かずきち
2025-06-02 00:57:14
9474文字
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SS詰め2

昼っぽいのまとめ

ハロウィン

 喉に微かな違和感を感じて、そういえば今日は乾燥しているなとちょうど机の上に置きっぱなしだった飴の袋を開けて口に入れる。カボチャのお化けのイラストが書かれた包みのそれは昼間の撮影中にハロウィンだからとスタッフが配り歩いていたもので、中身はカボチャの色に合わせたオレンジ味だった。柑橘系特有の仄かな甘酸っぱさが口の中に広がっていく。
 ハロウィンといえば十月を代表するイベントであり、そして十月を締め括る最後の日のイベントでもある。今年も色々楽しんだなあ、とからになった包みを手遊びとして畳みながら自分の担当月を振り返っていると、ひょこりと恋が下の階から顔を覗かせて、にんまりと意味ありげな笑いを携えてやってきた。郁という標的を見つけて捕まえようと手をワキワキとさせながら近付いてくる。

「こーんばーんはー。郁くん、トリックオアトリート!」
「わあ。きたか」
「反応冷たくない!?」

 楽しそうな恋に反して冷静にそんな事ないよと受け流しながら郁は自分の辺りを見回す。いつもの通りお菓子をせびりに来るだろうと予想はしていたのだが、いつ来るかの予想は立てていなかった。共有ルームでのんびり寛いでいた今はあいにくお菓子の持ち合わせなどなかった。この様子で察してもらえるだろうかと恋に向き直ったのに、もう一度ハロウィンの挨拶をされてしまう。どうしたものかと考えているとこちらの返事を待っているワクワクとした瞳に隠れているものが、どちらかと言うとお菓子を期待しているのではなさそうなことに気がつく。

……えーと、ごめん。お菓子持ってないなあー?」

 我ながら棒読みすぎただろうかと心配したがそれとは関係なしに恋はいい笑顔で嬉しそうにふんぞり返った。

 「ふっふっふ。そうだろうね!持ってなさそうなタイミングを狙ったからね!」
……それはつまり?」
「イタズラをしに来たのです!」
「ううん、なるほど」

 やっぱりか。見事なまでに予想通りになってしまいつい笑ってしまいそうになるのをなんとか堪える。そんな郁の内心も知らぬまま楽しそうにしている恋の姿を見ればまあイタズラされても良いかと思ってしまうのだから惚れた弱みというのは大きい。冷たいなんてとんでもない。……流したりするときはあるけれど。

「じゃあもうイタズラの内容は決まってるんだ?」
「もっちろんですよ!さあ郁くん、目を閉じるのです」
「はいはい」

 謎に続く敬語にも笑いそうになってしまうのだが、言われるがまま大人しく目を閉じて待っていると恋の両手が頬を包む。その手の温かさをじんわりと感じていればふいに唇に柔らかいものが当たる感触がやってきた。

「ん、」

 目を閉じたままでも何をされているのか理解は出来るのだが、こんなにも自信満々に来てやるのがこれなのかと、しかも動く気配もないから俺はどうしたらいいのだろうかとか、そもそもここは共有ルームなのに、誰か来たらどうするつもりだったんだろう?など言いたいことを色々考えているとあれこれ込み上げてきてしまって、口を塞がれていなかったら今度こそ声を出して笑っていたかもしれない。我慢はできたが、それでも口元は緩んでしまう。

…………あ。)

 それで、口の中で転がった、とある存在を思い出した。

「んん!?」

 結局ほんの少しの接触だけで離れかけた恋の唇を、頭を押さえて引き留める。驚いた恋がさっきの郁と似たような呻き声をあげたのも構わずに無理くり口をひらかせて、それを押し込んだ。くぐもった声に混じってカラ、と音がしたのを耳で確認してから腕の力を緩めて解放するとぶはっと息を吐いて離れていった。
 しまい損ねた舌で濡れた口の端を拭っていると、怪訝な表情で自分の口元を押さえながら口の中に入ったものをコロコロ転がしていた恋があっ!とピンと来た顔で、クイズに答えるように郁に向く。

……オレンジだ!」
「お、正解!」
「わーいやったー!……じゃなーーい!!なに!?どういうこと!?」
「そういえば、お菓子もってたなーって気付いて。……ついでに」
「俺のイタズラは!?」

 人の両肩を揺さぶりながら恨めしそうな顔で問われて肩をすくめる。恋が来る前に舐めていた飴の存在を思い出して、イタズラ返しのつもりでやったのだがまだ途中だったのかもしれない。だとしたら悪い事をしたと謝ろうとしてはた、と止まる。……ん?この後に続くイタズラってなんだ?

「ごめんごめん。もしかして続きとかあったりした?」
「え?続き?」
「うん」
「続き……
「続きは……?」

 茶化すつもりはなく、真面目にその先を期待して聞いてみる。頭の中で言葉をぐるぐる考えていそうな惚けた顔でいる彼の額に触れないくらいまで近付いて瞳を覗き込む。

「続き…………って、」

 問いが何を意味するのか思い至った途端、顔がロウソクに火をつけたみたいに一瞬で赤く染まった。その色のままで全力で首を左右に振られて否定されてしまった。なかったか、残念。
 大人しく身を引くと追いかけるように恋の言葉が飛んできた。

「ていうかそうだよいっくん!さっきのだって、誰か来てたらどうすんの!」
………ぷ、あはははは!」

 さっきまで全く同じことを思われてたのも知らないで、むくれているのが可笑しくて、今度の今度こそ耐えきれずに笑ってしまった。
 今年のハロウィンも楽しい終わりになったなと満足する。ただちょっと、確かに次は内容と場所を選んで欲しいと思う。お互いの為に。