mishiadd
2025-04-10 09:24:49
27927文字
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海外出張社畜 宮本伊織くん

【転生/現パロ】エレガントチートで武士仕草が全部上流階級仕草に変換されるのでなぜか無双状態になる海外出張社畜宮本伊織くんと限界海外遠征先輩社畜ヤマトタケル先輩の愉快な現代お仕事コメディ【剣陣営】


2.限界海外遠征社畜 ヤマトタケル先輩

ヤマトタケルノミコト――言わずと知れたヤマト王権最強の殺戮装置、もとい、父王の勅命により異郷へと赴いてはまつろわぬ民をことごとく服従せしめた最終兵器である。

充分な兵力も与えられず無茶な日程で方々へと遣わされてはほぼ単騎で征伐したその実績は目を瞠るばかりだが、実のところ父王のその人使い――息子使いの荒さには内心で困り果て、愚痴をこぼしていたという逸話も残っている。

そもそもが父王の勅命の解釈に関する誤解から親子の間に亀裂が入り、以来父王はこの恐ろしい息子を疎んじ、あわよくば遠征のさなかに命を落としてしまえばいい――などと目論んでいた、あるいは少なくともタケルの方は父王がそう考えていると思っていた――という見方も当然できる。

他方、この人使いの荒さを、現代社会の我々は知っている。

部下に雑な指示を出したらなんだかうっかりできてしまったので――しかも一度実績としてやれてしまうとどうしても経験者としてそこに仕事が集まってきてしまうので――そうなると経験者の絶対数は増えず、同じ人員にばかり更に仕事が集中してきてしまうので――そしてなぜだかうっかりできてしまっているので――

仕事のできる人間しごできには当然のように仕事が集まる。あまりにも見慣れた光景である。

ヤマトタケル。――あるいは、一度海外遠征を経験した者には当然のように海外遠征の仕事が集まる、という企業あるあるを最初に経験した哀しき社畜、という言い方は――否、さすがにやめておいた方がいいかもしれない。







翌日定時後、セイバーと伊織は連れ立って粛々とモノレールに乗って無事に羽田入りし――無事にパスポートも忘れることなく――諸々の手続きを済ませて搭乗ゲート前でくつろいでいた。
くつろいでいた、と言っても深夜便であることは確定しており、しかもエコノミークラスであることも確定していたため、伊織の方はといえばセイバーの指示で持参したアイマスクを装着してベンチで目を閉じていた。

「よいかイオリ」とセキュリティチェック後に購入した小さな紙パックのオレンジジュースをストローで飲みながら、険しい顔をしたセイバーが静かに言った。

「飛行機の上で眠れるかどうか――は、完全に個人の適性に拠るものだ。眠れる者は飛行機が離陸した瞬間に寝落ちできるし、眠れぬ者は待てど暮らせど一睡もできぬ。正直、イオリがどうなのかは乗ってみるまでわからぬ。であるならば、少しでも地上で体を休めておけ」
「む……

本日分の通常業務をこなした上でやってきている羽田空港であった。アイマスクの隙間から腕時計をちらりと見遣れば、針はまもなく0時を指そうとしている。確か行き先は時差が-3時間であったので、あちらの早朝に着くということは――実は、時間だけはそれなりにある。
眠れなければ眠れなかったで機上モニターで映画など見て過ごそうか、などと呑気に考えているうちに、優先搭乗の案内がかかる。起き上がろうとした伊織を制して、セイバーが自嘲気味に言った。

「イオリ、一体なにを勇み足になっている? これは優先搭乗だぞ。我らの順番がくるまであと二十分はかかろう。まだ寝ていろ」
「そんなにかかるのか。……いやに刺々しい物言いだな、一体どうした?」
「優先搭乗――であればどれだけよかったことか。フルフラットビジネスクラスとまでは言わぬ、せめてプレミアムエコノミーであれば――

ふるふらっ――」と伊織がぽかんとして繰り返すと、優先搭乗の列を見ながらひそひそとセイバーが言った。

「『エコノミー症候群』という言葉もあるだろう。あのように狭い座席に縮こまって長時間同じ体勢でいては、運よく眠れたとしてもよくて電車やバスでの居眠りだ。現着して一旦ホテルで仮眠がとれるというならまだしも我らはそこからすぐに働き出すのだ、せめて移動中にまともに仮眠と呼べるものをとっておきたかったものだ」
「なるほど。――いやしかし、貴殿は確か」

