mishiadd
2025-04-10 09:24:49
27927文字
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海外出張社畜 宮本伊織くん

【転生/現パロ】エレガントチートで武士仕草が全部上流階級仕草に変換されるのでなぜか無双状態になる海外出張社畜宮本伊織くんと限界海外遠征先輩社畜ヤマトタケル先輩の愉快な現代お仕事コメディ【剣陣営】

1.海外出張社畜 宮本伊織くん

そもそも浪人・宮本伊織は武士階級として受けた教育由来のその優雅な所作で相当得をしている、ということはもっと指摘されてもいいのではないだろうか。

顔立ちの造作や立ち姿の見目、第一声で耳に入る声質がことごとくよいため第一印象はもちろん良い。人間は第一印象が九割――諸説あり――とは言うが、とはいえ残りの一割で失敗することだって大いにあり得る。が、宮本伊織の場合は心配するに及ぶべくもない。ただそこに居るだけで相手のうっすらとした好意を獲得した上で、更に続く所作や言葉遣い――武士階級という上流階級の作法によって好意的な第一印象は確信へと変わり、信用度は勝手に爆上がり、その結果容易く人々の懐に入り込んで聞き取り調査などを行い、難なく得たい情報を得ることができる。彼が詐欺師という天職に出逢わなかったことは世の中にとっての幸運であった。

圧倒的顔面偏差値フェイスカードに加えて相手の潜在的な信用と憧れを引き出す上流階級仕草。

を、駆使して慶安四年の宮本伊織は堅実に盈月の儀を進めたが。



つまり、これらの資質は、もし詐欺師として活用されないのであれば――



次点としては極めてそれに近い職業、――すなわち、『営業職』の適性である(諸説あり)。







東京証券取引所プライム市場上場企業ヤマト・キング・コーポレーション。

昨年四月に新卒採用されて一年が経過し、研修と称していろんな部署を数か月毎に点々としながら「そろそろ社会人というものにも慣れてきたかもしれない」――などと呑気に思っていたところで突然社長に呼び出されたので顔を出した今年度から二年目社員の宮本伊織であった。

社長室に入るなり「当社が海外進出を目論んでいるのは知っているよね」と随分フランクな口調で語りかけられ、「は、」と軽く頭を下げたところで、「で、ちょっと出先として『海外支社』作ってきてもらえるかな」となんでもないことのように言われた。

「は。――は?」
「海外進出していくにあたって足がかりが要るじゃない。駐在員置くにしても箱が要るっていうか。だから、作ってきてくれない?」
「は、はい……?」
「宮本くんさ、去年一年間で結構いろんな部署経験したよね? 経理部、人事部、法務部」

「国内営業部、海外営業部」と指折り数えた社長がそのまま人差し指で、こつん、と机を叩いた。

「やってないのIT部くらいじゃない。――だからさ、できるよね? 現地法人かいしゃのひとつやふたつ、ひとりで行ってちゃちゃっと設立してこれるでしょ」

「? ――??」と、普段冷静沈着な伊織にしては珍しく頭に大量の疑問符を浮かべながらフリーズしているところに、重ねて社長が言った。

「さすがにひとりだと不安ってことなら、うちの次男坊つけるから。――あの子そういう海外遠征得意だからさ、ね?」

「んじゃ早速で悪いけど明後日くらいから現地に飛んでもらえるかな、所属部署の庶務さんに飛行機フライトの手配とかお願いしてね、あとはよろしく」と言うだけ言って勝手にPCに向き直ってしまい、話は終わったとばかりに控えていた秘書に退出を促されてしまう。
ばたん、と重厚な扉が背後で締め切られたところで、とと、と伊織が廊下にまろび出る。『明後日から』『海外に飛んで』『会社を』『ちゃちゃっと』『作る』? ――伊織が知らないだけで『会社』とはチャーハンの別称か何かだったのだろうか。

「イオリ」

疑問符を浮かべたまま声のした方に目を遣ると、現在の所属部署である海外営業部の先輩が立っていた。

「ヤマト先輩」
「その響きのすべてが嫌いだ、セイバーでいいといつも言っているだろう。まだるっこしいから敬語もよせ。――父上に呼び出されたのだな?」
「はい。――ああ。明後日から現地に飛べと」
「父上はいつもそうだ。私が無茶な指示の仕事を終えて戻ってきて、ようやく人心地ついたと時差と疲労でぜいぜい言っていようがお構いなしに呼びつけて、やれ明日から別の異国に遠征だ、海外のまだ見ぬブルーオーシャンまつろわぬ市場をことごとく征服してこいだのなんだのと」

