Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
氷紀
2025-07-25 13:33:14
11312文字
Public
とある息子たちの話
Clear cache
とある放蕩息子の葬送
『とある息子たちの話』シリーズの前日譚です
養父の思い出を引きずっているゲタくんが、男の子の幽霊と出会って別れる話。CPとしてはモブゲタ
※モブの下高校3出展作品
1
2
3
4
5
6
何事もなく夜があけ、僕は廃神社を出て山を下りた。いい天気だ。
来たときとは違う山道を適当に歩いていると、行く先に小さな雑貨屋が見えた。一昔前の田舎にはよくあった、今でいうコンビニのような役割をしていた店。
今時珍しいなと思ってつい足を踏み入れると、軽い電子音のチャイムが鳴って、店主らしき老人が「いらっしゃいませ」の一言と共に、目礼を寄越してくれた。軽く会釈を返して店の棚を眺めていると、何だか
――
水木さんが生きていた、あの時代を思い出すような品が並んでいる。農具やら、古雑誌やら、駄菓子やら。よく残っているなという気持ちが半分、なんで残っていられるんだろう、という気持ちが半分。
本当に懐かしいな
……
というぼんやりした感慨を抱いたまま、店内のあちこちに視線を彷徨わせていると、一番隅の棚に、風鈴が売られているのが見えた。青いガラスのもの、白い陶器のもの。双方に割引表示の黄色い札が貼られていて、そこに書かれている『50%OFF』の赤い字が、日焼けして消えかかっている。
思わず手に取って確かめた。
――
昨夜みた、あの風鈴と全く同じ形だ。
心は確かに動いたが、旅暮らしの身だ。買ったところで、遠からずカチ割るのが関の山だろう。
代わりに、その隣にあった煙草の方を手に取る。深い紺色に金色の鳥が描かれたパッケージは、まだ比較的新しいものだ。ポケットの中に突っ込んである電車賃の残りで買える額、と確かめてからカウンター向かい、その紺色の箱を差し出すと、店番の老人が少し、表情を動かした。
「珍しいね、兄ちゃん」
……
と言われることは、本当によくある。だから返答も慣れたモンだ。
「まァ、一番好きなんで
……
おじさんも?」
「長いこと止めてたんだが、最近あの味が懐かしくなってな。電気のが、どうしても好きになれん」
「分かりますヨ、僕の父さんも同じこと言ってました」
老人は、老い先短い身だ、好きにさせもらう
――
と笑って、古いレジに煙草のバーコードを通す。
今の時代、煙草といえば電子煙草だ。いちいち紙巻を吸う奴は、良く言って物好き、悪く言えば偏屈な変わり者。それに、そもそも煙草呑みという人種自体が、ごく少数派になっている。世間の目は容赦なく冷たい。
……
まァ、人間の体にいいモンじゃないのは本当だ。僕には毒にも薬にもなってくれないけど。
ともあれ、この紺色の箱を買うと、売り手が紙巻き煙草好きだったとき、うっすらとした仲間意識を僕に抱いてくれるのだ。それがこうして時々、ちょっとした会話をもたらしてくれる。
「
……
ところでおじさん、あそこの棚の風鈴って、このへんの名物か何か、です?」
「ああ、あれもこの煙草みたいなもんでね、昔の名残さ。少し離れた山ん中に集落があって、その祭りで神社に供えられてたんだ。けどその祭りも、もうなくなっちまってな
……
モノだけうちで引き取ったんだよ」
「そうなンですか。知り合いが持ってたのと少し似てるな、って思って
……
じゃあ、その集落ももうないんです?」
「ああ。鹿だの猪だのに畑をやられちまって、若い連中から少しずつ
……
それでも時々、様子を見に来る奴はいたんだがね。何年か前に熊が出るって噂が立って、それからもう誰も寄りつかん」
「そっか。僕も流石に、熊はごめんだなァ
……
、」
言いながら、カウンターの上に小銭を何枚か差し出した。
一箱の値段はかなり上がったけれど、まだ何とか小銭で払える金額に留まってくれている。
「旅暮らしだろ、兄ちゃん。気をつけろよ、秋の熊は食い物を狙うからな」
「出くわさないように祈っておきますヨ」
冗談めかして笑っておいたけれど、僕を狙う熊はいない。獣にとって幽霊族は『おいしくない』からだろう。
……
僕の体に流れる血は、動物には猛毒だ。
釣り銭を受け取ろうと、古びた青いトレイに手を伸ばすと、ああ待てと声が掛かったので、僕はつい手を止めた。老人はカウンターの下から小箱入りのマッチを取りだして、小銭と重ねるように置く。
――
木の軸のマッチ。今はもう、ほとんど見かけなくなったものだ。
「いいんですか」
「何、今どき紙巻きを呑んでる奴なんざ、そういないんでね。煙草とセット売りだ、もってけ」
「ありがとうございます。わァ、父さんが持ってたのと同じ
……
!」
僕が『父と趣味を同じくする良い息子』を敢えて演じて受け取ると、老人はにやりと笑って返してくれた。
「良かったら一服していくかい?」
1
2
3
4
5
6
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内