親の七光りなどとはとんでもない、実力主義の海外営業部において万年の絶対的エースを張っている社長令息みこ――の強さの秘訣の噂のひとつを、伊織は耳にしていた。

「確か貴殿、どこでも眠れる――という話ではなかったか。なんなら、公園の入り口にあるアレくるまどめに浅く腰かけたままでも」
「当然だ。言っただろう、これは適性の問題なのだ。機上に限らずどこででも眠れるというのは我らにとって重要な才覚だ。――やれマットレスが変わっただの、枕が変わっただのといって睡眠不足に陥っている暇など我らにはないのだからな。そうでなくとも時差が変わっているのだ」
「では何故」
「私はよいのだ。きみの話をしている」
「うん?」
「初日からきみに倒れられでもしたら私が困るのだ。せめてきみがもう少しゆっくりできる座席を確保しておきたかった。――仕方がない、これも社内規程だ。ほら、何をしている。あと十五分は目を閉じていられるぞ」
「うん――

言われるままに目を閉じ、うとうとと意識の混濁を覚えつつ、やがて「イオリ」と肩を揺すられた。

「我らの座席が呼ばれた。行くぞ。あれからきっちり十五分経った、少しは休めたか?」
「ああ――うん」
「うむ? きみ、割と適性があるかもしれないな。……ゆくぞ」

時間が時間のためか、どことなく疲れた様子の搭乗客に混じって列に並び、搭乗券をかざして中へと入る。てきぱきと席を案内する乗務員に促されて自席を探し出す。後方寄りの窓側の二席だった。
席を見下ろしながらセイバーが伊織に尋ねた。

――イオリ。きみ、窓側を好むか?」
「いや、特には」
「そうか。であれば、きみは通路側に座れ。眠れればよし、眠れなければ機体が安定したら適当にそのあたりをうろついてみることだ。そうやって体が凝り固まるのを防ぐのだ」
「わかった。貴殿は是非窓側で景色を楽しんでくれ」
……きみ、まさか私がきみから窓側を奪ったとでも思っているのではないだろうな?」

にこやかに言ったつもりの伊織をセイバーが怪訝そうな顔で睨みつける。「……ん?」と伊織が小首を傾げた。

「奪った、などとは思っていないが――貴殿が窓側を好むのならば、俺に文句などないよ。好きな方に座ってくれれば」
「あのな。―― プライベートで乗っている客であれば窓側を好むこともあるだろうが、仕事で乗っている連中で窓側を好むやつなど今更いるものか。私がこの便に何十回乗っていると思っているのだ

伊織がきょとんとして目を丸くすると、「ああもう」とがりがりとセイバーが頭を掻きむしった。

きみに通路側を譲ったのだ! もう少し感謝してほしいものだ。通路側の席の方が窓側に座るより身動きがとりやすいし、閉塞感もいくらかマシだろう。きみが一緒でなければ私が通路側に座っていたものを――
「ヤマト様」

上品な物腰の乗務員に声を掛けられ、セイバーがそちらに目を遣る。伊織の目の前で一通りの挨拶が交わされたあと、「何かございましたらご遠慮なくお声掛けくださいませ」との言葉を残して、彼女が去る。
ふう、とセイバーが一息つき、さっさと窓側の席に座り込んだ。その隣に伊織が腰を下ろし、「――今のは」と尋ねる。

フフ、とセイバーが幼い可憐な顔立ちに似合わないひどく自嘲じみた笑みを浮かべたあと、言った。

「見てわかるだろう。――挨拶にきてくれたのだ」
……挨拶に?」
「私は――『お得意様』というやつなのだ。……私はこの便に、乗り過ぎている

その言葉に、伊織が先程の乗務員が去っていった方角にぱっと目を遣る。もはやその姿は見えず、コンパートメントに荷物を詰め込んでいる乗客の姿が見えるだけだった。
視線を隣のセイバーに戻して、伊織が問うた。

「『乗り過ぎている』――とは」
「うっかり通い詰め過ぎてしまったコンビニで『いつもありがとうございます』と声を掛けられることはないか? うっかり立ち寄り過ぎてしまったコーヒーショップで『いつものですね』と声を掛けられることは? そういうことだ」
――これは、国際便の飛行機だが――
「国際便の飛行機だ」
乗り過ぎ――
「往復便を三日おきに繰り返していればここがファミレスだったとしても顔を覚えられるであろうよ」

はあーあ、とやたらと湿った溜息をついたあと、セイバーが窓の外に目を遣る。滑走路に向けてちかちかと光る青い灯りを眺めながら、「シートベルトを締めてアイマスクをつけよ、イオリ。眠れるか試してみよ」と乾いた声で言った。

まもなくして機内アナウンスがあり、機体が動き出す。心地のよい振動に揺られながら、アイマスクを少しだけ上げて伊織も窓の外を眺める。――やがては遠くなっていく地上の灯りを目の端に捉えながら、ゆっくりと目を閉じる。