すだ
2025-09-14 09:57:57
10752文字
Public 婿スバカグ
 

私の知らないあなた

交際前。カグヤ恋心自覚前。婿スバルの忘れ物を届けに行ったら、ゆるっとした格好で出てこられてしまい動揺する舞手カグヤのお話。暴走するカグヤさんがいます。どんなに暴走しても、愛の力で受け入れるスバル。友人枠でマウロさん出演。
#スバカグ



「何でマウロさんも着いてきてるんですか? 私ひとりで大丈夫ですよ」
「いいからいいから。夜遅くに女性ひとりで歩かせるわけにはいかないだろ?」
「少し歩けば着きます」
「それでも、だよ。多分スバールも同じことを言うと思うな」
 確かに商店が立ち並ぶ繁華街とは違い、住居が多いこの辺りは薄暗くしんとしている。
 夏の里に不審者が出ることはほとんど無いが、小さい子や若い女性が怖がっているのを耳にすることはあった。
 今後の里運営の課題である。
 ただ、カグヤをか弱い女性や子供と同じだと思ってもらっては困る。不満が口に出た。
「ふたりとも、私を子供扱いしていませんか?」
「そんなことないよ。立派なシニョリーナだから丁重に扱っているのさ」
 シニョリーナ――確か、こちらの言葉では『お嬢さん』という意味だったか。
……そうでしょうか。私はスバルから子供扱いされていると感じるときがあります」
「それは無いと思うけどな……。ま、昔からの癖で面倒見のいい幼馴染になっちゃうのかもしれないね」
 ふたりの横からモコロンが茶々を入れてきた。
「スバルはともかく、お前はアイツの前だと子供っぽくなるからな。だから自然と子供扱いになるんじゃないか?」
「そんなことありません!」
「ありますー!」
「仲がいいね相変わらず」
 モコロンとの方が子供の言い合いになっている気がするが、ふたりのやり取りをマウロはからりと笑い飛ばしてくれた。