「過労死させる気か」とぶちぶちと文句を言ったが、途端に昏い顔になって口を噤んだ。恐らくはあまり冗談になっていないと思い至ったからだった。
セイバーが腰に手を当てて伊織を見る。「――で」とたっぷり間をおいて言った。

「『私をつける』と言っていたか」
「あ、ああ――ああ。言っていた」

チッ、と伊織の目にも明らかに不機嫌そうに舌打ちをする。何事かと思えば、「きみが悪いというわけではないのだが」とまったく真心のこもっていない平坦な口調で言った。

正直足手まといだ。私がではない、きみがだ。――好きでやっているわけではないが、私にはそれなりに海外遠征の経験がある。というよりむしろ、斥候と言えば聞こえはいいが鉄砲玉のような扱いで方々に単騎で乗り込まされてはたったひとりで縁もゆかりもない現地での海外営業を散々させられてきた。それを、今更のろのろときみなんぞについてゆけなどと――
「気持ちは――わかるが」

ふむ、とかたちのいい顎に手を当てて伊織が考えるそぶりをする。それから言った。

「しかし、今回の任務が『現地法人設立』である以上、それ相応の専門知識が要る。営業一筋で今までやってきたセイバーひとりでは完遂は無理だ。そういうことだろう」
……ふん。まあいい」

納得しきっていないそぶりでゆるゆると頭を左右に振り、それから言った。

「『明後日から現地に飛べ』――と言われたのだな? ……であれば、明後日には現地で活動を開始しろ、という意味だ。フライトは明日になる。この調子だと深夜便レッドアイだな」
……うん?」
「明後日の早朝に現地入りして三泊四日、四日目の深夜に同じく深夜便レッドアイで戻ってきて翌朝から出社し現地で得た情報を整理して報告し上層部の決定を仰ぐ。それを持って再び現地入りする」
「うん? ――うん?」
「再び現地で三泊四日。この工程を繰り返す。――イオリ、四日分が入るスーツケースはあるか。最悪必要なものはすべて現地調達すればよいからパスポートと貴重品さえ持参していればそれでいいのだが」
「セイバー。セイバー、セイバー、ちょっと待ってくれ」

額を押さえて頭を左右に振った伊織が、口の端を引き攣らせながら言った。

「さすがにそのスケジュールでは過労死してしまう。俺は生身の人間なのだ」
「奇遇だな、私もだ」

自嘲気味に嗤い、セイバーが言った。

「イオリ。――きみ、知らなかったのかもしれぬがな。ここは私が知る限り、創立以来筋金入りの立派なブラック企業なのだ。少なくとも、私と組んだ以上はそうなる
「そんな。……貴殿が社長おおきみの血を引いているというだけで」
「いやまあ、だけというわけではないが。――できてしまったのでな」
「うん?」
「父上の無茶振りにうっかり応えられてしまったのでこうなった。……社畜とはそういうものなのだ、イオリ。覚えておくのだぞ」

伊織に背を向けてそう言い放ったセイバーの小さな背中に哀愁が漂う。社会人二年目の伊織がその心中を慮りなにも言えずに押し黙っていると、やがてセイバーが言った。

「よい。――まあ、きみはなんの役にも立たぬだろうが、せいぜい私が開拓した美味いローカル飯屋にでも連れて行ってやろう。――よいかイオリ、明日は普通に出社して通常業務を行ったあと、定時後に羽田に移動して深夜便に搭乗する。だから、明日の出社時にはきみのスーツケースを持ってくるのだ。……よいか、絶対に忘れてはならないのはパスポートだ。パスポートさえあればなんとでもなるが、逆に言うとパスポートがないと本当に詰むからな」
「実感がすごいな……?」
「『空港にパスポートを持参し忘れた』エピソードは一度起こしてしまえば確実に社内でネタにされ続ける。下手をすれば十年経っても『新米海外出張者への戒めとして』などといって面白おかしく口伝され続けるからな。時代が時代なら間違いなく個人の逸話として古事記に残されてしまう。だからやらかすな

言うだけ言うと、かつかつと踵を鳴らしてセイバーが廊下をくだっていく。その後姿を眺めながら――とりあえず帰りにスーツケースを買うところから始めてみようか、と思い、伊織が頭を掻いた。