夜明 奈央
2025-05-29 06:13:49
3220文字
Public 中太SS
 

中太 妄想と現実と

中也の書いた太宰夢=中太小説が本人に発見されてしまう話
*オタクdisをネタとして消化できる人向け

 中也に嫌がらせをするためなら労力は厭わない。そんな私は中也が隠したいだろうありとあらゆる秘密を探ってきた。当然、PCを調べるのだって日常茶飯事だ。
 ブラウザを立ち上げ、日課の如く直近の履歴を開くと、中には見慣れぬサイトがあった。小説投稿サイトだ。名前くらいは聞いたことがあるが、今まで中也がこのサイトにアクセスしている履歴を見つけたことはない。中也はどんな小説を読むのだろうとそのページにアクセスする。
 どうやら恋愛ものの短編小説のようだが、気になるのは右上に並ぶ「編集」「削除」のボタン。まさかこれは中也が書いたのか? 試しに投稿一覧のページに跳んでみると、ずらっと並ぶタイトル。作品数はなんと100を超えている。長い付き合いで今は半同棲のような生活を送っているが、中也に小説を書くような趣味があるとは知らなかった。少なくとも私の前で長時間PCに向かっているようなことはなかったはずだ。きっと私に隠れてこっそり執筆していたのだ。小説ならメールを打つ振りをして執筆を進めることもできる。
 さてさて中也は一体どんな小説を書いているのだろう。私は一覧の中から適当に選んだ作品のリンクをクリックした。

夢のようで夢ではない
※読み終わったらブラウザバックで戻ってきてください

 困惑しかない。
 まずもって何故登場人物が私と中也なのだ。作品の簡単な説明の時点で名前が同じことには気づいていたが、汚濁や双黒なんてワードが登場しているのだから同姓同名の別人ではなく私たちがモデルだと考えて間違いない。
 事実に基づいた物語調の日記というならまだギリギリ理解できなくもないが、中身は存在しない記憶である。一応恋人のようなポジションにいるので寝ている中也に勝手にキスしたことがないわけでもないが、それで起こしたら中也には舌打ちして振り払われる。甘い反応を期待しているわけではないのでしたい時にはするが、めんどくさいのでそんなに頻繁にはしない。況してや双黒復活の日などするわけがなかった。周囲には中也の回収のためのマフィア連中がいたのだ。
 投稿一覧に戻ると、ブクマ数や閲覧数が表示されていることに気がついた。ほとんどの作品がブクマ0〜1、閲覧数も2桁程度である。大勢に見られていても恥ずかしいが、恥を晒しておいてここまで見られていないのもどうなんだ。
 他にも適当にいくつか開いてみたが、どれもこれも現実とは異なる。全く異なっていればまだ良いのに、「そんなこともあったかも」という程度の実在するエピソードに私が言いそうで言わない台詞と中也がやりそうでやらない行動が積み重なり、ほとんど別人による別の物語が生み出されている。事実は全体の一割程度だ。
 百歩譲って私にこんな台詞を言ってほしいと妄想するのはまだ人間の行動として理解できるが、何故自分の行動まで捏造しているのだ。しかも何故それを自分の頭の中に留めておかずにわざわざ文章に認めているのだ。何故ローカルに保存しておくだけでは飽き足らずこんなところに投稿しているのだ。
 キモいと切って捨てられればまだ良かった。中也の行動心理が全く理解できない。自分を主人公にした活躍譚を書くというのは思春期にありがちな行動のひとつではあるが、もう思春期はとうに終わったはずではないのか。思春期真っ盛りか。書かれているのが手を繋ぐだのキスしたいだの甘酸っぱいあれこればかりなのも身体がむず痒くなる。
 こんなにも大量の投稿が為されているにも関わらず今まで履歴に残っていなかったくらいだから、私に見られないよう念入りに削除していたのだろう。けれど投稿しているということは心のどこかで私に見てもらいたいと思っていたのだろうか。私が中也のPCをこそこそチェックしていることには気づいていたはずだし、それならむしろローカルに保存しておけば良くないか。

