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いまさら
2025-03-31 14:59:52
37991文字
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永い一瞬
世界観の独自解釈・多大な捏造
星の神が星の世界を作ってファさんが星の民になるまでのファーベリ(と言い張る)
ベリアルの髪が長い
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序章
光とは、波であり、粒である。
ここでそれを感知したことはない。
この暗闇で覚醒してから途方もなく長い時間が経つというのに、光はただの一度も私の前に現れず、私を闇に閉じ込め続けている。
そもそも光など、この徹底した暗闇に存在しているのだろうか。
あるいは、光はあるが、この空間の物理法則が破綻している、または特異な性質を持つために光の観測が困難になっている可能性は考えられないか。
例えば、この暗闇に光を吸収する特性がある、という仮説を立ててみる。その場合、光はすべて吸収されどこにも届かないのか、それとも僅かにでも届く範囲があるのか。もしかしたら、この闇を漂う中で気づかぬうちに光源の近くを通ったが、その光が到達可能な範囲内に私が入ることはなく、ただ通り過ぎてしまったこともあったのかもしれない。
認識できない微細な粒子が空間に舞って光を散逸させている可能性もある。もしそうなら、その粒子を取り除けばここまで光が届くだろうか。
粒子ではなく、光を打ち消す完璧な波長がどこかから発されていたとしても、この暗闇の説明に足る。この空間が闇を保つためにそうした能力を有している
……
などと考えるのは妄想が過ぎるか。
しかし、そんな妄想が生まれるほどにこの空間は闇に徹しているのだ。僅かな光も許さない、揺るぎない晦冥。
こんなふうにあれこれと考えを巡らせるのはこれが初めてではない。繰り返し、何度も何度も光と闇について考える。時に新たな説に思い至ることもある。思索を重ね、可能性の数は増えていくが、いずれも仮説の域を出ない。
歪んだ空間が光の屈折や反射を阻害し、進行方向を逸らしたり光をどこかに閉じ込めたりしているという説も悪くない。
時間が止まっている、という可能性も考えたことがある。そうだとすればその制約を受けずに動き回っている私とは何なのかを考える必要があった。
そうだ、私自身に問題があってもおかしくない。
私には光を感知する能力が備わっていないと仮定する。実際は、周囲には光の波が広がり、粒子が飛び交っているが、私がそれを認識できないだけなのだ。こう考える方が自然かもしれない。
この暗闇を進む中で、壁に当たって行く手を阻まれたことはなかった。私以外の意思を持つ何かに出会ったこともない。闇だけが永遠に広がっていて、私はそこを制限なく、思うままに漂うことができた。それは私自身が実体のない波や質量を持たない粒子のような存在であるために、あらゆる物体をすり抜けているからかもしれなかった。
確かめる術はない。私にできるのは思索のみなのだ。
とにかく、私の世界には光がなかった。暗闇の中で光を求め続ける。
光とは、祝福であり、呪いである。
そして闇とは、呪いであり、祝福である。
なぜ私は呪いと祝福の中をいつまでも彷徨わなければならないのか。これについて考えるのももはや何度目か分からない。
いつからここにいるかという情報は重要だが、一番古い記憶を思い返しても、私はやはり闇の中で今と同じように光を探していた。それ以前の記憶はない。
では、光について知っているのはなぜか。思い出せないだけで、光のある世界にいたことがあるのだろうと推測するが、その光のある世界とは一体どこなのだろう。ここではないどこか別の場所かもしれないし、元来ここにあった光が失われたのかもしれない。
いずれにせよ、私は光について知っているというだけで、それを確かに存在するものとして感じた瞬間はなかった。
ただ、確信だけはある。光は必ず存在し、いつか私の前に現れるのだと。
夢の中にいるのかもしれないと考えたこともある。ここは覚めてしまえばすぐに忘れる、冗長でつまらない夢の中。そうだとすれば、はやくこの夢を終わらせたい。ここで光を見つけることがその手がかりであるような気がしてならない。
私は夢という現象についても知っているようだ、とふと気がつく。それでも、いつ、どこでその情報を得たのかは思い出せない。夢。眠っている間に生まれる幻覚。ここに来てから一度も眠りについていない。ここが夢の中だとすれば、眠る必要はないのかもしれない。
眠りとは肉体を持つものに生じる状態だ。私は肉体を持っていない。ここでは、私の意識と暗闇だけが相対していた。
では、意識とは? その正体について考えたことはなかった。おかしな話だ。まず初めにここにある私自身の意識とは何なのかを考えるべきだったのだ。
それに気が付いた瞬間、べっとりと生ぬるい空気がまとわりついてくるのを感じた。同時に、どこかから冷たく濡れた硬さが伝わってくる。これまでに経験したことのない感覚だった。
反射的に〝体〟が動いた。〝指先〟で自らの〝頬〟や〝肩〟や〝足〟に触れてみて、それらがそこにあることを確かめる。たった今、意識が肉体に閉じ込められてしまったと理解した。
かつて自身の知覚の内に存在しなかった天地の感覚もある。得たばかりの足はしっかりと地面の上に乗っていて、先ほど感じた冷たい硬さはこの地面から足裏に伝わる感触であることを知る。この空間には重力がはたらいているようだった。
体を得てしまったので、これからはこの闇を歩いて進んでいかなければならない。衣服が擦れる音や体の重さなど、脳内に流れ込む情報が一気に増えて内外から圧迫されるような息苦しさを覚える。
思えば、体を持たずに意識だけで闇を彷徨っている間に音を聞くことも温度を感じることもなく、それを疑問にも思わなかった。
光について考える際に、自身に光を認識する機能がないためだ、と仮定したことがあるが、案外当たっていたらしい。あのとき、自身の状態──波か、粒子か、または他の形だったのか、形すらなかったのかはこの際問題ではない──に考えが及ばなかったのはなぜか。どうして自分の正体を追究しようと思わなかったのだろう。
突如として肉体が生まれたことへの抵抗はあるものの、肉体のある状態は元より知っていたように思う。思いのままに手足を動かし、意識せずとも呼吸をしている。血を巡らせるために心臓が脈を打ち、血液が全身に酸素を運んでいる。今は確かに知っているこの事実を、これまで思い出せなかった。それはなぜか。
時間経過とともに記憶や体を構成している最中である。
もしくは思考や記憶に制限がかけられている。
あるいは、記憶を失っているという〝情報〟を持たされていて、受容した感覚も知っていると思うように〝設定〟されている。
他にも説は考えつくが、いずれにせよ今の自身の状態は自分以外の何かの力によって作り出されている。
────誰が、何のために俺にそれを施した?
