バラ肉
2025-05-06 16:58:21
8368文字
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恋の行方は二転三転

兄さんの左手薬指に指輪の痕を見つけたブロの話。

切ない誤解からのラブコメ。


【おまけ】



「よし」

その掛け声と共に、アタルはソファに掛けてあったジャケットを羽織った。
先日下ろしたばかりのソレは、しっかり採寸した甲斐あって彼の逞しさを一層際立たせる。すっかりミリタリー柄が板についたものの、やはり元は王族だ。
グレーのスリーピーススーツを着熟す姿は、立っているだけでも迫力がある。
勿論、それは本人も自覚済みだ。

特に姿見で確認することなく襟元を正した男は、近くのテーブルの上に置いていた小箱へ手を伸ばすと、やけに慎重な手付きでズボンのポケットへと収めた。
掌大の大きさは見るからに軽そうだ。
しかし、見た目以上に大切な意味があるのは一目瞭然。
でなければ、この横暴な男がここまで丁重に扱うわけがない。

「さあ、そろそろ約束の時間だな」
手首に巻いた腕時計を一瞥すると、アタルは弾む心を隠そうともせずに楽しげにつぶやいた。
部屋の壁に掛かったカレンダーには、大きな花丸がついている。
日は4月23日。
つまり、彼の恋人である男——ブロッケンJr.の誕生日だ。

「フッ。折角の誕生日だ。……忘れられない日にしてやらんとな」

言いながらドアの方へと進む足は、本人の気持ちとリンクしたように軽い。
いっそ鼻歌でも奏でそうな雰囲気だ。

なぜなら、アタルはブロッケンJr.のことを愛しているのだ。
きっと、相手が思っているよりもずっと、深く、熱く、重く。実際、伝えようとする度「止めてくれ」と相手が恥ずかしさから逃げ出してしまいそうなほど、その愛は大きい。
しかし、変なところで生真面めな青年は、その思いを素直に受け止めてくれないから困りものだ。
『そんなこと言われたって……
呆れたように眉尻を下げては、『大袈裟だ』と壁を作る男は中々手強い。ましてや、父親から箱入り娘さながらに育てられた弊害か。こと恋愛に関しての駆け引きは、生娘レベルから一向に成長しない。

だからこそ、男は相手がどう言い繕うこともできないよう、とびっきりのシチュエーションで想いを告げることを決意した。
逃げ道なんて最初から与えない。
誰よりも用意周到に事を進め、仕留める。
それがキン肉アタルという男である。

……いい加減、年貢の納め時だな」

誰に言うでもなく意地悪く呟いた男は、襟に刺したラペルピンを撫でながら笑った。
特別に拵えた群青色の花の名はカンパニュラ。愛しい男の誕生日花だ。

『自分の任務を全うする為に命を落とした精霊は、その誠実な魂を労った女神により、花となった』——そんな、ブロッケン自身を表すような逸話を持つ花を胸に付け、アタルは青い目を輝かせながら部屋を出る。


『思いを告げる』

その花言葉を胸に。
小箱に忍ばせたリングを、一生涯のプレゼントとして。


「待っていろよ。俺の可愛い“フロイライン”」



【今度こそ、本物のリングを指に飾ろう】