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かずきち
2025-06-02 00:57:14
9474文字
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昼っぽいのまとめ
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ネイル
二人机を挟んで向かい合って座っている。そのテーブルの上には色とりどりのネイルに、少しのチップ。並んでいるものは塗る相手に合わせてどれもシンプルなものばかりだ。その中から一色選ばれて、瓶の蓋を開けて入れた筆先に色が染み込んで、それを伝って爪に塗られていく。
「
……
涙もそうだったけど、そんなに俺の爪って塗りたくなる?」
沈黙の空間に耐えかねて塗られている側が尋ねる。しかし相手は答えずに丁寧に爪へ筆をあてていた。集中してるのかな、と他にも考えていたワードたちを一旦散らして、手元の作業を見守る。平たい筆がべたりと爪に張り付いて、通り過ぎればもう一面恋の色だった。
一般的には女性らしい色、とも言われている色だが、それと分かっていても尚自分の色だと朗らかに話す愛の申し子には確かにとてもぴったりだ。けれど、それが自分の手元に彩られると少しばかり気恥ずかしくなってしまう。ちゃんと釣り合っているだろうか、と爪の先と同じ色をしている彼の髪の毛を盗み見る。ふわりとした髪質が繊細な手元の動きに連動してひょこひょこ踊っていた。柔らかいけど明るさも含んでいる愛らしい、間違いなく彼らしい、色。
「多分さ」
眺めていたら急に旋毛が喋り出したものだから、驚いて一瞬息を止めてしまった。息を止めただけだったので向こうからは特に反応はなく、いつもよりずっと落ち着いたトーンで旋毛は続ける。
「多分、涙もおんなじだと思うんだけど」
「う、うん」
「自慢したいんだと思う」
「自慢
……
て」
「でーきた!」
誰に、なにを、と聞きかけて先程と打って変わった集中の解けた、からっとした元気な声に遮られた。モデルの手を取り直し突発ネイリストは作品をじゃじゃんと見せてくれる。ネイルというものに馴染みのない身としては「ペンキ塗りたて」というかわいくない表現を脳裏によぎらせて、触れてしまわないよう気をつけながらそれを見てみる。
淡い薄桃色を白いラインが波打って彩っていて、バレンタインの時によく見かけたチョコレートの模様に似ていると思った。以前に相方の練習台になった時に描かれたクマも味があったが、こちらもまた個性が光っている。
「やっぱ器用だね」
「そりゃまあ、オシャレ担当させてもらってますから」
かちゃかちゃと広げられていた小瓶たちが元あったケースに仕舞われていく音を聞きながら華やかになった爪をもう一度眺める。
「全部自分の色なんだ?」
十本も指があるのだから数本くらいは慣れ親んだ己の色があしらわれるだろうと予想していたのだが、きっちり全部が相手の色に染まった。こういうデザインなのだと言われればそれまでだけれど、その質問に対して、一度ゆっくりまばたきをして片付けの手は止めずにゆるく首を振られた。
「だーかーらー、自慢したいんだってば」
「
…………
色を?」
「そう」
そう言いながら広げられた折りたたみの鏡を覗き込めば困惑の表情を浮かべた茶髪の青年がいた。その顔を見てなお未だ意図が掴めず困ったまま視線を送ると、手を掴まれて髪の近くに添えられる。毎朝見ているミルクキャラメルのような髪色に、並べられたピンクの爪がよく映えて見えた。
「似合ってるでしょ」
「
……………………
」
鏡の向こう側から首を傾けてあざとくしたり顔をされて、言われた自慢の向けられた先がわかった気がして自然と背筋を伸ばす。別に茶色とピンクなんて、お菓子なんかでよく見る組み合わせだというのに。
似合う、と。"郁"に言うのだ。
「
……
もしかして自慢って、俺にしてる?」
「そーだよ!ていうか、その為に塗ったって言っても嘘じゃないからね」
正解を出すと満足げに鏡が仕舞われていく。
「俺に自慢する為?」
「色の組み合わせってさ、たくさんあるじゃん。定番のやつとか、目に優しかったり。これ攻めてるな〜!とか!」
詳しく語りながらも、掴まれていた手を取り直して、その爪先に口付けるような仕草をされる。
「その中で茶色って特に馴染みやすいんだよね。どの色と合わせてもバランス取れるような。それがなんというか、郁らしいなと。
……
思いながら、思ってたから。ね。
……
だから。一番でしょ、俺の色」
優しいトーンで愛おしげに言われて、気恥ずかしさを感じて身を捩る。
「
…………
涙も?」
「
…………
でしょ。多分。勝ち負けとかじゃないけど、俺もやっときたくって」
なんと返そうか迷っている間に向こうはケースの蓋を閉じて立ち上がり「そんだけ!」なんて、引き留める間もなく部屋を出て行ってしまった。
己のカラーをそんな風に評価されて、その上で人の爪にこの色を乗せるなんて。郁は乾き始めた薬指をそっとつついた。
「
………
照れちゃうなあ」
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