋人との時間を惜しんで〝夜更かし〟をした結果だ。じゃれあえばじゃれあうほどに、別れた後が寂しいと知っているはずなのに。

 ルーメンはそっと手を伸ばし、ドクターの掌から貝殻を模した耳飾りを拾い上げようとする。
 しかし、指先が掌に触れた瞬間、下からぎゅっと、耳飾りごと指を握り締められてしまった。
……!」
 驚いて固まるルーメンを見て、ドクターはくすくすと楽しげに笑ったあと、握った手をゆっくりと開いた。
「ごめんごめん。この数ヶ月ずっと私の手元にあったから、なんだか返すのが惜しくなってしまって。自分でも不思議なんだけど、君の持ち物が傍にあるだけで随分頼もしく感じたから」
「ドクター……
 じんわりと胸に温かな感情が広がって、ルーメンはドクターの掌の上に自身の掌をそっと重ねた。

 互いの成すべきことを成すために、離れて過ごす時間が多いのはやむを得ない。
 ――そんなふうに割り切っているつもりでも、やはり間に跨った距離をもどかしく思うこともある。
 ドクターも、自分と同じ寂しさを抱いている。そして、自分の持ち物がひとつ手元にあるだけで、安らぎを感じてくれている。
 なんて愛おしいのだろう。

「ちょっとだけ、このままこの耳飾りを私の手元に置いておこうかと思ったくらい――
「えっ、それは困ります」
……

 じんわりと愛しさを噛み締めていたルーメンは、するりと耳に入ってきたドクターの言葉に、ついつい反射的に返答をした。
 口走ったあとで、その返答がだいぶ誤解を生むものだとすぐに察した。案の定ドクターはきょとんと目を瞠っている。

「あっ、違うんですドクター! この耳飾りがあなたの寂しさを少しでも埋めてくれるなら、差し上げてもいいんです。ですが、その……

 重ね合わせたままの手を握り締め、自分の方に引き寄せて、ルーメンは恋人の体を自身の腕の中に閉じ込めた。
 本当はこんな場面で告げるはずのなかった計画だが、耳飾り一つを惜しんでいると思われたくはない。
 細い背に腕を回し、恋人の耳元に唇を寄せて、ルーメンは。

「あなたに初めて贈るアクセサリーは、特別なものにしたいので……もう少し待っていてもらえませんか……?」

 二人にしか聞こえないトーンで、そっと囁いた。


【おわり】