バラ肉
2025-05-06 16:58:21
8368文字
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恋の行方は二転三転

兄さんの左手薬指に指輪の痕を見つけたブロの話。

切ない誤解からのラブコメ。


おまけ2



……よく寝てるな」
小さな呟きに合わせるよう、ブロッケンJr.はすぐそばにある男の頬に手を添えた。

目の前で眠るアタルの顔は、相変わらずマスクを付けたままだ。しかし、伏せられた長い睫毛は深い睡魔を表しており——今までは、こんなに安心した様子を見たことはなかった。

「なんだか、くすぐってぇ気持ちだぜ」

いつも胸を張って立っている男の力の抜けた様子に、ついつい顔が緩む。
スリッ……触れるか触れないかの加減で輪郭を撫でる手は、相手を起こさないよう慎重だ。
折角の安らぎの時間を壊したく無い。
穏やかな眼差しはそう訴えていた。
敢えて自分から修羅の道を進む男に、安寧を与えられる。
それは何より幸福で、誇り高く。また、アタルの頬に添えられたブロッケンの左手に嵌められた指輪は、その証なのだ。

『一生、共に生きよう』

目を閉じればすぐに蘇る。
片膝を着いて告白してきた男の様子は当分忘れることは出来ないだろう。

「臭い真似しやがって」

思い出すだけで嬉しさから涙が滲む。
「信じられない」と突っぱねようとした手を掴み、「冗談にしてはキツい」と皮肉る唇にキスを落とした強引な男からのプロポーズは、熱烈で、強烈で、強引で。
泣き虫な男がポロポロと涙を零したのは言うまでも無い。

薬指に嵌められたリングは怖いくらいにピッタリだった。まるで最初からそこにあったかのように違和感が無い。

「キャプテン……
小さく呟いた声は、どこか震えていて。

……アタル、さん」
慣れない響きはまるでハチミツのように甘くとろけ、力無く夜の帷に消えていく。

まだまだ、素の時に相手の本名を呼ぶのは気恥ずかしいのか。照れ臭さに耳が真っ赤に染まる。
しかし、これを真っ向から言えるようにならなければならない。
なぜなら彼は、この美しく強い男の伴侶になったのだから。

……ずっと、アンタが好きだよ」


『思いを告げる』
その意味を持つ自分の誕生花をラペルピンにして贈ったのは、彼が礼装を付ける時の牽制のつもりだった。
こちらの勘違いでイミテーションの指輪を退けてくれた、そのお礼。なんて、下手くそな言い訳を飲んでくれるかは半ば賭けだったのは本人だけの秘密だ。
キン肉アタルが自分でこんな華やかな物を選ぶわけがないのは一目瞭然。ならば、そういうプレゼントを贈る相手が居るということ……と、思われたら儲け物。
だったのに、己の誕生日を祝う日にまで身に着けてきた男に、胸が痛いぐらいに跳ねたのは仕方ない。
“自分のもの”だと証をつけて。ましてや、その格好のまま告白してくるとは、予想外にも程がある。



『愛している』
何度となく吐かれた愛の言葉に流され、散々可愛がられた体は未だ軋む。
しかし、“あの日”感じた胸の軋みとは違い、煩わしさなんて全く感じなかった。
生涯、彼の中でこの愛しさが萎れることは無いはずだろう。

ブロッケンはシーツの中でゴソゴソと動くと、アタルの体に体を寄せ、腕を回した。

「オレも、……あいしてる。それは誰にも負けねえっての」
もちろん、アンタにだって。

負けず嫌いを言い訳に、素直じゃない男は聞こえてない事を前提に思いを吐く。

「だから、ずっと離さないでくれよ」

そう言ってはにかむ顔は、きっとこれまでの誕生日の中で一番輝いていたのだった。




【今度は、揃いの痕を残して】