 話しているうちに、スバルの家に着いた。灯りはついているので、まだ起きているようだ。
 カグヤが戸を叩こうとすると、マウロに制された。彼女が訪ねて来たと知ったら夜分に男の家へ訪ねてくるなんて、などと言われるかもしれないと説明される。
 渋々後ろへと下がる。こうなることを見越して彼は着いてきてくれたのだと分かったからだ。
 ただ、それが自分より幼馴染のことを理解しているように感じられ、一層もやもやする結果となった。
「スバール! オレだよー!」
 軽く戸を叩きながらマウロが呼びかけた。何だか恋人同士みたいだな、と明るく笑う冒険者をじとりと見やる。
 カグヤ自身も最近気づいたのだが、どうやら自分は嫉妬深いらしい。それもスバルに関すること限定で。
 カグヤ以外の人と仲良くするスバルの様子に嫉妬することがあるのだ。幼馴染に対して抱える感情としては重すぎる気がするので黙っているが。
「え? マウロさん? 今開けます」
 聞き慣れた声と足音が聞こえた。家の戸が開けられる。
――
 現れた幼馴染の格好に、カグヤの頭は真っ白になった。
 着崩された浴衣は大きく胸元が開き、彼の引き締まった浅黒い肌が顕になっている。
 寒がりのスバルは、いつも首筋まで隠れた服を着ている分、その衝撃といったら半端ではなかった。色気すら漂っている気さえする。
 水着姿を何度か見たことがあるが、特に意識したことはなかった。水着のスバルだな、で終わっていた。でも今、ひどく動揺している。
 彼が身に着けている白い浴衣のせいだろうか。露出した肌が強調されるというか。見てはいけないと思うのに、胸部に目がいくのを止められない。
 ああ、頭が混乱してまともにものが考えられなくなってきた。
「うわぁ!? カグヤ!?」
 途端、扉がピシャリと閉められた。
「マウロさん! カグヤがいるなら言ってよ!」
 動揺のせいか、いつもの礼儀正しい口調が消えている。
「ごめんごめん。わあカグーヤさん、顔が真っ赤だね。アズマの女性は慎ましいのをすっかり忘れていたよ。ごめんね」
 声が大きい、やめて欲しい。扇の神器でマウロを吹き飛ばせたらどんなにいいかとカグヤは思った。
 しかし、気になることがひとつ。先程スバルはカグヤの姿を見て恥ずかしがっていなかっただろうか。もし、マウロだけが彼を訪ねたとしたら、平気な顔をしてあの格好で出迎えていたというのか。あの格好で。
「スバル! 開けてくださいスバル!」
 突然戸を叩き始めたカグヤに、モコロンは何だ何だと驚き、マウロは面白そうに片眉を上げた。
「ごめん、身支度に手間取って、ってええ!?」
 スバルが扉を開けると同時に一歩踏み出す。
 近くなった幼馴染をぐ、と睨むと訳が分からない様子の瞳とかち合った。
 少し顔が赤いままなのが気に入らない。恥ずかしがるような間柄でもないだろうに。
 先ほど自分も真っ赤になって立ち尽くしていたことを棚に上げるカグヤである。
 先に用事を済ませようと、持ち物袋を差し出した。
「どうぞ、クサツ旅館に忘れてましたよ」
「あ、ああどうもありがとう……?」
「ひとつ聞きたいのですが」
「う、うん?」
「私には見せられなくてマウロさんには見せられるのは何故ですか」
「何を!?」
 思わず突っ込まずにはいられなかった様子のスバルにカグヤは畳みかける。
「マウロさんだけなら、あんなゆるい格好でいいや、って思ったんですよね? じゃあ何で私には見せようとしないんですか」
「ええと、マウロさん」
 スバルがマウロに助けを求める視線を送るが、それは逆効果だ。更に一歩近づくと、呻き声が聞こえた。
「あのー、さっきから距離が近くないですか?」
 何故か言葉づかいまで変わっている。
「質問に答えてください」
「う……だって、カグヤにだらしないところを見せられないから」
「マウロさんならいいってことですか!?」
「おいおい、面倒くさくなってきたなあ」
「しっ。モコローン、こう言うときは黙っているのが一番だよ」
 後ろでモコロンとマウロがぶつぶつ言っているが、彼女の耳には全く入ってこない。
 今カグヤは、スバルと真剣勝負をしている心持ちなのだ。
 耐えきれなくなったのか、スバルがカグヤから離れようと後ずさる。
 させるか、と浴衣の裾をはしっと掴んだ。
「私が駄目でマウロさんなら構わないのは不公平です!」
「わー! 待って! 引っ張るなって!」
 裾を思いのほか強く握りしめてしまったようだ。流石にやりすぎたかと手を離す。その勢いのまま言い切った。
「スバルはこんなにかっこいいのに! マウロさんがスバルを好きになっちゃったら困ります!」
 マウロの口笛でカグヤは我に返った。目の前のスバルの表情を窺うと、真っ赤な顔をしてわなわなと震えている。
「確かにオレはかっこいいけど、スバールもかっこいいからね」
「普通自分で言うか?」
 ほら、マウロだってスバルがかっこいいことを認めているではないか。
「と、とにかく! スバルはかっこいいんです! 自分の魅力をもっと自覚して下さい!」
「あれ口説いてんのかな?」
「カグーヤさんは大真面目に言ってると思うよ」
「ちょっと外野は静かにしていてくれませんか!」
 話に集中できないではないか。カグヤが後ろのふたりに向かって注意すると、幼馴染がぼそっと呟いた。
……って」
「え? 何か言いました?」
「帰って! みんなもう帰って!」
 スバルは駄々っ子のように叫ぶと、勢いよく扉を閉めた。ご丁寧に鍵までかけられる。
 カグヤは呆然とした。やってしまった。暴走も暴走、大暴走だ。
「締め出されちゃったね!」
 笑顔を見せてくれるマウロがせめてもの救いだった。
 竜神社まで送って行くよと言われ、大人しく歩き出す。
 すっかりしょげ返るカグヤに、マウロが話しかけた。
「多分恥ずかしかったんだと思うよ?」
「はい……
 思った以上に暗い声が出てしまったらしい。それ以上マウロは声をかけずにいてくれた。
 最初から最後まで、マウロには世話になりっぱなしだ。取り乱したところを見ても、何も言わずにいてくれる。
 彼のような友人がいてくれて良かった。ひとりだったら、多分もっと落ち込んでいた。
……ありがとうございます、マウロさん」
 心遣いに礼を言うと、どうしたいましてと笑い返してくれた。