ナガレ
2025-05-20 19:01:07
17617文字
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【web再録】彼方の呼び声(ぶぜまつ)

2021/8/22超閃華夏大戦内江中心プチ「ごーとぅすてぃじ2」合わせ発行。松井江が顕現しない本丸の豊前と、松井江にしか見えない敵刀が出逢ってしまうIF話。刀剣男士の顕現や時間遡行軍について等、捏造や自己解釈多め。話の都合上、松井(敵刀)が一度折れますが、ハッピーエンドです。
場面ごとにぶぜまつの視点が変わる形に挑戦してみました。書きたいことが書けたような、書けなかったような、分かりにくくなっただけのような。反省。

発行から二年以上経過したので、webに全文掲載することにしました。本を手に取ってくれた皆様方、本当にありがとうございました!
※web掲載にあたり、改ページ等を調整しています。


 時空の向こうにあったものは、綺麗なものに溢れた世界。僕達の生きる荒れ果てた世界とは大違いだ。一度歪んでしまえば、この世界も滅びを待つ荒れた世界に変わってしまうのだろう。
 もし歪んでしまったら、きっと僕達と同じ事を考える。歪みには歪みをぶつけて戻すしかないと。
 いたちごっこ、堂々巡り。いつまで経っても戦いは終わらない。
 ぼんやりとした薄暗がりに覆われた、どうしても憎みきれなくて、捨てきれないあの世界。
 あの向こう側には月が、星が、太陽が、明るいものが隠れている。空を覆う薄暗がりが無くなれば、大地も豊かさを取り戻す。あの霞を払う方法は必ずあるはずだ。
 一打刀の絵空事、戯言だと切り捨てられてもいい。僕は生まれ落ちた世界で綺麗なものが見たいだけだ。
(戻らなければ……
 立ち上がろうとしたけれど、ちっとも体に力が入らない。何故だろうかと考えて、頬に触れた湿った土で気がついた。
 ――僕は破壊されたのか。
 辺りは静寂に包まれており、物音一つ聞こえてこなかった。それも当然だ。すでに戦闘は終わり、敵も味方も引き上げた後。破壊された僕はここに捨て置かれたのだ。
 破壊されたこの身は、やがて砂塵となって消えていく。後には何も残らない。戦場で塵と化す仲間を幾体も見送った。そこに感傷は無い。
 消えたところで味方には打刀一振りの損失として、敵方には打刀一振りの武功として勘定されるだけ。必要なものは刀種と頭数。破壊された個体の事など誰も気に留めない。
 でも僕には、僕だけの名前がある。ただの打刀ではなく、僕を僕として認識するための名前が。
(名前、何だったけ)
 しばらく呼ばれていないから忘れてしまった。思い出したいけれど、僕には時間が無い。手や足先の感覚も無くなってきたし、目を開ける事もできやしない。頭の中も白く澱んできた。
 早く、早く思い出さなければ。彼は僕のことを何と呼んでいた?
『松井』
 ……そうだった。彼の与えてくれた名前は「まついごう」。その五音を少しだけ短くして、僕は「まつい」と呼ばれた。彼にとって特別な意味を持つであろう五音。彼はそれを僕にくれた。いい名前だろうと言って。
 消えてしまう前に思い出す事ができてよかった。


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