▲ ▼ ▲

 中也の帰宅を、私は件のサイトの投稿一覧を開いた状態で出迎えた。中也は私の物々しい雰囲気に警戒心を露わにしたが、PC画面を見てすぐに事態を理解したようだった。
「そ、それ、読んだのか……?」
「読んだ」
「ど、どうだった?」
「どう、とは?」
「面白かったか!?」
「えーっと」
「面白くなかったか?」
 当然何らかの弁明が来るものだと思っていたのだが、斜め上の反応にさらなる困惑が募る。中也のことは全て理解しているつもりでいたが、それは私の驕りだったようだ。この件については最初からずっと私の理解の範疇を超えている。
「私こんなことしないけど」
「か、解釈違いってことかー!」
 その場に崩れ落ちる。リアクションが大袈裟でちょっと引く。見られた恥ずかしさでテンションがおかしくなっているのかもしれないが、それにしたって引く。
「いや、うん、わかる。俺も書いてて『太宰ってこんなことしなくね?』って何回も思った。なんなら『俺もこんなこと絶対しねぇ』って思いながら書いてた。でも普段手前に可愛げとか全然ないし、ちょっと妄想するくらい許されるだろ」
 ぶつぶつとようやく弁明のようなものが続く。
「妄想するのは思想の自由だけど、それを全世界に公開するのは別の問題があるでしょ」
「そこは大丈夫だ。フォロワー限定公開にしててフォロワーは俺の別垢だけだ」
「うん、マフィアのセキュリティ意識どうなってんの?」
 全世界に公開しないだけの理性があって良かった。わざわざ別垢で2桁の閲覧をしていることについては突っ込んでやるまい。

▲ ▼ ▲

 お互いに一旦落ち着いてから、きちんと話し合うことになった。
 投稿済みの小説は削除させようかとも思ったがやめにした。投稿している以上見られるリスクはあるが、直接機密に関わることが書かれているわけではない。削除させてもまた他のところで書き始めないとは限らないので、それならこちらから監視できる場所でやってもらった方が幾許かましだ。あんまり積極的に見に行きたいとは思わないけれど。
「で、結局あれはなんなの? 私にあんな風に振る舞ってほしいの?」
「違う。あんな太宰は解釈違いだ」
「私が言うのもなんだけど君結構めんどくさいね」
 今日1日で中也のことが何もわからなくなった気分だ。中也が私に執着しているのには気づいていたし、自分からそう仕向けた部分はある。けれど中也の執着は私が思っていたのとだいぶ異なる方向に向かってしまったらしい。
「どうせ手前には夢小説書きの気持ちはわかんねぇだろうよ。あれはフィクションだからいいんであって、現実にそうされるのは違うんだよ」
「うん、ごめん。あんまり深く理解したくない」
 これならああいう甘い言動をしてほしいと言われた方が良かった。
 小説の中の太宰が行う、中也相手にしかあり得ない言動の数々。どうせすぐに切れる女の子を口説く時とはまた違っていて、今までにお互いが相手に取ってきた言動が少しばかり異なっていれば、絶対にないとは言い切れないものたちだ。中也は私に可愛げがないと言うが、そんな面を中也に見せる気にならないくらい粗雑に扱っているのは中也の方だ。それに多少の不満はあれど納得しているから、こうして一緒にいることを選んだわけだけど。
「あーあ、残念だなぁ。中也にも雨の日迎えに来たりご機嫌取りしたりするような優しさや誠意があれば、私もちょっとくらい可愛げのあることもしたかもしれないのに」
 言った瞬間、中也の目が期待に満ちたものへと変わった。それを見とめて、ほくそ笑む。
「あれー? そういうのは解釈違いなんじゃなかったのー?」
 中也が悔しそうにぐっと息を呑む。

 私の気が変わるかどうかは、今後の中也次第だ。


出典
手を繋ぐ:ただ手を繋ぎたいだけ
キスしたい:酔いにまかせて 他多数
雨の日迎えにくる:迎え
ご機嫌取り:私たち結婚してました!


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