【#深淵覗きの断章】夕闇の裁きと宵闇の策謀

アレフ=レーシュ編、第2作。
闇の破片の影響により、ガーベラとネモフィラの中では鮮明な『王の記憶』が蘇りつつあった。
そして、謎の星の子『イジー』の投影キューブを得た事で、二人の残り火は大精霊たちの陰謀を知る事に……

⚠原作の諸要素に対する独自解釈・捏造・オリジナル設定あり⚠
※戦闘・流血描写を含みます。

Fanmade by チーバオ(QiBao)
#sky創作 #sky二次創作


 イジーの投影キューブは、仕組みは不明だが、ガーベラの火で動作するように特別な細工がされていた。
 浮遊するキューブの動力源ダイヤ石が青白く輝き、映像が投影される。
「ああ、そんな……ペンネム……
 イジーのものと思しい怯えた声と、瞬きによる幾度かの視界暗転。

「おいこれ、記憶映像じゃねえか?」とネモフィラ。
「ああ、イジーの視覚と聴覚で出来てる。いいなぁ、私よりもっと上手くキューブを使いこなせるんだろうなぁ……
 投影キューブを扱い慣れた者は、キューブを手にして念じるだけで、持ち主の視覚や聴覚の情報で出来た記憶映像や、心象風景の映像を取り込ませる事が可能である。
 まだ大量の文書や絵画の取り込みしか出来ていないガーベラは、イジーの記憶映像を羨ましそうに眺めた。

 場所は書庫の内部。恐らくどの星の子も知らないであろう円形の大広間。
 広間の中央では、捨てられた地の大精霊と、鎖で拘束された背高星の子ペンネムが向かい合っている。
 柱の陰から覗き込むイジーから見て、右手前に大精霊、左奥にペンネムという配置である。
 ネネムは根暗で苛烈な性格と雰囲気で恐れられていたという。対してペンネムは、アフロヘアにサングラス付き仮面、屈伸する導師の紅色ケープを着こなす陽気そうな子だ。
 されど、その全身から漂うのは、強い怒りと憎悪。

「怒れる『残り火』の子、ペンネムよ。罠や呪いを掻い潜って機密区域の資料を漁り、我らの秘密を見出した勇気を、まずは誉めてやろう」
 夕闇の地の主は厳かに語りかけ、ペンネムに槍を構える。
 イジーの存在には、まだ気づいていない。
「ようやく証拠を掴んだぞ。穢れし荒れ地の大精霊め。お前が、お前たち大精霊が、居なくなった『先輩たち』を……俺たちのネネムを……光と闇を慈しむ奇跡の子を処刑したんだな!!!」
 ペンネムは声を張り上げる。
「厳密には処刑ではないぞ、小童」大精霊は語気を強める。
「如何なる重罪人であろうとも、我ら大精霊は星の子を『殺さぬ』と決めている。道を踏み外し正気を失くした『残り火』を『真っ新』な星の子にして、新たな生を与えてやったのだ」
「真っ新だぁ? ネネムの不思議な力が消えて、ネネムがネネムでなくなったら、殺されるのと変わらねえじゃんか! 確かにアイツは不安定で危なげだったけど、そこまでされるほどの謂れはねえだろ!」
「悪様に言われるのは百も承知よ。だが覚えておけ。善には常に悪が混じるもの。極端な悪は当然善になり得ぬし、ネネムやお前が持つ極端な善意は……この王国に害を成す、悪になり得るのだ」

 ここでガーベラは、以前捨てられた地の神殿で聞かされた忠告を思い出し、身の震えを覚えた。
『この槍は、星の子を殺す為には使わぬ。だが、罰された後は……今までと同じ生を歩めぬと思え』
 捨てられた地の大精霊は、あの時もリトル・ガーベラに槍を向けていたのである。楽しげに、試すように。
「(こうしてイジーの記憶映像を見ている今でも、各地の大精霊様は、私たちや他の残り火たちを見定めているのでは? 歩んだ旅路や経験、残り火由来の力……得てきた何もかもを『真っ新』にせざるを得ない危険な存在となるか、ならないかを)」
 不安に駆られたガーベラは腕を組み、思考を加速させる。
「(ネネムが『真っ新』にされたなら、その事に怒り狂っているペンネムも、この後)」
 ネモフィラも、ペンネムと大精霊の会話を飲み込み、ガーベラと同じ推測に至ったようだ。
「おいマジかよ……殺されるよりはマシだろうけど、そんでも容赦なく奪う気かよ、大精霊様」
 ネネムに起きた事と、この後ペンネムに起きる事を察して狼狽えている。

