バラ肉
2025-05-06 16:58:21
8368文字
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恋の行方は二転三転

兄さんの左手薬指に指輪の痕を見つけたブロの話。

切ない誤解からのラブコメ。


*****



太陽の照りつける中庭にて。
メンバー達の洗濯物をしまっていたブロッケンJr.は、残り半分になった物干し竿にフゥと息を吐いた。

(早くしないと、訓練に遅れちまう)

いつもならもうとっくに終わっている時間だが、今日は晴天だからとシーツといった大物に手を出したせいか。普段よりも取り込むのに手間取ってしまった。
腕時計の針は、約束の時間まで少し。
ヤバい!急がねぇと!
せっせと人数分のカゴを持ち運ぶ額には、うっすらと汗が滲んでいた。
そして、次は……と自分のでは無い緑の服の前に来た、途端。

……っ」
彼は知らぬ内に、ごくりと唾を飲んだ。

緑の迷彩服は、血盟軍隊長のコスチュームに他ならず。また同時に、ブロッケンにとっては今あまり考えたく無い相手であり——しかし、どうやっても頭から離れない厄介者。

……キャプテン」

たなびく服の裾を掴んで、女々しく名前を呼んでしまう。そんな自分に彼はギュッと唇を噛んだ。

(我ながら、しつこい野郎だぜ)

あれから何日も経つのに、まだ納得しきれていないのか。自重気味に上がった口角はひどく歪で。

……ソルジャー、キャプテン」

それでも、愛しい男の残像を探すよう、風に靡く服を見上げた——その後ろから、

「ブロッケンJr.!!」

聞き慣れた声に名前を呼ばれたブロッケンは、慌てて後ろを振り返った。

「えっ、きゃ、キャプテンッ!?」

するとそこには、案の定……何故か息を荒げて立つアタルの姿があった。

「な、なんでアンタが……ってか、まだスパーリングには時間があるはず」
「聞け、ブロッケン!!」
「っ!?」

突然の登場に戸惑う声を遮るよう、鋭い声が空を切った。

……お前に話がある」

そして、呆然と立ち竦むブロッケンをそのままに、アタルはすぐそばまで歩み寄ると、唐突に己の左手を彼の眼前へと突き出した。

「っ!?」

刹那。
目に入ったモノに、ブロッケンの胸は先日と同じようにギシッと軋んだ。
視界いっぱいに広がる薬指の付け根には、やはりまだあの赤い痣が残ったまま。

「よく見ろ、ブロッケン」

受け入れ難い現実を突きつけられ、顔が引き攣るのを感じた。

……だから、なんだよ」

折角見ないようにしていたのに!
心の叫びを誤魔化すように言い返す声は、悲しいほど震えていて、己の情けなさを実感させる。
こんな時でさえ威風堂々とする男と、なんて自分は釣り合わないのか。そう実感させられる。

(やめてくれよ)

声に出さないセリフを飲み込むと同時に、ブロッケンは堪らず目線を逸らした。

だが、不遜な男はそんな些細な抵抗なんて許さない。

「お前、これが何だと思った?」
「何って……!」

核心を突く言葉に、感情が逆撫でられる。
何ってなんだ!
頭がカッとなる感覚に、閉じていた瞼の裏が赤くなる。
反射的に見開いた目が、睨むように相手へ向けられたのと同時に、

「誰かとのペアリングを着けた痕でも思ったのか?」
「ええ! ハアッ!?」

想像しない爆弾発言に、ブロッケンはついつい情けない声を抑えられなかった。
晒された本音に、口が鯉のようにパクパクと意味もなく開閉する。ショックのせいか、顔色も赤くなったり青くなったりと忙しない。

「べ、別にオレはそんなの気にして……

それでも、どうにか絞り出した声も覇気はなく。よもやその態度が答えになっているなど、考える余裕もないらしい。

しおしおと小さくなる語気に、アタルは己の眉をギュッと寄せた。
アシュラマンが言っていた事はこういうことか。
やっと合点がいった彼は、大きな溜息を吐きつつも、頭を振った。

「気にしていたんだろう?だから最近、俺を避けていたんだな」

「う………っいや、ちがっ。〜〜本当に、そんな」

耳まで赤くなり、言葉に詰まるブロッケンJr.の姿は相変わらず一点の曇りもない。まっさら過ぎるほどに純真だ。

(なんてことだ……

だからこそ、こんな真っ直ぐな相手を惑わしたことに、アタルは我ながら後悔するしか無い。

戸惑いと居た堪れなさに一瞬の沈黙が走った後。
アタルは唇を噛み締めるブロッケンをジッと見つめながら、静かに言葉を続けた。

「これはそういう類の物じゃない。キン肉星にいる時だけつけるフェイクの指輪の跡だ」

「フェイクの……?」

「そうだ。飽く迄カモフラージュ。……虫除けでしかない。だから俺にプライベートな意味での相手はいない。いるとしたら、それは……

皆まで言わず注がれる青い視線。その意味は、彼のことを誰よりも理解しているブロッケンが分からないわけがなく。
忙しなく目を彷徨わせながらも、彼は顔の前にある一回り大きな手に掌を重ね、指を絡めた。
あの日、氷のように冷たかったのが嘘みたいに、熱さを纏って。

……オレは、自信を持って良いってことか?」

照れくさそうに呟く台詞に、マスクの下の顔が一気に緩む。誤解が解けた事への安堵もあるが、色々飛び越えて思いを確認し合えるなんて。年甲斐もなく嬉しいのか、細くなった目が意地悪く光る。

「もっと具体的に言っていいんだぞ?」

「えっ! いや、そ、そこまでは急すぎるってか!」

「ブロッケン」

「〜〜ッもう、勘弁してくれよ!!」

顔を両手で覆い、恥ずかしさに身をよじるブロッケンを、アタルはこれみよがしにソッと抱きしめるのであった。




*****



「どうやら、上手くいったようだな」

アシュラマンの言葉に、物陰から彼等の様子を覗き目見ていたニンジャとバッファローマンは、親指を六つ立てる立役者に向けて、満足げに頷いていた。

「これで当分、雰囲気も良くなるだろ」

「ふむ。多少上手く行きすぎた気もするが、まあ拙者たち悪魔がお膳立てしたのだ。当然だな」

「全くだ! これだから正義超人というやつは!」

なんてニヤニヤと笑う悪魔達は、自分達の隊長と最年少メンバーの恋の行方を想像して目を細めるのであった。