新しい朝が来た/残りの夜が来た

初出:
2025/5/3 同人誌「新しい朝が来た」 狂児
2025/5/5 ピクシブ「残りの夜が来た」 狂聡狂同軸リバ



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 警察に出頭する朝、近所の公園でラジオ体操をする子どもたちを見た。送迎係となった若いのにその話をして、「ラジオ体操ってまだあんねんな」と感想を述べると、ジャージを着た若いのは、「ありますよ」と答えた。「子どもら、毎朝やってますよ。夏休みやから」
「ここで? ずっとやっとった?」
「ここでずっとやってました」
「気づかへんかったわ」
「朝早いですからね」
「そうやなぁ。ほんで自分はよう知っとったな」
「自分は結構帰ってくる時間なんで、ちょうど」
「そうかぁ」
 狂児は欠伸をした。
 欠伸が出る体、革張りのシートで警察に向かう体、若いのと雑談する自分の体をどことなく持て余しながら、ゴキゴキと首を回す。
「自分、ラジオ体操行っとった?」
「いつですか」
「子供の時。夏休み」
 若いのはしばし考え、「行ってませんでしたね」
「それってお兄ちゃんになったから?」
「いや、普通にそういう感じやなかったですね」
「そうかぁ」
「成田さんは行ってはったんですか」
「どうやったかなぁ……
 窓の外に目をやった狂児はしばし回想と妄想に意識を飛ばし、そして「あ」と声を上げた。「待って、停めて」
 身を乗り出して運転席を叩いた狂児の言葉に従い、若いのはスッと路肩に車を寄せた。指示を待つその横顔に「携帯かして」と手を差し出す。
「電話ですか」
「や、インタ~ネット」
 同じ機種のはずなのに他人の携帯は微妙に使いづらいと思いながらラジオ体操の歌の歌詞を検索した狂児は、いまいちはっきりしなかった最後のフレーズを読み上げて確認した。
「ありがとう」
「っす」
 すっきりした狂児が再び背もたれに背を預けたのをバックミラーで確認し、若いのはウインカーを出した。ヤクザが乗っていることが明らかな車には皆親切で、混み合う道でも合流はスムーズだった。
……さっきのなんですか」
「え?」
「読み上げられてたやつです。一、二、三……
「ああ……ラジオ体操の歌のケツんとこ」
「そんな歌あるんですか」
「あんねん」
 狂児は欠伸をした。
 カラオケ大会からこっち、狂児はずっと自分を持て余していた。今すぐどこかに走って行こうとする気持ちと、粛々と成田狂児という何かであろうとする体が、まるで連動しないのだ。自分の気持ちがどこへどうして走ろうとしているのかを理解できない、いや理解しようとしない思考もまた連動せず、全てがバラバラに飛散しそうになるのを、外からぼんやり眺めている自分もいた。愉快なのか恐ろしいのかわからない感情がただ高揚していた。収監されて落ち着けばいいがと案ずる自分を、自分自身がもう無理やろと鼻で笑っていた。もう無理やろ。
「それ歌わはるんですか。次のカラオケ大会」
 狂児は顎に手をやった。「歌わへんやろ」
「ですよね」
「俺歌わへんから、歌ってええよ」
「いや、大丈夫です」
 車は夏休みの中学校の前を通り過ぎた。