「許せねえ……大精霊様とて、許せねえ!!!」
 激昂するペンネムの姿が、かの子の足元から湧く暗闇に飲み込まれた。
 闇は鎖を引きちぎり、巨躯の勇者と同じ位に膨れ、刺々しい灰色の巨人へと姿を変える。
 不規則に生えては砕ける、深紅の闇の結晶。深紅の一つ眼をギラつかせる、八芒星の仮面。
 己の憎悪に飲み込まれたペンネムは、闇に堕ちた王の姿に成れ果てた。
……やはりこうなったか」
 大精霊の戦装束に白い光の紋様が現れ、黒い肌は白灰色に。
「お前と戦わざるを得ないのは、誠に残念だが」
 構える槍と盾は橙色の炎を纏い、やがて赤みを増して燃え盛る。
「我が王……アレフ=レーシュの英雄として、為すべきことを為すまでよ」
 ペンネムであった灰の巨人は拳と鋭い深紅の爪で、大精霊は炎の槍と盾で、互いに斬り合い、殴り合い、刺し穿ち合う。
 嵐のように激しく目まぐるしい攻防の最中、巨人の爪が、大精霊の喉元を深く一文字に抉り裂き、眩い金色の血を噴き出させる。
「ふむ、今の斬り方は実に甘かったな」
 しかし、致命傷に見えた深い傷は瞬く間に塞がった。
「アレフならば私の首を見事に刎ね飛ばした。そして今の私は、首を刎ね胴を貫いた程度では滅びぬ」
 精霊たちや星の子たちとの繋がりと祈りで輝く、不滅の一等星大精霊の不死の力で。

「素晴らしい……なんて強くて、恐ろしいんだ!」
 憧れの大精霊、勇猛なる旧き勇者への畏怖と敬愛が極まって、ガーベラは驚嘆する。
 その直後のことであった。

「おいおいおいおい、なんだ今の攻撃は?!」
 ネモフィラが驚いたのも無理はない。
 突如飛来した青白い光の大剣が、まるで捨てられた地の大精霊を守るように飛び回り、巨人の両腕を斬り飛ばしたからだ。

「遅れてしまってごめんなさいね、将軍殿」
 鈍金色の血を流す巨人の悲鳴を遮り、鈴振る如き美声が大広間を満たす。
「収容したペンネムの仲間たちが急に『変異』して暴れ回ったものですから、そちらの対処に手間取っていました」
 捨てられた地の大精霊の傍に、美声の主書庫の大精霊が姿を現した。
 その法衣は光の紋様で輝き、周囲には幾つもの魔法陣と光の刀剣を浮かべている。

「書庫の大精霊様……お淑やかな雰囲気に反して、あんなに強え魔法を使えるのか?!」
 ネモフィラは恐れ慄く。
「大神官、大賢者とも呼ばれるお方だ。そこまで出来てもおかしくはないだろうけど……敵対したら間違いなく苦戦するかもね」とガーベラ。

 かつて星の子ペンネムであった灰の巨人は、黒く変色していく血を流し、大広間を穢しながら、閉ざされた出口へ後ずさる。
 しかし、宵闇の賢者は魔法陣で巨人を拘束し、夕闇の勇者は赤き炎の槍で巨人の胸部を刺し貫いた。
「「堕ちた救い手、裔の子よ。これより先は無垢であれ。清くあれ。真っ新であれ」」
 ふたりの大精霊の詠唱が終わると、事切れた巨人は白い炎を上げて燃え上がり、縮れていく。
 やがてその姿は、ケープのない雛鳥髪の星の子となった。
 すやすやと眠る星の子を愛おしそうに抱き上げ、書庫の大精霊は柱の影のイジーを睨む。
「あらまあ。こんなところに隠れて、見聞きした事をキューブに取り込んでいたのですか?」
 イジーは悲鳴をあげて逃げ出すが、念動力によって書庫の大精霊の眼前に引き寄せられる。
「ふふふふ、あなたも『思い出した残り火』なのですね。ならば好都合。ネモフィラ以外の候補に相応しいか、たっぷり実験させてくださいね、イジー」
 イジーの記憶映像を介して見聞きしているガーベラとネモフィラも、その眼光の鋭さと、氷の刃で身体を撫で回すような甘い声に震え上がった。
……本気で実行する気か、宰相殿」
 捨てられた地の大精霊は訝しむように、書庫の大精霊へ問いかけた。
「これは“あの子”の為の計画。あなただって、わたくしと同じように待ち侘びているのでしょう。アレフ=レーシュの真の帰還を」
 当然だと言わんばかりの返答に、暫し黙った後、捨てられた地の大精霊は口を開く。
「否定はせぬ。されど、それが叶うか否かは、残り火たちの選択に掛かっている事をお忘れなきよう」
 そう言い終えたところで、イジーの記憶映像は終了した。