Hizuki
2025-04-07 21:55:21
11947文字
Public あんスタ[薫あん]
 

あんスタ過去ログまとめ[薫あん]

【あんスタ】薫あん。ついったに画像のみで上げたSSのテキスト版まとめ。



『お手上げデートプラン』


「羽風先輩、肉が焼けたぞ」
ありがと、アドニスくん」

いい焼き加減になった肉を網の上から引き上げて、アドニスくんは俺のお皿に乗せていく。他のものより多く肉が乗せられているのは、今の俺を見たうえでのあの子なりの優しさなのだろう。

「はぁ~

ありがたいやら情けないやらで、深い溜め息が自分の口から漏れる。そんな俺の隣から零くんの楽しそうな声が聞こえた。

「くくく、こんな薫くんを見るのは新鮮じゃわい」
零くん楽しんでるでしょ」
「そんなことはないぞい?とはいえ、我輩の相方の一大事でもある。故にこうして皆で集まる場を設けた、という訳じゃ」

手にしていたカップをテーブルに戻すと、零くんは真面目そうな声で大げさにそう言った。

「いやいや、元々今日はそういう会じゃなかったでしょ。単純にみんなでご飯行こうっていう話だったじゃん」
「うん、そうじゃったかのう?」

十二月最大のイベント事の日に二日続けてオフが当てられるという異例の事態になり、それなら久し振りに揃ってご飯に行こうという話になったのが今月の頭の話。お店の選択を後輩達にお任せしたら、都会のど真ん中のビルの屋上でバーベキューができるなんていうところを見つけてくれて、そこの予約を取った。もちろん、みんなのプロデューサーであり、俺の恋人でもあるあんずちゃんに先に自身のオフを伝え、彼女の予定を聞いてみれば、二十五日は空けてある、という答えが返ってきて、デートの約束をしたまではよかった。

つかテメ~らしくね~じゃね~か。そのデートプランが決まらね~なんてよ」

すっとぼける零くんを放置していると、アドニスくんと一緒に肉を焼いていた晃牙くんが口を挟んだ。普段ならデートプランという単語を言うのに一呼吸置いたのを少しからかうところだけれど、今日の俺にそんな余裕はない。代わりに続くのはもう何度目になるか分からなくなった溜め息だけ。

「だよねぇ。仕事が忙しかった、っていうのを言い訳にしたくはないけど、実際今月の俺達忙しかったじゃない?」
「そうだな。先輩達は特にスケジュールが詰まっていたように思う」
「だから色々リサーチに手が回らなかったんだよね

オフの日程を考えれば、当然仕事は月の頭から昨日までみっちりと詰められていた。年末年始の番組の収録やら、CM撮影やら、その合間に新曲のレコーディングにレッスン、雑誌のインタビュー他にも色々と山積みで、帰っては寝るだけの三週間を過ごした。基本的に移動時間は足りない睡眠の補填に回り、その時期の催し物やお店のことを調べているような余裕はほとんどなかった。

「しかも直前この時期となれば店なども予約はもう取れぬであろうしな」
「そう。だからこうして頭抱えてるってわけ

一生の不覚と言ってもいい。キャンセル待ちを狙うにしても同じことを考えている人達は当然いるし、むしろ今から順番待ちに並んだところで回ってくるはずがない。冷めてしまう前にとアドニスくんが取り分けてくれた肉を口に運ぶ。あ、おいしい。今日一日コーヒーと簡単なものしか口にしていなくてお腹が空いていた分、おいしさが上乗せされている気がする。

確か今日は嬢ちゃんは現場ではなかったはずじゃな」
「ああ、何も予定書いてなかったぜ」
「溜まっている書類を片付けると言っていたから、きっとESにいるだろう」
「よし。晃牙や、嬢ちゃんに連絡を取ってここに呼んでおくれ」
「おう!俺様もそうしようと思ってたところだぜ!」
え?」

現実逃避をするように肉に舌鼓を打っている間に、何やらおかしな方向に話が進んでいた。

「ちょっと晃牙くん⁉」

俺が引き留めるより先に晃牙くんはスマートフォンを耳に当て、電話の向こうの相手と楽しそうな声を交わしている。

「あんず来るってよ!」
「おお、それは何よりじゃ。さて、一人分追加せねばならぬな」
「俺が行こう、朔間先輩」
「頼んだぞい、アドニスくん」
「あの、本当に待って?」

零くんが晃牙くんの返事に大きく頷いた。追加のオーダーをしに行くアドニスくんの後ろ姿に手を伸ばすも、届くはずがない。あんずちゃんがここに来ることはもう覆らないらしい。

「決まらね~ならどんなのがいいか本人に聞きゃいいじゃね~か!」

晃牙くんが言うことはもっともなこと。そこに零くんが言葉を続ける。

「そういうことじゃよ。直接聞かずとも嬢ちゃんの顔を見れば、多少は気分が晴れるのではないかえ?」

確かに本人に聞くのが一番早い。とはいえ、それは本当に最終手段で、誘った側としては一番使いたくない方法でもあって。だってそれじゃ俺の格好がつかないじゃん。まあ、そんなことを言っていられる状況でもないのもまた事実。

「も~!」

みんなが気遣ってくれているのは重々承知している。ありがたい限りの話。本当にいい仲間に恵まれたなぁ、なんて思いながら、今からどんな顔であんずちゃんに会ったらいいんだろう、と別の悩みが増えたのは言うまでもない。