すだ
2025-09-14 09:57:57
10752文字
Public 婿スバカグ
 

私の知らないあなた

交際前。カグヤ恋心自覚前。婿スバルの忘れ物を届けに行ったら、ゆるっとした格好で出てこられてしまい動揺する舞手カグヤのお話。暴走するカグヤさんがいます。どんなに暴走しても、愛の力で受け入れるスバル。友人枠でマウロさん出演。
#スバカグ



 後日。仕事終わり、スバルがいつものようにクサツ旅館へ向かうとモコロンと鉢合わせた。
 カグヤはマツリとカナタにつかまっているそうだ。当分帰ってこないだろう。
 白竜は温泉が大のお気に入りのようで、夏の里へやって来ると大体満足そうに湯船に浸かっている。
 同時に風呂から上がり、スバルはミカンジュース、モコロンはアイスクリームを口にしながら雑談を始めた。
 そして何故か今、スバルとカグヤの故郷について熱心に聞かれている。
「お前の故郷、どうなってんだよ。成人した人間があんな無垢でどうするんだ?」
「言いたいことは分かるよ……。カグヤの教育は全部大人の役目だったから、オレも詳しいことは知らないけど……
 まあ、一足飛びで夫婦の生活については教えていたようだが。もっと他に何か、こう……その前に教えないといけないことがあるだろ?
「他に教えることが沢山あったからおろそかにされたのかぁ?」
「さあ……。今となっては何とも……
「どっちにしても、このままじゃオイラも心配だぞ。ただでさえ記憶を無くしてるんだ、悪い人間にころっと騙されたらどうする?」
「そうだね……
 そこはマウロも心配してくれたようで、あの後謝罪とお礼をしに行ったスバルを「頑張りなよ!」と激励してくれた。
「こうなったら、お前が責任取って教えてやれよ」
「えっ!?」
 教える――教える? 一体何を?
「アイツに相手が現れなければ、結婚するんだろ。それまでにもっと俗世間のことを教えないと」
「あ、ああそういうこと……
「誰にも渡す気なんてないくせになあ」
「うっ……
「いい加減素直になれよ」
 スバルの気持ちはモコロンには完全に見透かされているのに、カグヤに全く気づかれていないのは何故だろう。
 やはり巫女として育て上げるために俗世から離れていたのが原因だろうか。今になって故郷の大人たちを恨んだ。
 今更恨んだところでどうにもならないのだが。
……できる限りのことはするよ」
 スバルにしては前向きな発言に、モロコンが目を丸くした。
「お、ようやくその気になったか?」
「うん……変な輩に騙されて悲しんでほしくないし」
「なーんかハッキリしないんだよなあ……。誰にも渡したくない! オレが一生そばにいる! くらい言えないのかよお」
「そこまでは無理」
 そこまで腹をくくるのはまだ無理だ。神竜のくせにどこでそんな言葉を覚えてくるのか。
「まあいいけどさ。オイラは正直、アイツが幸せであれば何でもいいんだ。でも応援くらいはしといてやる」
 せいぜい頑張れよ! と発破をかけられた。礼だけ言っておく。
 カグヤがスバルを選んでくれるかは分からない。けれど、彼女を想う気持ちだけは誰にも負けない。
 未だにためらいはある。焦がれる想いを口にしようとするたび、そんな資格があるのか? ともうひとりの自分が邪魔をする。こればかりはいくら誰かに何かを言われようと変えられないのだろう。
 ただ、カグヤと時間を共有するうち、閉じ込めていた恋心は完全に蘇ってしまった。こうなってしまえば、傍らに立つのは自分でありたいという欲を捨てられない。
 マウロとの関係に嫉妬されても、浴衣の裾を掴まれても、突然泣かれても、何をされても愛しいと思ってしまう自分は既に末期なのだろう。
 顔を真っ赤にして怒る彼女の姿を思い出す。自分のことをかっこいいと言ってくれた。少しは恋愛対象として意識してくれているのだろうか。
 どうだろうな、と否定する。何しろ幼馴染は自覚無しに衝撃的な発言や行動をする人だ。それにいつも振り回されているのはこちらの方だ。
 挙げ句の果てに、はしたないときた。男の胸元を見たくらいで可愛いものだ。スバルがつい考えてしまうことを知ったらどんな顔をするのだろう。本当に呆れるほど純粋で憎たらしい。
 これから起こるであろうあれこれを考えるとため息が出そうだ。
 全く、恋とは厄介なものである。