突如、腹の中に炎のような熱が生まれた。熱は一瞬で燃え広がり、全身を支配する。腹部に手を当てても熱は伝わってこず、実際に火がついているわけではないと理解するが、それでもなお焼かれるような苦痛が続く。耐えきれず、その場に崩れ落ちるようにうずくまると長い髪が背を滑り落ちて地面に広がるのが分かった。
何もかもが煩わしい。
この空間も、体の重さも、依然として闇以外を映さないこの目もすべて消えてしまえばいい。
地面に倒れ込んだまま体を捩って空中を見やる。瞼を開いても閉じても見える景色は変わらない。聴覚や嗅覚は機能しているが、視覚にはたらきかけてくるものはない。
体内の火は消えずに燃え続けているが、胸の奥は凍りつくような冷たさで満ちていた。
「許さない」
そう声に出してから、口が利けるのかと思い至る。言葉を知っている。そうだ、これまでも言葉で思考してきたはずだ。話し相手など自分以外にいないのに。
許さない。その対象は何だろうか。俺を闇へ追いやった誰かへの恨み、誰かの意図の通りにしか存在できない自分への憎しみ。
他者の言いなりでこんなところに閉じ込められるわけにはいかない。こんな馬鹿げた世界に付き合ってはいられない。
体を起こし、先ほど得たばかりの手で地面に触れる。ここは恐らく岩場だ。地面は硬く、爪を立てることすら叶わない。手に触れた小石を拾って前方に投げてみるが、それが地面に当たる音が聞こえなかった。岩はこの先に続かず、崖のように切り立っている可能性がある。硬い岩に膝をつき、手探りで周辺を確かめようとするが、自身の長い髪に動きを阻まれて苛立ちが募る。
この体もこの意識も自分が望んだものではない。この状況を望んだ覚えはなかった。すべてを終わらせなければならない。
どれだけ歩いても闇が途切れることはない。壁に突き当たることもなかった。石を投げ、声を上げてみても音は闇にのまれるだけだ。地面のほかに音を跳ね返す物体も存在しないように思われた。この地面というのもおかしなものだ。そこにあるというより、足を踏みしめる箇所に地面が生まれていくような奇妙な心地だ。自分が歩みを進めるからこそ、空間が伸びて広がっていくように思われるのだ。
そのうちに、この空間は今作られている最中なのだと悟った。自分が肉体を得たように、この闇も輪郭に閉じ込められていくのだ。
歩き続けていると、自分が進む先に地面があるか、障害物はないか等の心配はしなくなった。亀裂があって、そこに落ちてしまっても構わない。大岩に行く手を阻まれても構わない。むしろ、そうした異常を欲するようになっていた。それほど長い間ここを歩いている。
この状況に苛立ちや苦痛こそあれど、肉体的な疲労は全く生じなかった。だからこそ、どこまでも進まなければならなかった。
俺は何を望んでいるのだろう。ここから出たいのか、出たあとはどうしたいのか。ここではない、この状況ではない別の何かを望んでいるはずなのに、どうしてか暗闇以外の景色は思い浮かばなかった。他の場所を知らないから想像できないのか、あるいは本当はここに留まっていたいのか。
自分について知っていることがあまりにも少なかった。
ぬるい空気に肌を撫でられて暗闇に意識を戻す。わずかだが空気に流れが生まれている。どこかから風が吹いているようだった。
風を受けて、暗闇の他の景色が思い浮かばないのは、自分には元来視力が備わっていないからかもしれないと思った。では、欲する温度や音や匂いは、と考えを巡らせる。これらについてはいくらか心当たりがある気がした。それを思い出そうとして、この背に伸びる長い髪の重さは俺のものではない、俺が望む状態ではないと改めて思い至る。これを手放す代わりに自分は何かを思い出すことができるのではないか。長い髪に指を通し、切り落とす方法を考えながら闇の中を進む。
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