匣舟
2025-05-26 13:09:59
8482文字
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僥倖に預かる

転生パロ 仙乱(すこしだけ伊乱)


 仙蔵を欺くことが出来ず、“前世の記憶を持っていると誰にも打ち明けないでいよう”という乱太郎の今世の目標は一日も経たずに打ち砕かれてしまった今、乱太郎は仙蔵とふたりでスーパーの近くにあるファーストフード店へと足を運んでいた。
 昼時であるため、店内には多くの人がいる。なあに、再会記念として今日は私の奢りだ。なんでも好きなものを食べなさい。と言った仙蔵に、そんな悪いですよぅ。と断った乱太郎だが、結局押し切られてしまい、今に至る。
「さて、乱太郎。どうして記憶が無いフリをしようとした?」
 注文を頼み終わって一段落したところに、その質問をぶっ込まれたため、休む暇も与えてくれないのかと肩をガックリ落としたが、自分が目の前の先輩を欺き切れなかったことが悪いし、そもそも立花仙蔵に最初に出くわしてしまったことが運の尽きだったのだろうと考え、その問いに答えることにした。
「あ、えっと、その、怖かったんです。」
「怖かった?」
はい。」
 記憶を思い出したのは誕生日を迎えた昨日だったことと、今世の両親は前世の両親と同じだったが、記憶を持っていなかったこと。
 だから、もし、自分たちのように出くわしたとして、自分だけが前世のことを覚えていて相手が覚えていなかった時。きっと、どうすればいいか分からないし、絶望してしまうかもしれないと思ったこと。そんな絶望なんかしたくないから、記憶が無いフリをして殻に閉じこもったこと。
 今まで自分が抱えていたことを包み隠さず話した。すみません。と謝る乱太郎に、いつの間にか隣に来ていた仙蔵が優しく包み込む。その温もりが暖かくて、乱太郎は声を抑えながら泣いた。
私も、乱太郎と同じことを考えていた時があったよ。」
 声にもならないような嗚咽をしながら、乱太郎は仙蔵の声に耳を傾けた。
「私に前世の記憶が刷り込まれたのはまだ物心つかない頃だ。よく訳の分からないことを言って両親を困らせていたそうだ。」
 保育園に居ない子どもたちの名前を言って、あいつらがいない!とよく泣いていたそうで、物心が着いた頃にはそういうことを言わなくなったらしいが、気づけば級友たちのことを探していたという。
「小学校に上がった時に、一年生は名前と、自分の所属するクラスが張り出されるだろう?その時に少しだけ期待したんだ。誰か見知った相手はいないだろうかって。」
 でも、誰も居なかった。そのとき、酷く絶望したよ。もしかして、この世界に生まれたのは自分だけかもしれないと考えて、孤独になった気分だった。と語る仙蔵の顔は悲しそうだった。でも彼はめげることなく、級友たちがどこかにいると願っていたのだそうだ。
「文次郎がいるだろうと思って算盤教室を覗いてみたり、小平太がいるだろうと思って近くのバレー教室に体験入部してみたり、色んなところを探しに回ったりしたんだ。結局、誰一人見つかることは無かったがいつか、あいつらでなくとも、忍術学園の誰かしらには出会えると信じて探していたら乱太郎、お前に出会えたんだ。」
 いつか、誰かしらに出会えるとどこかで信じていたけれど、私はもう十五歳になってしまっていて、前世ならば忍術学園を卒業する歳だったから、もし、今年で誰かと出会わなかったら、私はずっと孤独に苛まれていたかもしれなかった。あともう少しで、諦めようとしてた時に、お前に出会ったんだ。
 乱太郎、お前は記憶が戻って早々私と出会って不運だったと思うかもしれないけれど
「私は、お前に出会えて僥倖だったんだよ。」
 そう言ってはにかんだ仙蔵を見てしまった乱太郎は、さらにギュッと抱きつきながらまた泣き、各自か頼んだ品物が来るまでずっとくっついていたのだった。