しらかば
2025-09-19 12:29:28
5932文字
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三題小噺まとめ

最終更新2026.5.6


三題小噺5
『自宅のリビング』『書類』『殴る』

「あーなんで俺がこんな目に……!!」
 平日、昼下がり。自宅のリビング。
 朝霧凍磨は一人、悲鳴を上げていた。
 机の上に散乱しているのは、無数の書類。
「桜がいねえからいいけど……
 凍磨は頭を掻きながら現実と向き合う。
「そりゃ……俺が悪いけどよ……
 
 人と関わらないようになるべく他者を遠ざけていた。
 他者とは、能力者を――己を拒むものばかりだから。
 どうせ、仲良くなっても自分の能力を見ればみんないなくなる。親も親戚も施設の先生もみんな、自分を認めはしなかったから。
「ねえ、朝霧くん」
 普段なら人が避けているその間合いに、クラスメイトが笑いながら入ってきた。
……何」
 悪意しか感じないその笑みに、人が集まってくる。
 ああ、近寄るな。近寄らないでくれ。
「これ、妹?」
 彼が見せたのは見覚えのある小さな少女の写真だった。
「そうだけど、何?」
 
――なんで能力者なのに生きているの、お前ら兄妹は?

 その瞬間。凍磨の頭の中は真っ白になった。
「ふざけんなよ!?」
 凍磨は思わず手を出していた。
 人を殴った感覚。
 見覚えのある教室がぐちゃぐちゃになる光景。
「桜は何も関係ねえだろ!?」
「違う、俺達は別にそんなつもりじゃ――
 死ね。
 死ね。
 壊れろ。
 壊れてしまえ。
「うるさい黙れ!!壊れてしまえよ!!全部!!」
 深い闇は凍磨を中心に渦巻き、人を、物を、望み通りに壊していく。
 一度放たれたそれを止めるすべは知らない。
 ただ、感情のままに全てを壊していく漆黒の闇。
 それは凍磨の意識が途絶えるまで、永遠に続いた。

「はぁ……なんで人を殴るかなあ、俺……
 反省文の山、弁証のための請求書の山。因みに今はいわゆる謹慎処分中なので休み。
「この能力、いつになったら扱えるんだろうな……
 感情が昂ると知らぬ間に暴走する闇能力。それを抑えるすべはまだ知らない。
 もちろん、親がいない以上は生活費からそれらを出さねばならない。
 自分がされて嫌なことはするな。そんな当たり前の事をしてしまった自分が嫌になる。
「早いとこ片付けねえとな……
 ため息をつきながら、手を動かす。
 ありきたりな反省文を書き、支払う金額をまとめる。
「はぁ……しばらくモヤシ食うしかねーかな……
 書類の山が減ったところで、ガチャとドアが開く音がした。
「ただいまー!」
 とてとてと軽い音がした。
「おう、お帰り」 
 リビングに走り込んだ桜は、満面の笑みで凍磨の胸に飛び込んだ。
「おにいちゃん、きょうはね……
 やっぱり、桜には笑っていて欲しい。
 だから俺が守らないとな。
「おい桜、帰ったら手を洗えって言っただろ?」 
「はーい!」

 
……懐かしいもん出てきたな」
 掃除をしていたら、教室の机の領収書が出てきたので思わず過去に思いを馳せてしまった。
「俺も変わんねーな……
「お兄ちゃん何見てるの?ラブレター?」
「そんなの貰ってねえよ!」
 その笑顔が変わらないということは、守れていると言うことだろうか。
 いや、変わりはした。能力は扱えるようになり、戦うための力も、目指したい理想も出来た。
 過去の、孤独に生きるしかなかった少年はここまで大きくなった。周りに恵まれ、幸せを抱きながら。
「掃除も一段落したし、ケーキ食べよ!」
……ああ、そうだな」
 妹の笑顔の為なら、俺はなんでもするのだろう。
 これから先も、ずっと変わらずに。



 ◇◇◇◇◇
「泡沫夢幻」より、我らが主人公朝霧凍磨。
 凍磨の誕生日前日に書いてます。そういや学生時代の話ってあんま出てこないなと思って。
 妹の桜がめっちゃ大切な凍磨お兄ちゃんです。